① 土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。
なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。
(解説)
ここでは土地の再調達原価の説明をしている。土地は原則として造るものではなく既にあるもの(既成市街地に存する土地)なので、再調達という概念が適合しないため、再調達原価を求めることができない。しかし、例外的に埋立地や造成地は、再調達という概念が適合するため求めることができる。
この場合、①その素材となる土地の標準的な取得原価に、②当該土地の標準的な造成費と、③発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めることとなる。〔図表7-10〕
ここで、素材となる土地(素地)の取得原価は、造成地の場合は宅地造成前の山林等を取得するのに要する費用である。埋立地の場合は、漁業補償や免許料等が取得原価に相当する。
なお、宅地造成からそれ程時間が経過していない場合は上記の計算式で再調達原価を求めることができるが、一定の期間を経過している場合には造成地や埋立地の周辺環境が徐々に熟成していき、地価相場が上昇することがある。このような場合には、①その素材となる土地の標準的な取得原価に、②当該土地の標準的な造成費と、③発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して得た額に、④熟成度加算額を加えて求めることとなる。〔図表7-11〕
熟成度加算額の査定に当たっては、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に与えている影響の程度を把握する必要がある。この期間の経過が長期にわたると、熟成度加算額の査定が困難となるが、このような状態になればもはや既成市街地として把握され、再調達原価を求めることができなくなる。
② 建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるものとする。
(解説)
ここでは建物及びその敷地の再調達原価の説明をしている。特に難しい内容ではなく、建物及びその敷地の再調達原価なので、①土地の再調達原価に、②建物の再調達原価と③発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めることとなる。ただし、建物及びその敷地でも、借地権付建物の場合もある。この場合は同様に借地権を取得する費用となる借地権の設定対価や借地権の譲渡対価が土地の再調達原価となる。つまり借地権の価格が再調達原価となる。また、既成市街地にある土地の場合には、素地の取得費からの再調達原価の査定が困難となるため、既成市街地の土地を取得する費用となる更地の価格が土地の再調達原価となる。この時の更地価格は、取引事例比較法及び収益還元法により求めることとなる。〔図表7-12〕
③ 再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとする。
(解説)
再調達原価を求める方法には、①直接法と②間接法がある。いずれの方法を採用するかは収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用し、必要に応じて併用するものとされている。直接法と間接法の違いは、対象不動産について直接的に再調達原価を求めるのが直接法であるのに対して、間接法は、まず建設事例の再調達原価を求め、これに補修正等を行って対象不動産の再調達原価を間接的に求めるものである。
ア.直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法である。
直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求めるものとする。
また、対象不動産の素材となった土地(素地)の価格並びに実際の造成又は建設に要する直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)が判明している場合には、これらの明細を分析して適切に補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って再調達原価を求めることができる。
(解説)
直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法である。直接工事費の求め方には、部分別単価適用法、総価格積算法、変動率適用法(変動率直接適用法)がある。
〔部分別単価適用法・総価格積算法〕
基準の前半の部分が、直接法のうち部分別単価適用法と総価格積算法の説明である。対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時間等を調査して、価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算するとある。これは、単価をベースに積算していく方法であるが、〔図表7-13〕を見てもらいたい。
解りやすくするため簡易な数字で記載しているが、柱、屋根、壁、床等の構成部分の単価を基礎に、柱が合計で600円、屋根が合計で900円と積算していく方法が部分別単価適用法である。他方、材料費、労務費、直接経費の項目ごとに、材料費が300円、労務費が700円、直接経費が500円と積算していく方法が総価格積算法である。いずれの方法も、対象不動産を分析して、価格時点における標準単価を積算していく方法である。
これにより求めた直接工事費に間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求める。
〔変動率適用法(変動率直接適用法)〕
基準の後半の部分が直接法のうち変動率適用法である。これは、
① 対象不動産の素材となった土地(素地)の価格
② 実際の造成や建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等
③ 発注者が直接負担した付帯費用
の額及びこれらの明細が判明している場合には、これらの明細を分析して適切に事情補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って再調達原価を求めることができる。この方法は、あくまでも請負契約書等により、対象不動産の実際の請負額とその内容が判明している場合に、その実際の請負額を基に再調達原価を査定しようとするものである。それ故、実際の請負契約には特殊な事情が介在している可能性(関連会社間のため割引かれている場合等)があるため事情補正の必要な場合があり、また価格時点よりも過去に請負契約が結ばれているが、建築単価は時の経過で変動するものであるから時点修正をする必要がある。
他方、先の部分別単価適用法と総価格積算法は、対象不動産を分析して、価格時点における標準単価を積算していく方法であり、標準的な単価を積算するので事情補正の必要がなく、価格時点における積算であるため時点修正の必要もない。
また、両方法の文章を再度確認すると、部分別単価適用法と総価格積算法では、「標準的な建築費」「発注者が直接負担すべき通常の付帯費用」という文言が使用されるのに対して、変動率適用法では、「実際の造成又は建設に要した」「発注者が直接負担した付帯費用」という表現となる。前者が価格時点における一般的な工事費を積算する方法に対して、後者は、過去に契約された実際の工事費を補修正していく方法であるためである。
イ.間接法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法である。
間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成又は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これらの明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求めるものとする。
(解説)
間接法は、建設事例の再調達原価から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法である。この方法は、近隣地域・同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産や同一需給圏内の代替競争不動産に係る建設事例について、その実際の工事費を補修正及び地域要因の比較、個別的要因の比較をして、対象不動産の再調達原価を求める方法である。これは、直接法の一つである変動率適用法の間接法バージョンと考えればよい。直接法の方を変動率直接適用法と言うのに対して、間接法の方を変動率間接適用法と言う。
変動率間接適用法は、
① 建設事例の素材となった土地(素地)の価格
② 実際の造成や建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等
③ 発注者が直接負担した付帯費用
の額及びこれらの明細が判明している場合には、これらの明細を分析して適切に事情補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って、まず建設事例の価格時点における再調達原価を求め、これに地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って対象不動産の再調達原価を求めることができる。
以上をまとめると〔図表7-14〕のとおりである。
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