2020年12月のテーマ

クリスマスにはクリスティーを!

第一回は、

「死との約束」

アガサ・クリスティー 著、高橋豊 訳

ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2004年発行

 

です。

 

クリスティー文庫版の画像がなかったので、ハヤカワ・ミステリ文庫からお借りしました。

 

ポアロ物であり、旅物の本作の舞台はエルサレムにペトラ。

エキゾチックな雰囲気の漂う中、殺人事件が起こります。

 

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ。」…エルサレムでこの言葉をポアロが聞いてしまうところからこのお話は始まります。

一行目がこのセリフ…インパクト絶大です。

 

この作品をおすすめしたいと思ったのは、「被害者のキャラクターが強烈で彼女をめぐる人間模様が興味深い」からです。

"殺してしまわなきゃいけない"と言われた"彼女"が本当に殺されてしまうのですが、ここまで人から憎まれるか!というほど嫌な人物です。

一言でいうと、"人間を支配するのが大好きな人物"。

以前は刑務所の看守をしていて、年老いてからは家族を支配することを何よりも楽しんでいます。

 

家族の喜ぶようなことは理由をつけてさせない。

家族を他人と接触させない。

何かというと体調不良を訴えてわざと手を取らせることでそばで監視。

自分の意見に反対されると被害者ぶって家族を悪者にする。

 

親を大切にしない人間はひどい人間だという意識を家族に植え付けて、いうことを聞くように支配しているのです。

 

4人の子供たちと長男の妻は彼女のせいで精神的に疲弊しきっています。

何とか彼女の呪縛から離れたいと願っているのですが、長年の洗脳で行動することが難しくなっています。

 

また、彼女は家族以外の人間に対しても無礼です。

関わった人すべてから嫌われているといっても過言ではないのですが、本人はむしろそれを楽しんでいます。

嫌々ながらも彼女に屈していうことを聞いてしまう人を見て、自らの力を感じることが生きがいなのです。

 

この作品の被害者みたいに極端なのはありえないとしても、人から何かしてもらうことによって気分がよくなるというのは誰にでもあることです。

病気の時に気遣ってもらえると大切にされているんだなと感じることができますし、思いがけずちょっとしたお誘いがあったときには嬉しかったりします。

 

でも、これが、恋人に無理難題を聞いてもらうことで愛されていると確認しようとしたり、家族だから、親友だからといって意見を同じくすることを求めたりすると、行き過ぎになってしまう。この作品の被害者みたいに、"他人を支配しようとしている"状態に近づいてしまうと思います。

 

前者と後者の違いは、自分が相手に求めているか否かだと思います。

とはいうものの、誰しもぞんざいに扱われるのは嫌ですよね。大切にしてほしい。

他人に何も求めない、というのは人間である以上難しいと思います。

日々自分の心と葛藤しながら周囲とのバランスを取ろうと頑張って生きている人がほとんどなんだと思います。

それだけに、この被害者の性格の偏り具合が異様な輝きをもって作品全体を照らしていると感じられます。

 

憎まれているだけに、登場人物の誰一人として容疑者から外すことはできません。

謎解きの方も目が離せないと言えましょう。

 

砂漠の真ん中での、ポアロの謎解き。

寒い季節とは正反対の舞台ですが、おすすめいたします。(*^▽^*)