飛雲閣完全自作模型(21)完成③ | 城郭模型製作工房

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城郭模型作家・島 充のブログです。日本の城郭および古建築の模型やジオラマの製作過程を公開しています。

引き続き飛雲閣です。
飛雲閣は金閣、銀閣と並び「京の三閣」に数えられます。
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普段非公開のため、実際に目にしたことのある方は少ないようです。今現在は修理工事のため一切拝観はできないようですが、以前は予約をすれば見ることができました。飛雲閣が公開されていない理由は、西本願寺は観光寺院ではないからです。拝観料は無料。つまり志納というかたちでこちらに任されています。浄土真宗本願寺派の門信徒であればお寺さん経由で手続きをしてくれるようです。

この飛雲閣、秀吉の聚楽第からの移築であると昔から言われていました。それは本願寺十六世湛如の撰による「飛雲閣之記」に「この飛雲閣は豊□の構ずる所」「初め聚楽に在り後に干茲に移す。壮麗、旧に倍す」とあり、これが根拠ですが、湛如はかなり後の人物です。
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近年の研究では本願寺自身による江戸期の建築という説が有力ですが、とにかく由来がはっきりせず、南向を前提に作られているにもかかわらず実際には北面していることなども移築を思わせます。その謎の多さが、この建物の魅力の1つです。

そして何よりこの左右非対称の姿。
四方どこから見ても全て形が違います。
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三階の摘星楼が東寄りなのは、二階の歌仙の間の上段の上に人が登ることを避けたためというのは前の記事で書きましたが、この二階もまた東寄りになっているのは、一階部分の中段と上段(上段と上々段とも)が反り破風の入母屋部分にあり、これもまた貴人の上に人が乗る床を作らないためです。

屋根は反りあり起り(むくり)あり、唐破風あり、寄棟あり、と装飾過多とも思える複雑さで、これがまたいかにも派手好みの秀吉の建物という感じを抱かせるのかもしれません。
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前回と同じ画像ですが、二層目と三層目の屋根も微妙なむくりがついています。
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今回の模型では、あまりに微妙な曲線のため、スケール的に(もちろん技術的にも)再現できませんでした。
そしてこの起り屋根であることが、軒のラインを直線にしていて、大変派手な建物にも関わらず、質素で素朴な印象を与えます。また、杮葺の軒付も薄く、軽い印象を与えます。今回、化粧屋根裏の木舞とともに、軒付の下の裏甲から茅負にかけての部分も省略しています。裏甲まで再現すると、軒の軽さが失われてしまう気がしたからです。
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細部の意匠をみると、きちんと長押が回っていて六葉の釘隠も打たれていますし、真行草でいうと、きちんと真の意匠となっています。ところが、軒のライン、むくりのある屋根、また、部材の細さなどから行や草かと思うような素朴さを感じさせ、際どく数寄屋に接近していると説明する書物もあります。

裏側は完全な住宅です。この辺りを見ると、やはり表面だけ意図的に狙って桃山風を装ったなという気もします。この落差はなんとも言えません。
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もちろん、増築が繰り返されたようですので、一概には言えません。今回、図面は読み込みましたが、文献にほとんど当たることが出来ませんでした。図面と実際に見て目に残っていた印象でつくりました。

何度も繰り返しますが、こちら側はまるで舞台裏のようで面白いです。
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拝観した時、飛雲閣それ自体はもちろんそれまでも写真で目にしていましたが、驚いたのが黄鶴台と擲盃橋でした。高床の楼閣に繋がる渡り廊下、その前にかかる唐破風屋根付きの廊下橋。やりすぎとも思えるほどいかにもな建物ばかりなのですが、不思議と品を保っているのです。

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建築物は、同じ構造物であるという点において、よく音楽と比されますが、この建物は私にはポリフォニーの、限定するならバッハのフーガを思わせて、作りながらふと頭の中にブランデンブルグ協奏曲の第4番の第三楽章、第6番の第二楽章なんかが鳴ってくるのです。しかもピアノ編曲版。

本当に色んな旋律がうまく調和されたな、という建物です。