自由気ままな下手くそ小説 ~第二弾 マーチングバンドが舞台 「見えない手と手」~


これは私が学生時代、マーチングバンドに所属していたころの出来事を基にした物語。

下手な文章ですがどうかお付き合いいただけるとありがたいです!


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―― なお、物語は事実を基にしたフィクションで、特定の個人・団体とは一切関係はございません。

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第166章―えっと、あの……いっしょに――

 一度練習を始めてしまうと、ついつい時間を忘れてしまう。そんな二人が校舎を出たのは、夜の九時を過ぎた頃だった。

 練習を止めたきっかけは、やってきた見回りの先生に促されたから。もしも先生が来なかったら、一体二人はいつまで練習を続けていたのだろうか?

「悪かったな、こんな時間までつき合わせて。」

「ううん、私も楽しかったし平気だよ。」

 自転車置き場。外灯の薄明かりの下で、千香は一彰が自転車の準備を終えるのを待っていた。中腰になって、自転車の鍵をあけながら謝ってくる一彰に、にこにこと微笑んで返事をする千香。

 そして準備を終えた一彰は、自転車を手で押しながら千香のところまでやってくると、一言こう言った。

「送ってく。」

「えっ……。べ、別にいいわよ。一人で帰れるし。」

 顔をほんのり赤く染めて、髪の毛をいじいじといじりながら、千香は小さく首を横に振った。一彰の家は千香の家とは正反対だ。こんな時間になると確かに少し怖いが、甘えるわけにはいかないという気持ち。それと、妙に意地を張ってしまって、素直になれない気持ち。小恥ずかしい気持ち……。いろいろな気持ちが、千香の心の中で渦巻いていた。

「そうか……じゃあ気をつけてな。」

 千香がそう言うなら、と、一彰は自転車に跨り、一言千香を思いやる言葉をかける。

「あ、ちょ、ちょっと……。」

 自転車のペダルに足を乗せ、出発しようとする一彰を見て、千香はおろおろ、もじもじ。右足のつま先でぐりぐりと地面をほじってみたり、ちらりちらりと一彰の背中に視線を送ってみたり。迷惑なのは分かっているけれども、やっぱりついて来て欲しい……。けれどもさっき「いい」と言った手前、素直に切り出すことが出来ない……。

 そんな事をしているうちに、一彰の自転車がゆっくりと加速し始めた。そして千香から自転車が三メートルほど離れたときだった。

「――待ってっ!」

「お、わ、わっ!!」

 急に千香は走り出して一彰に追いつくと、カバンを持っている方とは反対の手で、がっしりと自転車の荷台を掴んできたのだ。その衝撃で、一彰は思わず倒れそうになり、声を上げた。

「きゅ、急になんだ……。」

 千香の方を振り返り、少々不機嫌そうに訊く一彰。しかし千香は、顔を赤らめもじもじしたまま、黙りこくっている。そしてしばらくの沈黙の後、ボソッと小さな声で千香が言った。

「……いっしょに帰ろ。」

 恥ずかしくて恥ずかしくて……顔が一気に熱くなった。何でこんな思いをしてまで、私は皆川と帰りたがってるんだろう。帰り道が怖いからか。一人が寂しいからか。それともやっぱり私は、皆川のことが……?

 そんな事を考えていると、頭が火を噴きそうになった。このままだとオーバーヒートを起こして、冗談抜きで倒れてしまいそうだ。

「おう、じゃあ行くか。」

「うん!」

 一彰は自転車から降りると、言葉少なにそう言った。千香はそれに、満面の笑みを浮かべて返事をした。

 心なしか一彰も嬉しそうなのは、気のせいだろうか……?


 つづく
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