Chapter51 不動産鑑定評価基準総論 第7章 | 不動産鑑定士&受験生必見!! “不動産鑑定評価基準の解説”

不動産鑑定士&受験生必見!! “不動産鑑定評価基準の解説”

こんにちは、不動産鑑定士の大島です。
これまでの実務経験、講師経験、実務修習指導経験を活かして、不動産鑑定評価基準の解説をしていきます。
初心者でもわかりやすい、目から鱗の解説を目指します。

Ⅲ 取引事例比較法

1.意義


取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。

取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。


(解説)

取引事例比較法は、

① 多数の取引事例を収集して、適切な事例の選択を行い

② 取引価格に必要に応じて事情補正・時点修正を行い

③ 地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って

求められた価格を比較考量し、これによって試算価格を求める手法である。取引事例比較法による試算価格を比準価格という。〔図表7-19

 

取引事例比較法は、現実の市場で取引された取引価格を基に、対象不動産の試算価格を求める手法である。

しかし、現実の取引価格は、取引の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり、しかもそれは個別的な事情に左右されがちのものである。それ故、現実の取引価格には特殊な事情が介在している可能性があり、そのような場合には事情補正をする必要がある。

また、取引された時点は、価格時点よりも過去に遡った時点である。不動産の価格は、時の経過に伴って常に変化の過程にあるものである。よって、取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは時点修正をする必要がある。

さらに、取引価格は、取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、地域要因の比較と個別的要因の比較を行う必要がある。

取引事例比較法は、現実の市場において成立した取引をその基礎としているものである。よって、近隣地域、同一需給圏内の類似地域等で対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合、同一需給圏内で代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。しかし、不動産の取引が極めて少ない農村、市場で一般に取引の対象とならない神社、仏閣、公共公益施設の用に供されている不動産(道路、公園、図書館、公民館等)等について、その適用は困難となる。

 

2.適用方法


(1)事例の収集及び選択

取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、多数の取引事例を収集することが必要である。

取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、次の要件の全部を備えなければならない。

① 取引事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

② 時点修正をすることが可能なものであること。

③ 地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。



① 事例の収集について

豊富に収集された取引事例の分析検討は、個別の取引に内在する特殊な事情を排除し、時点修正率を把握し、及び価格形成要因の対象不動産の価格への影響の程度を知る上で欠くことのできないものである。特に、選択された取引事例は、取引事例比較法を適用して比準価格を求める場合の基礎資料となるものであり、収集された取引事例の信頼度は比準価格の精度を左右するものである。

取引事例は、不動産の利用目的、不動産に関する価値観の多様性、取引の動機による売主及び買主の取引事情等により各々の取引について考慮されるべき視点が異なってくる。したがって、取引事例に係る取引事情を始め取引当事者の属性(本留意事項の「Ⅳ「総論第6章地域分析及び個別分析」について」に掲げる市場参加者の属性に同じ。)及び取引価格の水準の変動の推移を慎重に分析しなければならない。


(解説)

取引事例比較法は、現実の市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、まず多数の取引事例を収集することが必要である。そして、できる限り豊富に収集した取引事例の中からより対象不動産に類似した取引事例を選択するが、以下の事例選択四要件を満たすものから収集しなくてはならない。

① 場所的同一性

(原則)

近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択

(必要やむを得ない場合)

近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから選択

(対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等)

同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択 

② 事情の正常性又は正常補正可能性

採用する取引事例は、現実の市場において取引されたものであり、取引に当たって個別の事情が介在することが少なくない。それ故、採用する取引事例は、まず特殊な事情が介在していないものが望ましいが、特殊な事情が介在している場合であっても、それを補正することができるものであれば採用することができる。 

③ 時間的同一性

原則として、採用する取引事例は、過去に遡ったものとなるため、時点修正をする必要がある。この場合、遡る期間が長ければ鑑定評価の精度を下げてしまうので、できる限り価格時点に近い事例を採用して時点修正を行って活用すべきである。反対に、過去に遡りすぎた古い事例のため、時点修正を適切に施すことができないような場合は、採用する取引事例としては不適切である。 

④ 要因比較の可能性

採用した取引事例等は、地域要因の比較や個別的要因の比較を行って評価に反映させていくが、要因の比較ができないような事例は選択すべきではない。よって、基本的には同種別・同類型の取引事例を選択すべきである。

 

このように収集・選択された取引事例を基礎として比準価格が試算されるので、採用した取引事例の信頼度は、比準価格の精度、鑑定評価額の精度を左右するものであるため、その選択は慎重に行わなければならない。

豊富に収集された取引事例は、取引事例比較法の適用に当たり採用する事例として活用されるが、それ以外にも以下のように活用される。

① 豊富に取引事例を収集することにより、概ねの地域の価格水準が把握でき、この価格水準と採用した取引価格を比較することにより特殊な事情の介在の判断に活用できるとともに、特殊な事情が介在している場合には、事情補正率の把握に活用できる。

② 豊富に収集した取引事例を時系列的に分析することにより、時の経過による価格水準の推移を分析することができ、時点修正率の把握に活用できる。〔図表7-20

 

 

③ 豊富に収集した取引事例について、地域要因や個別的要因の相違により価格水準及び価格にそれぞれどの程度の影響があるのかを分析し、地域要因や個別的要因の格差率の把握に活用できる。例えば、同一最寄駅からの距離が500mの取引事例と600mの取引事例を豊富に収集することで、100mの違いが価格水準にどの程度の影響を及ぼすのかを分析できる。あるいは、中間画地の取引事例と角地の取引事例を豊富に収集することで、角地であるという個別的要因が価格にどの程度影響を及ぼすのかを分析できる。〔図表7-21

 

 

つまり、多数収集した取引事例は、事情補正、時点修正、地域要因の比較、個別的要因の比較の補修正率・要因格差率の把握に活用できるということである。

取引事例は、不動産の利用目的、不動産に関する価値観の多様性、取引の動機による売主及び買主の取引事情等により各々の取引について考慮されるべき視点が異なってくる。つまり、どのような価格形成要因を重視して、取引価格の判定及び取引の意思決定を行うのかは、取引当事者、取引当事者の置かれている状況等によって異なるということである。それ故、取引事例に係る取引事情、取引当事者の属性及び取引価格の水準の変動の推移を慎重に分析して、取引事例として採用するに足るものであるかどうかを判断しなければならない。

 

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