chapter39 不動産鑑定評価基準総論 第6章 | 不動産鑑定士&受験生必見!! “不動産鑑定評価基準の解説”

不動産鑑定士&受験生必見!! “不動産鑑定評価基準の解説”

こんにちは、不動産鑑定士の大島です。
これまでの実務経験、講師経験、実務修習指導経験を活かして、不動産鑑定評価基準の解説をしていきます。
初心者でもわかりやすい、目から鱗の解説を目指します。


(2)同一需給圏

同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。それは、近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定するものである。

一般に、近隣地域と同一需給圏内に存する類似地域とは、隣接すると否とにかかわらず、その地域要因の類似性に基づいて、それぞれの地域の構成分子である不動産相互の間に代替、競争等の関係が成立し、その結果、両地域は相互に影響を及ぼすものである。

また、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似地域の外に存する不動産であっても、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品等等の類似性に基づいて、これら相互の間に代替、競争等の関係が成立する場合がある。

同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要がある。

同一需給圏の判定に当たって特に留意すべき基本的な事項は、次のとおりである。

① 宅地

.住宅地

同一需給圏は、一般に都心への通勤可能な地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。

なお、地域の名声、品位等による選好性の強さが同一需給圏の地域的範囲に特に影響を与える場合があることに留意すべきである。

.商業地

同一需給圏は、高度商業地については、一般に広域的な商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される傾向がある。

また、普通商業地については、一般に狭い商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。

.工業地

同一需給圏は、港湾、高速交通網等の利便性を指向する産業基盤指向型工業地等の大工場地については、一般に原材料、製品等の大規模な移動を可能にする高度の輸送機関に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その地域的範囲は、全国的な規模となる傾向がある。

また、製品の消費地への距離、消費規模等の市場接近性を指向する消費地指向型工業地等の中小工場地については、一般に製品の生産及び販売に関する費用の経済性に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向がある。

.移行地

同一需給圏は、一般に当該土地が移行すると見込まれる土地の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、移行前の土地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。

② 農地

同一需給圏は、一般に当該農地を中心とする通常の農業生産活動の可能な地域の範囲内に立地する農業経営主体を中心とするそれぞれの農業生産活動の可能な地域の範囲に一致する傾向がある。

③ 林地

同一需給圏は、一般に当該林地を中心とする通常の林業生産活動の可能な地域の範囲内に立地する林業経営主体を中心とするそれぞれの林業生産活動の可能な地域の範囲に一致する傾向がある。

④ 見込地

同一需給圏は、一般に当該土地が転換すると見込まれる土地の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、転換前の土地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。

⑤ 建物及びその敷地

同一需給圏は、一般に当該敷地の用途に応じた同一需給圏と一致する傾向があるが、当該建物及びその敷地一体としての用途、規模、品等等によっては代替関係にある不動産の存する範囲が異なるために当該敷地の用途に応じた同一需給圏の範囲と一致しない場合がある。


(解説)

同一需給圏とは、対象不動産と一般に代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。つまり、対象不動産と代替・競争関係が成立する不動産の存する圏域である。よって、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定し、このような類似地域を、「同一需給圏内の類似地域」という。そして、近隣地域と同一需給圏内の類似地域とは、隣接すると否とにかかわらず、その地域内の不動産相互の間で、代替・競争の関係が成立し、両地域はそれぞれ影響を及ぼすものである。

また、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似地域の外に存する不動産であっても、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品等等の類似性に基づいて、これら相互の間に代替、競争等の関係が成立する場合がある。〔図表6-6

 

 

同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要がある。

基準では、種別毎に同一需給圏の判定をする際の留意点を列挙している。この中で、地縁的選好性という文言があるが、これはその土地や地域について思い入れや、こだわりがあることであり、地縁的選好性があれば、その土地や地域から立地的に近い範囲を好むことを意味する。それ故、住宅地域の場合、例えば生まれ育った地域や市町村、あるいは両親のいる実家の近くでマイホームを探すこと等が多く、地縁的選好性が働くものである。それに対して、商業地の中でも高度商業地は、いかに収益を上げられるかという観点で立地の選定を行うため地縁的選好性が働かないものである。しかし、同じ商業地でも、普通商業地の場合は商店街のような中小規模の店舗をイメージするとよいが、自宅の近くで店舗営業をしたり、店舗併用住宅でそこで生活もするというケースが多く、地縁的選好性が働く傾向があると考えてよい。

見込地と移行地については、その種別が、転換や移行の前後で異なるため、熟成度の程度により同一需給圏の範囲の考え方が異なる。熟成度がまだ低い場合は、転換前、移行前の種別の同一需給圏と一致する傾向があり、熟成度が高い場合は、転換後、移行後の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。

建物及びその敷地の同一需給圏については、他の記載が土地の同一需給圏であるのと異なり、対象不動産が複合不動産である場合の考え方に基づいてる。この場合、「一般に当該敷地の用途に応じた同一需給圏と一致する傾向がある」としている。つまり、住宅地域内の戸建住宅が対象不動産であれば、敷地の用途は「住宅地」であり、住宅地(土地の同一需給圏)の同一需給圏と一致することが多いということである。ところが、後半では、「当該建物及びその敷地一体としての用途、規模、品等等によっては代替関係にある不動産の存する範囲が異なるために当該敷地の用途に応じた同一需給圏の範囲と一致しない場合がある。」とある。これは、住宅地域内に工場が建っているような場合をイメージするとよい。つまり、敷地の用途はあくまでも「住宅地(住宅地域の中にある土地の種別はあくまでも住宅地)」であるが、そこに土地の最有効使用とは異なる工場が建っている場合である。この複合不動産を市場で取引をする買主は、対象不動産と比較検討する不動産は、あくまでも代替競争関係にある工場であり、工業地の同一需給圏が前提となる。従って、敷地の用途である住宅地の同一需給圏とは異なる同一需給圏になることがある。

 

 

Chapter38へ≫

Chapter40へ≫

 

●このブログで使用している文書、画像等については無断で転載・引用することを一切禁じております。

 

発売中