屋根勾配について | 城郭模型製作工房

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城郭模型作家・島 充のブログです。日本の城郭および古建築の模型やジオラマの製作過程を公開しています。

豊臣大坂城の表御殿、大台所について、ご依頼主様より屋根の勾配が強すぎるのでは、というご指摘を頂きました。
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実は私も同じような感触を抱きつつも修正せずに製作を進めていたので、細かいところまでよくご覧になって下さっていると嬉しくなりました。

この屋根勾配の算出ですが、宮上先生の南面復元立面図の棟高から割り出しました。ただし、1250分の1というスケールでは0.5mmの誤差が実際には60センチほどの差となって現れるので、そのあたりの原因も考えられます。特に私は図面に直に合わせながらパーツの切り出しをするくせがあるので、誤差の可能性は十分考えられます。

この機会に、屋根の勾配について、もう一度勉強し直しました。

結論から言うと、屋根の勾配としては格段強すぎるものではありません。
不自然に見えるのはひとえに私の模型製作技術の未熟さから来るものだと判明しましたので、不自然に見えないように作り直すことにしました。
以下その検証と模型上で不自然に見える理由の考察です。



屋根の勾配は時代が下がるに連れて次第に勾配が急になる傾向があります。

『匠明』でも、主殿に関して「昔」と「当世」の二様を書きます。
これを見ると「昔」の古法だと主殿の屋根は5寸2分勾配ですが、「当世」では6寸〜7寸勾配となっています。

勾配◯寸というのは水平10寸に対して垂直◯寸上がるという意味です。

これを角度に換算すると、「昔」の主殿の5寸2分勾配は約27度、「当世」の6寸勾配で約31度、7寸勾配で約35度となります。
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しかし、この勾配は引渡勾配で、実際には反りがありますので、軒先部分では緩く、棟部分では急になります。引渡勾配とは棟と軒先を直線で結んだ勾配です。

古式5寸2分勾配の図
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7寸勾配の仏堂
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2寸弱の勾配の違いでこれだけの差があります。

今回の表御殿の大台所は桃山期の7寸勾配ほどになっています。
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ただ、わずかに7寸勾配より強めになっていて、誤差があった可能性があります。

台所は本来、かまどの煙の排出のため上部空間を広く取る必要があり、寺院の庫裏では特に屋根勾配を急にして屋根を高くしました。
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(国宝 瑞巌寺庫裡 桃山期)

宮上先生は表御殿の大台所を、あえて建物の桁行(長い方)と梁行(短い方)を逆に取って屋根を架けて復元してあります(国宝妙法院庫裡に実例あり)。これは屋根を高く取るということを目的にしておられる可能性があり、今回も模型ではその屋根が大変目立ちます。
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では勾配としては数値的に大きな逸脱はないのに何か不自然に見えるのはなぜか製作者として考察してみます。

これは350分の1で御殿を作った時に屋根勾配を割り出した図です。
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それを元に立体化している途中。かなり勾配は急です。
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ところが屋根の形が整ってくると勾配の急さはあまり感じられなくなってきます。
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完成時。
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それに対して同じ図面から同じやり方で製作した今回の奥御殿です。
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屋根の勾配が350分の1の御殿より急勾配に見えませんか?

別方向から。
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考えられる理由は屋根に反りが無いこと。
1250分の1だと私の技術が追いつかず、屋根は全て直線で製作しています。その結果、引渡勾配が露出してしまい、屋根勾配がダイレクトに伝わってくるのです。

あたかも反っているかのように見えるように、とごまかし技を入れながら作ってはいましたが、限界があったようです。

このスケールだと、実際の角度よりきつく見えてしまうため、少し緩めにしてちょうどいいということが今回の最大の学びでした。

千畳敷は巨大ゆえわずかに反りを再現できましたのであまり屋根の角度は気になりません。
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破風面の反りは、恐ろしく重要な要素であると再確認したことです。
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実は現在北海道におります。友人の結婚式です。

丘の緩やかな斜面を覆うように広大な畑。ヨーロッパ的な風景です。
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日本は古来より農業といえば稲作。すなわち水平面の農地が続きます。

この水田の広がりと、畳を敷いた部屋が水平にどこまでも繋がっていくという日本の建築の空間的広がりの特徴には繋がりがあるように思います。


模型の製作は暫くお休みです。