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「ハァ…。着いた…。」
石段を上がりきったところで足を止め息を整える。
「ダル…。」
一護ちゃんも大きく深呼吸…見下ろした石段にふぅともう一度息を吐き、
「こんなキツかったっけ…。」
そうポツリと呟いた。
境内は太陽の光を木々が柔らかく遮っていて街より涼しい。私はまっすぐ拝殿に向かいお財布を取り出した。
「一護ちゃん、はい。」
手渡した100円玉と50円玉。彼は受け取り、
「喉乾いたわ。」
「え、ちょっ…。」
無人の社務所の端に遠慮がちに設置されている自動販売機に向かう。
えええ…お参り用に渡したんだけどな…。
一護ちゃんの背に苦笑いしながらも自分用の小銭をお賽銭箱に入れた。
ふぅ…吉祥寺の神さまお久しぶりです。…
誰もいない境内はとても静かで。手を合わせ目を閉じると ザザッと木々を揺らす風の音 そして遠くから近くなる足音
「…。」
私の隣りで止まった。一護ちゃんもお参りしているのかな…。
小さな頃の思い出が次々と瞼の裏に現れる。だけど不思議と幼なじみの姿は現在だ。
「…。」
一護ちゃんのどこか澄ました笑顔が浮かんだのはつい今目に映したからだろうと思う。
私は一礼し、そぅ…と隣の彼に目を向けた。そうしたら、
「長ぇよ。」
「え。」
バチッと目が合って。
「え、お参りしてなかったの?」
全くそんな様子のない一護ちゃんにビックリだ。
「しかもホントに買ってるし。」
そして手にはお水のペットボトル。ふふんと笑い脇に逸れながらクピクピ飲み始める。
「飲む?」
差し出され…一瞬躊躇したけど、意識するほうがおかしいかって、
「ありがと。」
私は受け取り、口にした。
…ハァ。美味し。
「こっち来てみ。」
一護ちゃんが拝殿脇に向かう。そして天井を指さした。つられて見上げると、
「これだろ。隠れハート。」
「あ…。」
太い梁のあいだ、少し古びた板の天井にうっすらと広がる雨染みはまさにハート型…目にした途端ぶわっといつか見た記憶と重なって、
「わぁ…すごい!あ、ごめん。」
ヤケにはしゃいじゃったな。
背伸びをしたら少しふらついた。一護ちゃんに軽くぶつかるほどだ。
「ね、すごいね、ホントにハート!」
空中で指で形をなぞる。何度もそうしてしまう。
「っつか座らね。あ、寝たほうがよく見えるし。」
一護ちゃんは誰もいないことをいいことに拝殿の端に腰掛け寝転がる。その感じが子どもの頃に戻ったみたいで、
「うん!」
私は懐かしくて…隣りに腰掛けた。
・・・・
「フフ、そうそう、一護ちゃん意地悪でさ、私のことよく泣かせてたよねー。」
「それはお前がトロいから。しかも生意気だったから。」
この場所が涼しいこともあって私と一護ちゃんはしばらく話し込んだ。
「お前女子校だよな?女ばっかってすげーギスギスしてそうだけど、実際どう。」
「そんなことない、皆仲良いよ。おしゃれを追求したり恋バナしたり。めちゃくちゃ楽しい。」
一護ちゃんたちがうちの高校に来たら大変なことになるよ。…ということは声にしないでおく。
幼なじみ皆ビジュが強い。きっと彼らは学校でもこの辺りでもアイドル的存在なんだろう。特に一護ちゃんなんてモテオーラがすごい。
さすが…私の初恋のひと、だ。
「一護ちゃんとハルくんとタケちゃんは同じクラスなの?」
「ああ。専攻が同じだから来年も同じじゃね。」
「気心知れてるからいいね。」
「まぁ…。他の奴らとも全然遊ぶけど、アイツらとは楽さが違うかも。」
笑い合いながら、改めて思う。
まさか一護ちゃんと会えるなんてなー…。
昨日出会った時、以前どこかで知り合ったような気がしていた。交わす会話に子どもの頃の感覚を無意識に思い出したのかもしれない。
お互い遠慮なく…というのが正しいのかどうか、睨み合っちゃって。名前を聞いて、胸のなかにくすぐったさが漂って。
幼なじみっていう前提のおかげで今変に意識することはない。でもこうして思い出を辿っていると不思議な縁を感じてしまう。
もしや運命とか?なんて、ロマンチックのカケラを求めているわけではないから、
「え?寝るの?」
「目ぇ瞑るだけ。」
10数年ぶりでも 沈黙さえも心地良い。私のなかで彼が『キラキラした思い出のなかの人』になっているからなんだと思う。
会えて良かったな…。
雲行きは怪しいけど雨雲はまだ遠そう。すっかり隠れた太陽はこの場所をもっと涼しく心地良くして、
「気持ちいいー…。」
なんだか深呼吸…私の心をただ思い出に浸らせてくれた。
ちょうどこの季節、夏…だったな、私がここから引越したのって…。
そう思った時、
「…この隠れハートさ。」
「ん?」
一護ちゃんが目を開ける。そして隠れハートを見ながら言った。
「好きな者同士で一緒に見たらどうとかこうとか。」
「どうとかこうとか?フフ、そこ大事。」
「お前、男いんの。」
「え?」
体を起こす。そして大きく息を吐き目を合わせた。
男?…男…なに突然。
きょとんとしている私に小さく息を吐く。そして改めて、
「付き合ってるヤツ。惚れてるヤツ…とか。いんの。」
あ…。
その時ふと『彼』の顔が浮かぶ…だけどすぐにかき消し、
「いないよ。」
素っ気なく答える私は…まだ引きずっているのだろうか。
「…そか。俺もいない。」
あの人のことを、まだ…。
「…だったらさ、」
「うん。」
「俺ら付き合わね。」
「…。…ん?」…
彼の発言を聞き返すくらい。まだ。
・・・・
「…ハハ、またまた…」
「マジな話。俺お前のこと好きみたいだわ。」
みたい、とか…ツッコミどころあるけど、
「お前のこと落とすけど。いい?」
初恋の人との思い出は続くのか。
「…え?」
一護ちゃんの真剣な眼差しから目を逸らせなかった。
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