2019年5月のテーマ

「旅を感じる本」

第一回は、

「ドナウの旅人」(上・下)

宮本輝 作

新潮文庫 1985年発行

 

です。

 

以前に、青春小説「青が散る」の記事でご紹介した、宮本輝さんの代表作です。

 

家族を捨てて突然出奔した母から

 

「ドナウ河に沿って旅をしたい」

 

とという手紙を受け取った娘・麻紗子は、母を追ってドイツへと向かいます。

そこはかつて5年間暮らし、恋人と別れた国。

元恋人のシギィとともに、母と、同行する年下の恋人を追いかけて、ヨーロッパを西から東へとドナウ河に沿って進む旅が始まります。

麻紗子とシギィはやがて母たちに追いつき、一緒にドナウ河の終点・黒海を目指すことになります。

 

旅の過程で、長い時間をかけてたくさんの国を通り、多くの人と出会う四人。

人生を振り返ったり、愛について考えたり・・・。

旅の終点で、彼らはそれぞれにの中に答えをみつけます。

 

この小説では、日常から離れた「旅」の中で、主人公たちが人生について自問自答します。

恋愛小説でもあり、その背景を東ヨーロッパの都市の風景が彩ります。

 

 

ベルリンの壁崩壊が1991年のことですから、この小説が発行された1985年には、西ヨーロッパから東ヨーロッパへの旅行というのは、まだまだ大変な時代でした。

 

彼らは列車で旅をするのですが、共産圏へ入ってからの国境の検問の厳しい様子なども描かれており、時代の空気というものも感じられます。

 

この作品を読むまで、東欧の都市についてほとんど知識がなかった私には、物語もさることながら、彼らの立ち寄る街の描写も興味深く感じられました。

 

旅が舞台の本と言えば一番に挙げたい作品です。

ぜひおすすめいたします。(*^▽^*)