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「驚いたよ。まさかここに探し人がいるなんて。」
探し人…?
「なにがあったんだ。突然会社を辞めたりして。」
固まったように俯いたままの私に、誠は静かに問いただす。けれど少し早口だ。
穏やかそうに感じても少し怒っているのが分かった。
なんで?…なんで怒るの。
「相談してくれても良かったんじゃないか?それとも俺にも言えないこと?」
「なに言ってるの…?」
ゆっくりと顔を上げ 真正面に座っている誠を見た。
「私たち別れたんだよ?…探す必要ないでしょ。」
自分の唇が震えているのが分かる。当然声までも。異常なほど心臓の音も凄い。けれど誠にはそれは伝わらないらしい。
「またそんな事を…。別れた?いつ。」
「…アナタの結婚記念日に。言ったでしょ、『もう会わない、奥さん大事にしてね』って。」
「そんな話いつもしてただろ。こんな時に冗談言うなよ。」
冗談…?
惚けているのか それとも本当に伝わっていなかったの?誠はどこか呆れたような表情を見せている。
「…おい、まさか本気だったのか?」
けれど、口を一文字に結んだ私を前にその微笑みを消した。
「それで会社を辞めて…引越しまでしたのか?」
その続きは、
『そんなに俺に惚れていたのか』
「…。」
そんな言葉なような気がした。
「…***、その…なんて言うか…」
「もう他人だから。」
ガタッ
何か言おうとした誠を振り払い席を離れる。その時歓声が上がったと同時にお客さんが立ち上がった。
「すいません、通して…」
今日は満席 行く手を憚る人・人…それでも誠を振り返ることもせずにカウンターに戻ろうとした。それなのに、ひとつだけ動かない影が邪魔をして思わず顔を上げる。
「すいません、っ…」
そうしたら、
「なんて顔してんだ。」
あ…
大和が、いて。目の前に立っていて。私はその瞬間とんでもなく狼狽えた。なんて恥ずかしい場面を見られてしまったんだって
それでも強気に
「先に帰るから。」
腕をぶつけながらカウンターに戻って。
「あ、***…」
「おじさんごめん。帰らせて。」
久仁彦おじさんに有無も言わさず 大和を振り返ることもせず
ガチャ!
…誠を視界に入れることもせず、逃げるように店を出た。
バタン!!
…いや、逃げるようにじゃない 逃げたんだ。
・・・・
「…ったく。」
見慣れた背を見つけ坂道を走り上がった。
『っ…』
ワーー!!
オレがハッキリと二人の姿を目にした辺りで アイツは席を立った。
先制点を決めたゴールは観客を立ち上がらせ視界をジャマする
だから***の表情までは見えなかった。目の前に現れてやっと戸惑い隠せない顔を目にした。
『なんて顔してんだ。』
なにを言われたか知らねーが、いつもの***じゃない。
『先に帰るから。』
慌てた様子で目を逸らす。
放っておくわけにもいかずオレはあとを追った。
「おい、ぶう子!」
泣いてるんじゃねーか…そう思って。
オレの声は届いているだろうに速度を緩める様子もなく上り坂を歩いていく。
「***っ。」
グイッ
「えっ。」
後ろから腕を掴んでやっと、***は足を止めた。
「え、じゃねー。」
けれど***はオレの想像とは違い、
「ビックリした…どしたの、大和。」
なんて…目を丸くした。きょとんとした表情で。
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