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「行かないで。」
ヒカリが腕を掴む。オレもだが久仁さんも眉をひそめた。
今の今まで背を押していたのに…どうしたってんだ…?
「…なんでだよ。」
短く問い返すが、ヒカリはすぐに答えようとしない。言葉を選ぶように唇を閉じる。
冗談で言っている風はない。ヒカリの声は低くどこか焦りを含んでいた。
「ねーちゃん?」
ヒカリはゆっくりと顔を上げた。
「やっと分かった…きっとそうだ。」
呟きながら…情けなさそうに笑いながら。
行くなという発言の意味をきちんと聞くべきなんだろう。だが今のオレは相手をするほど余裕がない。
***が待ってんだ…10年前の二の舞はごめんなんだよ…。
「悪ぃけど、話は後で聞く。とりあえず行ってく…」
「行ってもいないよ。」
「っ…。」
オレは眉をひそめ久仁さんは神妙な顔をする。
なんだってんだ…?って…
え…
「なんで…。」
なんで泣くんだよ…。
笑いながら目に涙を溜め始めるヒカリ…オレは何が何だか分からなくなった。
「大和、ヒカリの話を聞こうじゃないか。」
苛立ちと戸惑いが顔に出る。久仁さんに宥められ大きく息を吐けば、
「大和くんから別れた時のことを聞いた時、おかしな話だなと思った。」
ヒカリは泣き笑いながら言った。
「大和くんがすっぽかすならまだしも、会いたがっていた彼女が来なかったってことにね、納得できなかったのよ。でも今の電話で分かったの。」
「…なにが。」
「10年前、二人は違うツリーの前で待っていたってこと。」
・・・・
「…え?」
…10年前の記憶のなかで、ツリーだけが異様に鮮明だった。
「大和くん、高校生の頃、自転車をよく使ってたでしょ。私が見かけた時も自転車の二人乗りしてたもんね。だから、駅を利用することが少なかったんじゃない?だから知らなかったんじゃない?」
舞い降る雪 曇り空を破る程先端の尖ったツリー
均等に取られた三角形の白い枝ぶりに無数のLEDが結晶のように散りばめられ、白と金の光がただ瞬く。キレイではあるけど、
「南口のツリーを待ち合わせにする人多かったよね。でもね、」
人工的過ぎて冷たい印象を持ったことを覚えている…。
「北口にもツリーはあるんだよ。」
北口…北口は…。
「ほら。知らなかった。」
「…。」
北口のツリーは…。
黙るオレに久仁さんが身を乗り出す。
「***はすっぽかしたわけじゃなかったのか…。」
「きっとそう。」
ヒカリは大きく頷いた。
「彼女、今 電話で『ツリーの前で』って言ったんでしょ?」
…南口のツリーのあった場所が噴水になっていて良かったと思った。
「北口には、今もツリーはあるよ。」
もう、すれ違うことはないから。
「…ねーちゃん、サンキュ。」
・・・・
「急いでください。」
タクシーに乗り込み、北口を指定した。車窓越し 雪が舞い始めたことを知る。
「ハァ…。」
10年前みたいに凍えてねーか…。
ヒカリの言うように、同じツリーの前で待っていたらオレ達はどうなっていただろうと思う。
やっぱ結果別れたかもしれねー。だけど少なからずあの夜を思い出すたびに胸に痛みを感じることはなかったと思う。…お互い。
『ずっと後悔していたことがあるの。』
…アイツは電話越し、そう言った。
『もっと話をしておけば良かったって…そうしたら違ったのかなって…。』
話をしておけば、あの日オレが行かない選択をしなかったかもしれない、そういう意味で言ったんだよな。
オレと同じだ、互いに待っていたなんて思ってもいない…。
もしかしたら全部都合良く考えているだけかもしれねー。でももし、
パタン
もし今、北口のツリーの前で待っているんなら。
「ッ…。」
たどり着いた駅前広場 南口より随分と狭く味気ない。だけどその中心に真っ直ぐに伸びた一本のツリーは、
あった…。
飾り付けは控えめで、LEDの光もまばらで光はどこか頼りなくて、
***は?…***…。
けれど近づくと、その灯りは柔らかくて。
電球色の光が木そのものを静かに浮かび上がらせている。雪で濡れた葉が光を含み、まるで呼吸をしているように見える。
「っ…」
そんなツリーの端に佇むアイツは…。
粉雪の舞うなか 肩をすぼめ寒さを堪えている…その姿を目に映した時、
もう、10年前のことはどうでもいいか…。
そう思った。
アイツが目の前にいる。オレを待っている。…オレ達は、会える。
「…。」
もうそれでいいじゃねーか…。
瞬きもせずゆっくりと向かう。粉雪舞うなかアイツから目を逸らさずに。
「あ…。」
***がオレを見つけホッとしたような顔をした。そして真っ白い息を吐く。反対にオレは息を止めた。
「大和。」
***が笑う。そして頼りなく笑い返すオレに、
「10年待ったぞー。」
満面の笑みでそう言ったから。
・・・・
記憶のなかの景色が塗り替えられた気がした。
「メリークリスマス。」
***を腕のなかに閉じ込め、耳元で囁いた。
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