今回もまた別の視点で反出生主義について考えていきます。
ブッダは反出生主義?
反出生主義の話でよく出て来るのは「ブッダの教えは反出生主義か?」という問です。反出生主義の哲学者のショーペンハウアーもブッダの思想を引き合いに出しています。ブッダは「人生は苦しみである」という教えや「子を持ってはならない」と説いたことで、ブッダも反出生主義ではないかという見方もあるのです。
しかし、仏教の専門家からすると、ブッダは反出生主義ではないそうです。
ブッダは「人生は苦しみである」と言いましたが、それは人生を快を得るための機会だと思っていると苦しくなるという意味です。欲望を満たすことで感じる快はいつまで経っても満たされることなく、たとえ一時満たされてもすぐにまた不足を感じてしまい、いつまでも苦しむことになると言います。
だから、そういった苦しみの基となる際限のない快を求めるのではなく本当の幸福を求めようとしたのがブッダの教えであり、人生は苦しいから生まれて来なければ良かったとはブッダは言っていないのです。
そもそもブッダは「人間に生まれてくることは喜ばしいことだ」と言っています。人間に生まれてくることは得難い上に、人間に生まれなければ仏教の教えを聞くことができないので人間に生まれたこと喜ぶべきだと説いています。
さらにブッダは自殺をすることも禁じています。人が自殺をするときは、生きることに絶望して苦しみの中にいるときであり、ブッダは生きながらその苦しみから離れる境地を目指していることから、まず「自殺するな」という戒律を作ったと考えられます。
また「子を持つな」というのは、正確に言えば「子どもを欲しがってはならない」という意味です。
仏教の修行者が目指す境地はあらゆる煩悩から離れることです。その煩悩のひとつである結婚したいとから子どもがほしいという欲がなくなれば、自然と子どもは持たないよねというのがブッダの教えです。
さらにそれを求めているのは出家した人だけで、出家していない人には子どもを持つなとは求めていません。出家していない人でも真の幸せになれる方法も説いていることから、ブッダは人類全てが子どもを持つべきではないとまでは考えていないようです。
以上をまとめるとブッダは人間に生まれてきたことに喜び、仏道を学び、この苦しみが多い世界で苦しみのない境地に入りなさいと教えています。ブッダの教えは反出生主義ではなく、むしろ生まれてきたことを肯定する思想と言えます。
参考:【仏教ウェブ講座】反出生主義・ブッダの反論 |長南瑞生