中田の帰りがほとんど毎日遅くなる。

仕事の後、練習場に行ってるのはわかるが代行で帰って来たり、時々朝帰りもあった。

朝帰ってきてシャワーを浴びて慌てて出勤。
「何してたの?何処に泊まったの?」と聞くと決まって返事は「練習の後、飲みに行って車の中で寝ていた」だった。


ある日、家の車庫に入って来る車のエンジン音が今までの音と違った。

「あれ?どうしたのかな?修理に出して代車かな?」と思いながら車庫を覗くとBMWがあった。

「どうしたのそのBMW?買ったの?」と聞いた。

中田は「うん」と答えた。

「相談くらいしてよ」と私。

「ごめん。欲しかったから」と中田。


欲しかったからなんでも買うの?支払は?

私は呆れてそれ以上何も言わなかったが数日間中田とは口をきかなかった。
ほとんど家にいないので特に影響もなかったが。






杉原さんと再会して、ほんの数分だったが、「私はやっぱりこの人じゃなきゃダメ」と思ってしまった。


すでに中田への愛情もなかった。結婚する前から愛情なんてなかったかも知れない。

全ては私が悪い。中田や周りに影響され疑問を感じながらも結婚してしまった。
両親と珠里に申し訳ないと思った。


そんな私の気持ちに追い打ちをかけるような出来事が次々と起った。






「さぁ~、さぁ~」

杉原さんが私を呼んだ。

私は黙って立ち止まり振り返った。


「さぁ、俺、驚いたよ。結婚したって聞いて」


「うん、でも何年たったと思って。杉原さん、元気そうで良かった」


「中田クンと幸せなんだろう?」


「幸せじゃない…」


「え?」


「全然幸せじゃない。」


「さぁ、どうした?」


「私、間違ってた。結婚なんかして間違ってた。」


「そんなこと言うな、子供いるんだろ?」


「子供は可愛いよ。でも、別問題。」

「そっか、でもどこの夫婦にも色々あると思うぞ。」

「私、行くね。」


「きっとまた会えるよな?元気でいるんだぞ。頑張るんだぞ。」


私は珠里が寝ている車に向って歩き始めた。


杉原さんは再び練習場に入って行った。


杉原さん…


杉原さんは付き合っていた頃、「おまえは俺の一番だ」って言ってくれた。


杉原さんと再会して私は、「やっぱり私はこの人じゃなきゃダメ」と思った。


怖くて口に出す事は出来なかったが…


車の中で珠里はスヤスヤと眠っていた。
私はしっかり生きなければならないと思った。