金曜日の彼女 (誓いのキス:Short:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

長編にするかどうかはこの続きを書きたいかどうかなのだ。

 

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「…。」

 

…良かった。

 

俯いた横顔を見ながら胸をなで下ろした。

 

最低かも。だって大和さんはこんなに悲しみに暮れているのに

 

私はある意味ホッとしている。良かった…って思っている。

 

ギュッ…

 

彼の上着を手に持ったまま 横顔を見つめる私は。

 

・・・・

 

閉店前のLIには私と彼の二人だけ。

 

大和さんはいつもどおり仕事帰りに寄り ビールを飲んだ。だけど、今夜違うのは


いつもは勇太さんや久仁彦おじさんと賑やかに騒ぐのに

 

「大和…あ、そか。」

 

「そうそう。ソッとしておいてやって。」

 

皆は事情を知っているんだろう。誰も大和さんに寄りつかない。

 

彼は誰と話をするわけでもなく 一人で窓際のテーブル席に座り 閉店まで外ばかりを見ている。


ショップの閉まった麻布商店街を歩く人は少ない。

 

帰りの遅いサラリーマンが通るかどうか その程度の人通りをただ見つめているんだ。

 

最初は疲れているのかなって 彼流のリラックス方法なのかもとそう思っていた。

 

だけどいつからか 誰も寄せ付けないその背に 憂いのようなものを感じ 切なささえも感じ始める。


 

帰り支度を終えた私が 彼の上着を手に傍にやって来た事さえ気付いて貰えない。


隔たる透明な壁のこっち側から声をかけることさえ許されない それは閉店時間を過ぎても続く。

 

「…。」

 

大和さん…。


こういう事が時々あった。…多々あった。


「…大和さん。」

 

「…。」

 

聞こえはしない。振り向くこともない。

 

「大和さんてば。」

 

「…え…?」

 

「もう閉めます。」

 

「あ…。…そうか、もうそんな時間か。悪い。」

 

ガタッ

 

ハッとした瞳だとしても 少しだけ…笑顔を見せたとしても

 

明らかに落胆している表情は隠しきれなかった。

 

「風が強いね。ちゃんと着てくださいね。」

 

上着を受け取ったけれど 羽織ろうとしない

 

「そうなのか?まぁまだ夜風が冷たいしな。」

 

バサッ

 

窓の外は街路樹が随分と左右に揺れている。葉がハラハラと落ちている

 

風が強いことも気づかなかったの 外を見ていたわけじゃないなら なにを見ていたの

 

「あれ、クニさんは?」

 

「とっくに帰りました。」

 

「そうなのか…。あ、じゃぶう子、一緒に帰るか。」

 

いつもの笑顔で話しかけてくる彼の瞳には 一体何が映っていたんだろう。

 

・・・・

 

「こうしてぶう子と一緒に帰るの初めてだな。」

 

アーモンド色の少し長めの前髪が揺れている。外に出れば肩を窄める程 夜風は冷たく強かった。

 

「ったく。クニさんも何考えてんだか。ぶう子も女の子なのにな。こんな夜遅くに一人で帰らせるとか物騒じゃねーか。」

 

「アパートすぐだし 大した距離じゃないですよ。…と言うか、私も女の子なんだから?聞きづてならないっ」

 

「ハハ、 空手初段の奴がよく言う。ぶう子みたいに威勢の良い女だと相手が腰抜かすな。」

 

こうして肩を並べて歩ける事が嬉しかった。

 

大和さんが好き…そう自覚したのはいつだったろう。それこそ

 

「ねぇ、大和さん。」

 

「ん?なんだ?」

 

彼が一人 ぼぅ…と 窓際で過ごすのはいつも金曜日だと

 

「…ううん。なんでもないです。」

 

「なんだそりゃ。」

 

気づいた頃だと思う。

 

理由を聞きたいのに聞けない 彼の心に踏み込んでも良いのか 自問自答する日々は続いて ほら、今夜だって

 

「あ、私こっち。」


やっぱり聞けない…。

 

道路の分岐点は私達の分かれ道

 

指を指し 行く先に後ろ歩きしながら手を振って。

 

「家の前まで送る。」

 

「ううん。大丈夫です。ホントにすぐそこだから。おやすみなさい。」

 

本当はもっと一緒にいたい

 

口に出来ないのは 今以上彼を好きになっても無駄だと感じているからで。

 

「そか。」

 

静かに微笑む大和さんに改めて手を振ったりしながらも 分かっていた。

 

「おやすみ。腹出して寝るなよ。」

 

「大和さんこそ、寝相悪そ。」

 

大和さんは誰かを待っているんだって。それはきっと女性なんだって。

 

「うるせ。じゃな。おやすみ。」

 

「おやすみなさい。」

 

笑い、手を振った。そして同時に背を向けた。

 

「…。」


私ひとり…靴音が遠くなるのを感じてから振り返った。

 

・・・・

 

暗闇に染まっていく大和さんの背を見つめていたら

 

「…なにを見ているの?」

 

段々と小さくなっていく彼の背を見ていたら

 

「誰を…待っているの。」

 

窓際 ただ外を見ている彼の横顔を思い出し…こっちまで切なくなって。


・・・・

 

毎週金曜日 大和さんは窓際に座り 誰かを待っていた。

 

それは多分女性で。彼にとってとても大事な女性で。

 

でも 待ち人来ず、の状態はこれからも続くだろう。私が思うに…多分だけど

 

「…バァカ。」

 

毎週金曜日 大和さんは届かない恋を瞳に映しているんだから。

 

 

 

★END★

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