怒涛の製作記(最終回)
4月9日、朝10時に熊本城天守の前で模型を日通の美術運送に託す。この時、本丸御殿からは展示品の本丸御殿模型が運び出されていたようだった。
模型3台の巨大な梱包を預けたとたん、全身の痛みと睡魔がにわかに襲ってきた。帰りは妻の運転で私は熟睡、その後2時間の整体を受けるも疲れは取れなかった。
まだ作らねばならないものが残っているが、この日は作業机に向かう気力も体力も残っていなかった。
それにしても最後の3日間、写真の無さには我ながら呆れる。製作の最後の重要局面の情報が失われているとは…高い山の頂上は雲に隠れているようなものか。
●4月10日
飯田丸五階櫓模型の端にある、竹の丸の続塀を作った。最後の建造物製作である。
この他に宇土櫓の突き上げ戸の残りと、樹木を製作し、道具をまとめて出張の準備にとりかかった。
●4月11日
一路東京へ。展示のために現地で模型を調整する道具にはデザインナイフなどの刃物も含まれるため、飛行機には乗れない。新幹線での移動である。
東京へ着くとすぐに巣鴨のさかつうギャラリーさんに向かい、1/150のフィギュアやジオラマ材料を購入した。
閉店直前の日本橋高島屋。
この日の東京は雨。強いビル風で傘が壊れた。
持参したシートを広げ最後の調整。
樹木は持参して現地で立てた。100分の1の大模型である。平左衛門丸の大木はご覧の大きさ。
本物の木の枝を使って自作した。柵もこの時取り付けた。
天守前広場にフィギュアを設置。
搬送の揺れで緑地にはみ出した砂利のバラストや樹木のコースターフ、小さなホコリはピンセットで一つ一つ連れて行った助手が掃除してくれた。
この他、展示会場の照明の具合で、思った色合いとは違うように見えたり、今まで気づかなかったことが出てくるのでその部分を修正する。
天守の棟瓦の目地漆喰の描き忘れなど、展示の調整に現地で2時間を要した。
そして無事、展示完了。
重要文化財のこの日本橋高島屋に、拙作が置かれたことを誇りに思う。
改めて心よりただ感謝のみ。
◆模型の見どころ①◆
【宇土櫓模型】
真ん中に展示された、なんといっても今回の模型の中でも目玉です。
細部まで再現した建物をよくご覧ください。
ランダム開閉の突き上げ戸の雰囲気、瓦や下見板の質感表現など、宇土櫓の空気を感じていただけたらと思います。下から見上げると作り込んだ軒裏まで見ることができます。現実には下りることの出来ない、空堀底からの眺めをお楽しみください。石垣の苔の表現にも注目。
平左衛門丸の二股の大木も枝ぶりよくでき、この模型のシンボルツリーとなっています。頰当御門付近の懐かしい景色です。