杉原さんが帰って来ている…

会いたいような会いたくないような複雑な気持ち。


会わない方がいい。結婚して子供もいる私が今さら杉原さんに会ってどうするの?何を話すの?


杉原さんが帰って来ていると聞いただけで心が乱れるバカな私。


その2日後、夕方中田から電話があった。

「家に置いてある○○のドライバー(ゴルフクラブ)を練習場まで持ってきてくれ」


言われた通り、私は練習場に行った。

車の中で珠里が寝てしまい小走りで練習場の受付に行って顔見知りの受付の女性に「どの辺りにいる?これを渡してもらえないかな?」と言った。

「すぐ前の打席におられるよ。珍しい人も来ておられるよ。行ってみたら?」と言われた。


珍しい人…まさか…


打席に出ると偶然振り返った中田が私に気付き手招きをした。
中田の前の打席に杉原さんの姿があった。


心臓がドキドキ、バクバクした。

平静を装いながら中田の所に近付き「これで間違いないよね?」とドライバーを渡しながらちらっと杉原さんの所を見た。

瞬間、杉原さんが振り向き目と目が合った。


「おぉ、久しぶり。」

「お久しぶりです。お元気そうですね。」

「明後日また向こうに行ってしまうよ。中田クンと結婚して子供も出来たって?」

私は黙って頷いた。

小さい声で中田に「珠里ちゃんが車で寝ているから帰ります。」と言い、杉原さんや一緒にいた人達に「失礼します。」と会釈して打席から離れた。

受付の女性が「杉原さん、何年ぶりかな…さぁちゃん仲良かったからね~会えたでしょう?」と話し掛けて来た。

「うん、驚いたよ。でも明後日また行ってしまうって。久しぶりに来たけど珠里が車で寝ているから帰るね。」と言い出口に向った。


「さぁ~、さぁ~」



駐車場に出た私を中田ではなく杉原さんが呼んだ。


「…」


黙って立ち止まる私。




杉原さん、私と中田が結婚した事を福岡さんから聞いたのかな…
どう思ったかな?


未練がましい私がいた。


でも、私には珠里がいる。昔の感情に流されたり浸ったりしている場合じゃない。


と思いながらも、杉原さんももう40歳だなぁ。相変わらず日焼けしてるだろうな。前以上に痩せてはいないだろうか?女グセはおさまったかな?無理だろうな?とついつい考えてしまう。向こうにもかつての私みたいな相手がいたりして…十分にあり得る。


数日後、私は杉原さんと再会する。
珠里とべったりな毎日をすごしていた。当り前だけど。自分の時間が持てないのはちょっとストレスだったかな…
育児ノイローゼ一歩手前の友達がいたが、私は何とかなるようになるさでそこまでには至らなかった。
実家に珠里を連れて行けば初孫を溺愛する両親がいてくれたので、中田が遅く帰る日はいつも実家に行っていた。

珠里を可愛がってはくれるものの中田はオムツを替える事もお風呂に入れる事もしてくれない。
泣けば私にタッチするだけ。

中田から遅くなるとの連絡がない日は食事の支度をして食べないで待っていた。
ところが、連絡もないのに遅くなる日が増えて来た。
最初はまた飲みに行ったのかな?と思っていたが、余りにも頻度が…
確かに東京から戻って数年過ぎると友達も増えてくる。ゴルフを通じての知人友人も多くなった。

中田はとてもゴルフが上手く、教えてもらいたい人も多かった。ゴルフの誘いも多かった。アフターゴルフの誘いも多かった。

ただ、そういう方々と同等にお付き合い出来る所得はない。ご馳走して下さる方々もいらっしゃったようだが。

私は珠里と中田の為だけに日々を過ごしているみたいに感じたが、実家の両親という救いがあって壊れずに済んだかも知れない。


ある日中田が言った。
「福岡さんの友達の杉原さんって人、知ってる?」

「えっ??」

「今日、ゴルフで一緒だったよ。何年ぶりかにゴルフをしたと言っておられたけど結構上手だったよ。仕事でずっと県外に行ってるみたいだね?さぁの事も知ってるって…何か妹みたいに思っていたって懐かしいって」

私の中で封印したはずの(な訳ないけど)杉原さんの名前が中田から聞かされるとは。

「ゴルフを教えてもらったり、福岡さん達と飲みに行ったりしてた時期があったよ。杉原さん、帰って来られたの?」と必死な答弁の私。

「またすぐに向こうに行ってしまうって。さぁに宜しくって」

「そう…」


毎晩のように遅く帰宅する中田と久しぶりにまともな会話をしたような気がしたが、そんなこと、どうでもよかった。


杉原さん…戻ってたんだ。

ゴルフしてたんだ…