日本の民家の頂点、吉島家住宅の魅力 | オーガニックスタジオ新潟社長の奮闘記 │ おーがにっくな家ブログ

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「オーガニックスタジオ新潟」社長のブログ。かっこいいエコハウスを提供するために日夜奮闘中。役立つ「家づくりの知識」は、オーガニックスタジオ新潟のHPにて更新。このブログでは個人的な関心ごとと「工務店経営」についてがテーマ

SAREXの現地視察で、岐阜の鳳建設を訪ねに行く道中、白川郷と高山市に建築巡礼を行った。
いろいろなところを巡ったが、焦点を高山市の吉島家住宅に絞って記事にしたいと思う。

この住宅は、竣工が明治40年(1907)
アメリカの建築家、チャールズ・ムーアが訪れ「地球を半周して見にくる価値がある」と言わしめ、
ドイツの建築家、ブルーノ・タウトも訪れ、著書「日本美の再発見」にて、大絶賛をしていた。 
詳細を知りたい方は「吉島家住宅」でググっていただきたい。

私自身も2012年に訪問済みで、2度目の訪問になる。
前回の訪問記へのリンク


初見ではないが、それでも新たな発見の連続です。



吉島家住宅の裏が駐車場になっているので、そこに停めた。
つまり駐車場から建物の裏が見えるわけです。
もうここからなんじゃこりゃと、発見の喜びで声が出てしまう。


何気ない漆喰だが、コテ仕事で横に帯が施されている。
これによって壁の雨が切れて、壁の汚れが軽減されるようになっているのだろう。
特に隅の処理が超絶技巧。真似したくても、かなり困難なディテールである。

飛騨高山は大工の仕事が素晴らしいことで有名ですが、
左官職人も相当な高水準であることが伺えます。



外壁も独特の貼り方です。
杉の板を縦にして貼っているが、反り止めで竿で押さえている。
その竿は、断面で正方形の木を斜めに割って三角にした材料。
なので、働き幅が大きいが、見た目がシャープな印象になっている。



これは吉島家住宅の発明かと思ったら、他の築年数が100年以上と思われる民家でも、
同じ外壁の処理をしているので、地域特有の貼り方だと判断できました。


吉島家住宅の隣にも日下部家住宅があり、この通り全体が歴史的景観地域だが、驚くことにほとんど観光客は訪れていない。
ここから1キロ程度離れた「三町伝統的建造物群保存地区」には、お土産店や飲食店の並び、
インバウンドの観光客でごった返していた。
一方で、吉島家住宅のある「下二之町大新町」は、極めて落ち着いて、建築を鑑賞できる。



ご覧の通り、道路からは建物を低く低く見せているところが、伝統的な街づくりの基本になります。

 

 

 


正面の縦格子の合間に、細かく横に木の簾が施されていて、虫が中に入らないようになっている。
これもまた超絶技巧。角の面取りも施されていて、恐ろしいほどの大工の技と手間を感じることができる。仕上げもべんがら系の自然塗装で古色に仕上げられていた。

 



こちらが玄関ポーチに該当する部分。
建物からくぼんでいて、左側に蔵戸が備わっている。


玄関の引違いは障子戸でしかないから、防犯のために、夜になると蔵戸を閉めることとなる。
この引き込まれた低い天井のポーチを抜け、暖簾と障子の引き戸を開けると店内へと入ることができる。



低いポーチから一転して、目に飛び込んでくるのは、ダイナミックな上方向へ広がる巨大空間です。
梁と束の構造が、縦横に交錯しているところへ、ハイサイドの窓から光が降り注いでくる。

 


思った以上に明るい。採光の窓の分だけ、この部分の天井高が高くなっている。
障子が紐でくくられていて、上げ下げできるようになっていて、光の量の調整ができるようになっている。

よく見ると、天井も黒やベンガラでの着色が施されている。
古いかやぶき屋根の家であれば、囲炉裏端の煙で燻されて黒くなるのであるが、ここは商家であって、明治末期の建築である。艶やかであり、黒味がかった梁は、代々の人々が手で磨いてきたという。
艶やかできらめき黒光りしている。

 


それがハイサイドの光を拡散して程良い光の空間ができている。
とにもかくにも、日本に存在する民家で最も美しい空間であろう。

吉島家に用いられているのは赤と黒の色である。
その中間にこげ茶がある。場所によって色のチョイスが見事だと思う。

 



細かな工夫のオンパレードなので、隅々まで見飽きることがない。
これはおそらく夜に灯明をともすための燭台としてのデザインではないだろうか?


水回りの空間は、赤く塗られていて、とてもモダンで洒落た印象となっている。
こういった色彩をうまく使うところは見習いたい。

流しはテラゾーで、ここも左官職人の技を見ることができる。


吉島家は現在も吉島家によって所有され一般公開されている。
現在の吉島家の当主は7代目の吉島忠男様。そのインテリアセンスが抜群で、選ばれている家具やアート作品の調度品。照明器具の全てにセンスが光っている。

面白いと思ったのが2階の天井の構成である。
外からは低く見せるために背丈を下げている影響で、2階の部屋の天井は半分傾斜天井になっている。
スキップフロアのように5部屋の続き間がつながっており、それぞれの天井の構成がすべて異なっている。

 

1:竿をしならせている

 

2:竿が直線の2本で突きつけられている。

2段の高さで次の間につながるが先が見えない。

 

3:竹の竿に変わる。 さらに3段上がり、次の間へ

 

4: 天井は平らとなるが、1/100程度 むくった感じを受けた

 


この続き間は歩みを進めることで、天井が移り変わっていく。
チャールズ・ムーアもこの2階の間に感動したとの記録がある。

 



最後の奥の部屋に床の間があり、竿が床の間に刺さらないように並行してゴールになる。

手前の天井とは竿の向きは90度逆になっている。


こういった細かなところにも遊び心と創意工夫が込められている。

吉島家住宅は、すべてにわたって飽きることがなく堪能できる空間である。
そして美しさや居心地、面白さなど学ぶところの多い素晴らしい住まいであった。



建築に関わる全ての方は、死ぬまでには一度、訪れておきたい場所じゃないかと思います。