共同親権の議論がかなり進んできているようです。

 

 

以前の記事で、「法の不遡及の原則」という考え方を前提にすると、すでに離婚しているケースには共同親権制度は適用されないということを書きました。

 

 

この法の不遡及の原則というのは、法律は原則として将来に向かって適用されて、過去のことには適用されないという原則のことをいいます。

 

 

たとえば、電車の中で高齢者に席を譲らなかったら罰するという法律ができて、その法律が令和6年4月1日に施行されたとします(言うまでもありませんが、あくまで架空事例です)。

 

 

そうなれば、皆罰せられては困るので、令和6年4月1日以降は立っている高齢者を見かけたら席を譲るようになるでしょう。

 

 

しかし、令和6年3月31日以前に高齢者に席を譲らなかった経験があったとしても、罰せられることはないというのが、法の不遡及という考え方です。

 

 

この架空のケースで、万が一、法律を遡及(さかのぼって適用)させてしまうと、収拾がつかなくなるというのは想像に難くないはずです。

 

 

この法の不遡及の原則を貫けば、改正法の施行前に離婚した人には、どんな理由があれ共同親権は適用しないという結論になるはずです。

 

 

しかし、先日来の報道を見ていると、すでに離婚した父母にも共同親権が適用される可能性があるようです。

 

 

毎日新聞(令和6年1月30日)

 

離婚後の共同親権が導入された民法改正案が成立すれば一定期間を置いて施行され、施行後に離婚する父母、既に離婚した父母も共同親権が可能となる

 

 

 

 

ということは、法の不遡及の原則は貫かないということになりそうです。

 

 

とすれば、法改正前に離婚した父母も全員、自動的に共同親権になるのでしょうか。

 

 

しかし、改正法も単独親権の余地を残した議論をしていることから、法改正前に離婚した父母が全員自動的に共同親権になるということはないと思われます。

 

 

何より、何の手続きもしていないのにある日突然、すべての非親権者の親権が復活するということになれば、混乱が生じてしまいかねません。

 

 

ということは、非親権者が親権者になるためには、何らかの手続が必要ということになりそうです。

 

 

さらに、この点を検討するべく、一度別の観点を持ち出してみたいと思います。

 

 

 

令和元年(2019年)12月に養育費・婚姻費用の算定表が新しくなり、これによって養育費や婚姻費用の金額が上がる方向になりました。

 

 

この際、最高裁は、算定表が新しくなったけど、事情の変更には当たりませんよということを発表しました。

 

 

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/gaiyou_592KB.pdf

 

 

これはどういうことかというと、養育費の増額や減額は、何らかの「事情の変更」(例えば、当事者の収入の増減など)がないと認められないと考えていることと関係します。

 

 

たとえば、2018年に旧算定表で養育費を5万円と取り決めて離婚した女性(男性)が、新算定表に当てはめるとどうやら養育費は7万円になりそうだということを知り、特に離婚当時と状況は変わっていないけど、算定表が新しくなったということを理由に、養育費の増額を求めたとします。

 

 

ですが、最高裁の上記説明によると、算定表が新しくなったということだけを理由に養育費の増額は認められないということになります。

 

 

 

話を共同親権に戻しますと、仮に法改正前に離婚した父母にも共同親権が可能となるとしても、この新算定表の話と同じく、共同親権制度ができたということだけではダメで、何らかのそれ以外の事情の変更がないと共同親権を求めることはできないという考え方もあり得るはずです。

 

 

一方で、新算定表の話とは異なり、新しいルール(共同親権制度)ができたということだけを理由に、共同親権を求めることができるようになるという可能性もあるでしょう。

 

 

とはいえ、法の不遡及の原則を貫徹すれば、すでに離婚した人には共同親権の道は閉ざされるということになるところ、上記いずれの場合であっても、そのような法改正がされれば、すでに離婚した非親権者には共同親権の道が開かれるということになりそうです。

 

 

以上をまとめると、大別すると

 

①何があろうと、改正法の施行前に離婚した人には共同親権制度は適用させない

 

②改正法の施行前に離婚した人は、共同親権制度ができたことだけを理由に共同親権を求めることはできないけど、それ以外の何らかの事情の変更があれば、共同親権を求めることができる

 

③改正法施行前に離婚した人でも、共同親権制度ができたことを理由に共同親権を求めることができる

 

のいずれかが考えられるのではないかと思います(上記報道を踏まえると②か③になりそうな気がしますが、まだどうなるか断言はできないところです)。

 

 

このような状況を踏まえて、本当は親権を取得したかったけど、やむなく親権を譲って離婚したという方の中には、今後の法改正の動き次第で何か法的手続をとろうと考えている方もおられるかもしれませんね。

 

 

一方で、既に離婚をして親権者となっている方からすれば、共同親権制度が遡及して適用されるかどうか気が気ではないという心境かもしれません。

 

 

いずれにしても、まだどのような結論になるのか確定ではない状況ですので、今後も動きを注視していきたいと思います。

 

 

【追記】

令和6年2月21日の最新の報道によると、「政府が、改正法施行前に成立した離婚についても、家裁への申し立てにより共同親権を選べるようにする方針を固めた」とされています。

 

この報道内容からすると、共同親権を求める上での条件などについて触れられていませんから、上記でいうところの③改正法施行前に離婚した人でも、共同親権制度ができたことを理由に共同親権を求めることができると解釈するのが自然な気がします(詳細な内容が報道されているわけではないので、何とも言えないところはありますが)。

 

 

 

 

☆私が執筆した面会交流(親子交流)に関する 書籍「弁護士・臨床心理士の両視点にみる 面会交流-当事者心理と実務のポイント-」が出版されました。

 

☆ ご注文は、新日本法規出版の公式サイトのほか、Amazon楽天ブックスなどから可能です。