2020年12月のテーマ

クリスマスにはクリスティーを!

第二回は、

「ポアロのクリスマス」

アガサ・クリスティー 著、村上啓夫 訳

ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2003年発行

 

 

です。

 

クリスマスシーズンのお話なので、今の季節に雰囲気がぴったりの作品です。

 

クリスマス休暇、ゴーストン館に久しぶりに家族全員がそろいます。

館の主人である、シメオン・リー氏は若い頃は恐れ知らずの冒険者で世界中を旅していましたが、今では年老いて病気がちのうえ足が不自由で車いす生活を余儀なくされています。精神的には未だに衰えてはいないので、現在の自分に不満を抱いており、かつてのように自分の力を取り戻したいとの思いがあります。体は不自由になったけれど、家族に対して財産という力を持っている彼は、やがて遺産を受け取る子供たちに意地の悪い態度を取ります。

子供たちはそれぞれタイプが違っていて、仲が良いとは言えません。

みんな、経済的には裕福ではなくて、父親の財産は魅力です。

こうして舞台は整いました。

不愉快な金持ちの老人が殺害され、たまたまこの地方の知人を訪ねていたポアロが、事件解決に乗り出すというお話です。

 

前回おすすめした「死との約束」でも不愉快な老人が被害者となっていますが、ある意味であの作品とこの作品では真逆のお話といえましょう。

「死との約束」では舞台が中東で、暑い気候にエキゾチックな雰囲気。被害者は"不愉快な"では済まされない支配的な人間でした。容疑者の誰にでも機会があり、動機もあり、方法も早い段階で判明します。誰が嘘をついていて、誰が本当のことを言っているのかを吟味するのがキモの作品なのです。

それに対して「ポアロのクリスマス」では、英国のクリスマスに実家に集う家族たちという、英国人にはお馴染みの舞台で起きる殺人事件です。被害者は不愉快な金持ちの老人であり、遺産相続がらみのいざこざの上、密室殺人で殺害方法もよくわかりません。ミステリに必要なものが全部そろっている作品、という感じです。非常にスタンダードなミステリーと言いましょうか。

それだけに、謎を解いてやると意気込む読者には面白い小説だと思いますし、人間模様の方も兄弟それぞれの立場があって面白いです。

さらにいうと、私のように英国のクリスマスの過ごし方や古くからの習わしといったディテールに興味を持つ人間にも楽しい作品です。

 

ポアロとクリスマスの事件といえば、短編の「クリスマスプディングの冒険」も有名なのでそちらを思い浮かべる方もいらっしゃるかと思いますが、短編の方の軽快な作品とは違って「ポアロのクリスマス」はどっしりとした本格密室殺人ものです。

おすすめいたします。(*^▽^*)

 

※「クリスマスプディングの冒険」は短編集のタイトルにもなっています。

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