【映画】月~人物描写に厚みが感じられなかった | 鶏のブログ

鶏のブログ

観た映画、読んだ本などについてのメモです

【監督】石井裕也

【原作】辺見庸「月」

【制作国】日本

【上映時間】144分

【配給】スターサンズ

【出演】宮沢りえ(堂島洋子)

    オダギリジョー(昌平)

    磯村勇斗(さとくん)

    二階堂ふみ(陽子)

【公式サイト】

 

辺見庸の同名小説を映画化した作品でした。明示はしていませんが、2016年に相模原の知的障碍者施設で発生した元職員による大量殺人事件を題材にしている作品であり、ひと言で表すと非常に重いテーマを扱ったお話でした。事件発生当時、前代未聞の大量殺人事件が起こったことに対する衝撃があったことは勿論、犯人を非難するどころか逆に礼賛するネット世論もあり、むしろその方が社会的に根が深い問題だと感じたものでした。

で、そうした衝撃を受けたのは映画制作者も同様のようで、昨年6月に公開された「PLAN75」の早川千絵監督も、相模原の事件が同作を創ったきっかけであると語っていました(参考 「どんな未来を望みますか?」 弱者を切り捨てる社会で問いかける映画「PLAN 75」 早川千絵監督インタビュー)。 また、今年3月に公開された「ロストケア」も、訪問介護センターに通う高齢者40名以上が、そこの職員に殺されるという話を描いたものでした。

「PLAN75」も「ロストケア」も、高齢者がターゲットになる話であり、障碍者がターゲットとなる本作とはその点異なるものの、効率重視、コスト重視、生産性重視の昨今の風潮が極まると、高齢者や障碍者といった社会的弱者が排除されるディストピアが生まれるんじゃないのかという恐ろしい予見を劇化するという意味では、同様のテーマの映画だったと言えるのではないかと思います。

 

そうしたテーマを扱った映画であり、「PLAN75」や「ロストケア」同様、かなり期待していた本作なのですが、正直映画としてはイマイチでした。というのも、全体的に登場人物の描き方が薄く感じられたのがその原因でした。主人公の堂島洋子(宮沢りえ)とその夫の昌平(オダギリジョー)は、彼らの長男が先天的な病気を持って生まれ、3歳の時に亡くなったことをずっと引き摺っており、この2人の描写はそれなりに丁寧に描かれていました。しかしながら、この2人以外で最も重要な役である大量殺人を計画・実行したさとくん(磯村勇斗)に関しては、教員を目指していたものの、ならなかった(なれなかった)ことや、刺青をしていること、大麻を常用していたこと、施設入所当初は仕事にやりがいを感じていたことなど、実際の相模原の事件の犯人をなぞるような描写がありましたが、最も肝心な、最終的に大量殺人を起こすに至るまでの彼の内心の変化についてはかなりザックリとした描き方になっていて、全く合点が行きませんでした。

 

また、昌平の勤務先の同僚や、洋子やさとくんと施設で共に働く同僚が、昌平やさとくんを馬鹿にしたりイジメたりする場面が出て来ますが、彼らの描き方は極めて平板で、全く人間味を感じることが出来ませんでした。まるで書き割りのようだったと言い換えても良いでしょう。登場回数もそこそこあり、昌平やさとくんに対して吐き捨てるような心無いセリフも結構あるのに、彼らは名前すら出て来ず、これまでにどんな人生を送ってきたのかも一切触れられていません。言ってみればモブキャラな訳ですが、その割に昌平やさとくんの心情に影響を与える重要な役どころでした。制作者としては、モブキャラとしての名無しの彼らに、逆に社会全体を背負わせていたのかとも思ったものの、生きて来た背景のない人はいない訳で、その点に物足りなさを感じざるを得ませんでした。

 

俳優陣については、「PLAN75」でも重要な役をやっていた磯村勇斗は相変わらず安定の演技をしていたし、主役の宮沢りえも、かつての印象とは全く異なる快心の演技をしていたと思います。またオダギリジョーの存在は、全面的に暗い映画の中で、一服の清涼剤の役割を果たしていたように感じられるなど、総じて評価できるものだったと思うだけに、人物描写がイマイチだったのが残念でした。

 

そんな訳で評価は★3とします。

 

総合評価:★★★

詳細評価:

物語:★★★
配役:★★★★
演出:★
映像:★★★
音楽:★★★

 

原作は未読なのですが、洋子・昌平夫妻は出て来ないみたいですね。