Ⅱ 継続賃料を求める場合
1.継続賃料の価格形成要因
継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
(2)土地価格の推移
(3)公租公課の推移
(4)契約の内容及びそれに関する経緯
(5)賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
(解説)
継続賃料の鑑定評価にあたっては、継続賃料固有の価格形成要因があるので十分に分析して評価に反映させる必要がある。新規賃料と違い、継続賃料の場合は直近合意時点から価格時点までの期間における要因の変化を分析する必要がある。よって、基準に例示されているように各要因の過去からの推移に重点をおいて分析することになる。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
宅地の賃貸条件の改定をする場合、賃貸人も賃借人も周辺の地代水準や地代の改定状況を意識して改定の交渉をするものである。従って、代替・競争関係の働く地代の推移や改定状況を分析する必要がある。
(2)土地価格の推移
元本と果実の関係があり、地価の変動により継続賃料も変動する傾向がある。ただし、地価が上昇傾向にあるからといって、継続地代も常に上昇するわけではなく、直近合意時点の実際支払地代が既に相場よりも高額である場合は上昇するとは限らない。なお、元本と果実の相関関係があるものの、その動きは価格市場と賃料市場との特性の違いからタイムラグが発生するのが一般的である。
(3)公租公課の推移
借地契約で賃料改定の条項に公租公課の変動が記載れているケースは多い。一般に、地代は公租公課よりも高額であるべきで(地主は地代から土地の公租公課を支払うため)、地代が公租公課の何倍であるかを基準に、実際支払地代の高低が把握されることがある。従って、地代の変動は公租公課の変動の影響を受けるので把握の必要がある。
(4)契約の内容及びそれに関する経緯
賃貸借契約等において、地代の改定等は契約に従って改定されるものである。従って、契約内容を把握するとともに、過去の改定の経緯等について分析し、契約に従って改定がされてきたのかなどを把握する必要がある。
(5)賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
近隣地域が発展すれば、元本価値は上昇するため、正常実質(支払)賃料は上昇し、賃料差額が発生する。賃料差額配分法にみられるように、この差額を賃貸人と賃借人にそれぞれどの程度配分するかで適正な継続賃料を求めることができ、近隣地域の発展に対して賃貸人又は賃借人のそれぞれがどの程度寄与しているかによって配分率が左右されるものである。すなわち、賃貸人が近隣地域の発展に対する寄与度が大きい場合には、賃貸人に帰属する部分の配分割合が多くなり継続賃料の上昇率が大きくなる。他方、賃借人が近隣地域の発展に対する寄与度が大きい場合には、賃借人に帰属する部分の配分割合が多くなり継続賃料の上昇率が小さくなる。
2.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合
継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合においては、直近合意時点から価格時点までの期間を中心に、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移
(2)土地価格の推移
(3)賃料に占める純賃料の推移
(4)底地に対する利回りの推移
(5)公租公課の推移
(6)直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度
(7)契約の内容及びそれに関する経緯
(8)契約上の経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間
(9)賃料改定の経緯
なお、賃料の改定が契約期間の満了に伴う更新又は借地権の第三者への譲渡を契機とする場合において、更新料又は名義書替料が支払われるときは、これらの額を総合的に勘案して求めるものとする。
(解説)
継続賃料を求める場合には、次の二つのケースがある。
1.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合
2.契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合
1はいわゆる賃料(地代)を改定する場合に適正な改定する支払地代はいくらになるのかという評価である。また、2は契約上の条件として非堅固建物所有を目的とする借地契約から堅固建物所有を目的とする借地契約に変更する場合、使用目的として、住宅使用を目的とする借地権から、店舗使用を目的とする借地権に変更する場合等が考えられる。このような場合に、支払地代を改定することがある。
まず、継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合について説明する。
この場合の鑑定評価は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定する。〔図表2’-3〕
評価にあたり総合的に勘案する事項は以下の通りである。特に、直近合意時点から価格時点までの推移に留意して評価する必要がある。
(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移
一般的、地域的な傾向として、類似の不動産の賃料と対象不動産の賃料とは代替競争関係があるため、その改定の程度や推移・動向を分析することで適正な改定の程度を把握することが可能となる。
(2)土地価格の推移
地価の変動により継続賃料も変動するが、地価の変動と地代の変動は異なる動きをするものであるが、元本と果実の関係にあり相互に関連するものである。従って、それぞれの特性を把握し、土地価格の推移から継続賃料の改定率等を把握することは有用である。
(3)賃料に占める純賃料の推移
賃料改定において、その純賃料に着目する場合があるため賃料に占める純賃料を把握する必要がある。純賃料の推移を把握することで適正な継続賃料の利回り水準を把握することも可能となる。
(4)底地に対する利回りの推移
底地に対する利回りの推移を分析することで適正な新規賃料を把握するための期待利回りを求めることが可能となる。また、底地に対する利回りの水準を把握することで、地域の標準的な地代水準を把握できる。
(5)公租公課の推移
公租公課の増減は継続賃料の増減に影響を与えるものである。また、公租公課に対して地代水準がどの程度かを把握することで、実際支払地代の水準が継続地代としての適正水準とどの程度乖離しているかを把握することが可能となる。
(6)直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度
継続賃料は、一般的に新規賃料と現行賃料との間で形成される。また、契約時点や賃料改定時点において合意された賃料は、常に適正な賃料ではなく、契約当事者の様々な事情を包含しているものである。例えば、賃貸借当事者間の資本的な関係から割高な賃料が設定されたり、賃貸借当事者間の人的関係から恩恵的に割安な賃料が設定されるなどの事情が挙げられる。それ故、直近合意時点や価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度を把握し、その背景にあった事情を分析して継続賃料の評価に反映させなければならない。
(7)契約の内容及びそれに関する経緯
過去に賃料改定があった場合でも、まず当事者合意の契約書の条項に基づいて改定していたことが推定される。しかしながら、実際には賃料改定を全く行ってこなかった場合や、改定されているが合意している契約内容とは異なるような改定に経緯を踏んでいる場合があったりとさまざまである。従って、そのような契約内容とそれに関する経緯を把握して評価に反映させなければならない。また、契約内容の確認は、鑑定評価報告書の記載事項としてもあげられている。
(8)契約上の経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間
契約締結後、価格時点までの経過期間の長短と借得部分とは関連しており、一般に経過期間が長期に渡る場合は借得部分が大きくなる傾向がある。また、直近合意時点での賃料を基に継続賃料の水準を判断していくが、直近合意時点から価格時点までの期間の長短が賃料改定率に影響を与える。
(9)賃料改定の経緯
継続賃料は、契約締結後に賃料改定を行ってきたか否か(長期間にわたり全く賃料改定が行われないケースもある)、前回の改定時点からどの程度の期間が経過しているか、各改定時期に適正な新規賃料との乖離がどの程度あったのか等の過去の賃料改定の経緯を踏まえて決まるものである。
総論第7章で説明したように、継続賃料固有の価格形成要因は、諸般の事情に関する要因と事情変更に関する要因に分けられる。
上記勘案事項は、継続賃料固有の価格形成要因であり、以下のように区分することができる。〔図表2’-4〕
(※)直近合意時点から価格時点までに変更がある場合には事情変更に係る要因となる。
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