サンタマリア:32 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

この冬の行事が昨日で全て終わった。よっしゃっ。

 

before

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「じゃ、今夜はこれで。」

 

ガタッ

 

何度目かのシミュレーションの確認後 俺は早々に腰を上げた。

 

「リキくんどこ行くの?」

 

定休日の黒狐に集まった俺達怪盗ブラックフォックスの面々

 

時計を見ればまだ21時過ぎ これから***のアパートを訪ねるのも悪くないと

 

「ああ。」

 

携帯を手に取り早々に皆に背を向けて。

 

「彼女んとこかぁ~?」

 

「まぁ そんなとこだ。」

 

健至の冷やかしにニヤッと口角を上げ 入り口へと向かったが

 

「流輝、急いでるとこ悪いけど聞いて欲しい話がある。」

 

「は?」

 

「かも~ん。」

 

「は…。」

 

ボスがカウンターから手招きをし…俺の計画は脆くも崩れる。

 

「皆も聞いてくれ。大正ダビンチの…」

 

ボスは俺達を見渡し なんとも優しい表情で話し始めた。

 

「大正のダビンチの名画『桜』『鈴蘭』『花水木』そして『椿姫』に込められた愛の軌跡をさ。」

 

・・・・

 

「それぞれの名画にはタイトルどおりの花や樹木が描かれているけれど、お前達も感じているとは思うけどさ、これ、主役はこの女性なんだ。」

 

ボスは俺達に見え易いように『桜』『鈴蘭』が描かれたキャンパスをカウンターに立てた。

 

「なんとなくそんな感じはするよね。『花水木』も女の人描かれているし。」

 

「そう。この女性はどうも…」

 

「同一人物。」

 

「そう!さすが流輝~。」

 

ボスは拍手をして俺を讃えるが

 

「で?」

 

同一人物で有ることは俺達は言葉にせずとも感じ取っている。そしてその人物は

 

「この女性こそ大正ダビンチの奥さんなんだ!」

 

「…。」

 

誇らしげにそれを告げたボスだったが

 

「…そうだろうよ。」

 

俺達は驚きもせず頷き返すだけだった。

 

それも想像つくからな…。

 

胸を張るボスに対して微妙な空気が店に漂う。俺は小さなため息と軽い咳払いをし

 

「じゃ。」

 

また身を翻し入り口に向かった。だがボスが伝えたかった話はまだ序章で

 

「二人は一度別れている。別れさせられた…が、正しいか。その思いが『椿姫』には描かれているらしいんだ。」

 

「え?」

 

俺を立ち止ませ…また話に耳を傾けさせて。

 

・・・・

 

「昔だからな。世間で言うロミオとジュリエットみたいなもんだ。」

 

ボスは『桜』『鈴蘭』を眺めながら静かに語り始めた。

 

「大正のダビンチはどうしてもこの女性への愛を貫きたかった。だから『自分は絶対に有名な画家になる10年後ある場所で待っていて欲しい』…そう告げ、彼女の前から姿を消した。」

 

カタッ…

 

健至は腰を下ろし 俺も…テーブルに戻り ボスと絵画に目を向けた。

 

「彼女を描いた三つの絵画に想いを馳せた。絵画の裏に書かれている暗号はその約束の場所なんだと思う。そしてその場所に『椿姫肖像画』はある。10年もの想いを『椿姫肖像画』に込めているんだ、そりゃ大事な物だよ、金儲けの餌食にはさせたくないよな。」

 

「…。」

 

話を聞きながら…ボスが俺達に いや、俺をどうして引き留めたのか分かった気がした。

 

ミッションに対する最近の俺のどこか乗り切らない様子を感じていたんだろう

 

危険な目に遭う程の価値のある約束か

曾孫は大正ダビンチの想いを受け継いでいるのか

 

もっと…単純に大正のダビンチの絵画を待ち遠しく思っている奴よりもずっと

 

「曾孫は幼少の頃、大正ダビンチの横に座ってはキャンパスを覗き込んでいたらしい。絵筆を持っては真似をして壁や床に筆を走らせて…」

 

***よりもずっと…彼の芸術品を愛しているのか…

 

「俺のじいさんの記憶によると、曾孫は全日本美術コンクールで優秀賞を取っている。」

 

「は?じゃぁもう曾孫を特定するのは楽勝じゃねーかっ」

 

拓斗は目を見開きボスに詰め寄った。だがボスは首を横に振り

 

「コンクールは小中高大と年代毎に開催されているんだ。じいさんの記憶には取ったっていう事実しか残ってなくて何歳の時かが分からない。」

 

「…でも、すげぇ絞れるよな。」

 

「独自で調べたけど…残念ながら近年10年前以降はデータが無い。だからたっくん、調べて。」

 

「…ハァ…。」

 

「ま、これで分かっただろ。曾孫は大正ダビンチの血も…想いも受け継いでいるんだ。」

 

そう言い切った時 俺と目を合わせる。…だな、皆に伝えているというより俺に言ってるんだなと

 

「…。」

 

一人でも空気を乱す奴がいればミッションは失敗に終わり その後の俺達に危険が及ぶ…それをまざまざと感じさせられて。

 

「それと。」

 

バサッ

 

大きさとしてはA3位だろうか ボスは一枚の光沢紙を拡げ掲げる。それを目にした時

 

「…?!」

 

「それ椿姫肖像画?!」

 

ガタッ

 

健至は腰を上げ 俺や拓斗、宙までも身を乗り出した。

 

「フッフッフッ。白黒でしか見たことないだろ。俺も頑張ってさ、白黒をカラー化してみたわけよ。」

 

自慢げなボスの笑顔ではなく 俺達は幻の『椿姫肖像画』に釘付けになった。

 

それはまだ鮮明ではなく影も多くはあったが

 

「白黒では分からなかった事がカラーでは知れるだろ。」

 

「…ああ。」

 

俺は片方だけ口角を上げ椅子に凭れた。そして胸の前で腕を組み足を組み…絵画に描かれた女性の手元を見つめながら言った。

 

「指輪が緑…エメラルドだな。」

 

・・・・

 

「大正ダビンチが曾孫に持たせた指輪は彼が送った婚約指輪だ。曾孫はエメラルドの指輪を持っているってわけ。」

 

ボスの誇らしげな顔ったらない。だが俺達も釣られニヤニヤとしてしまっていた。

 

「絵画の裏に書かれた暗号は『花水木』が手に入ったら解ける。」

 

「お。たっくん、言ったね~。」

 

「…た、多分だし。それまでは曾孫を探す。とりあえず過去のコンクールでの受賞者リストを挙げるのに専念する。で、男女別にして…」

 

「拓斗、箇条書きにして書いとけよ。忘れないから。」

 

「柳瀬バカにすんなっ」

 

『椿姫肖像画を曾孫に託して欲しい』…

 

遺言を託された時の使命感が再び俺の中で動き始める。

 

「ミッションは確実に成功させる。」

 

そう口にした俺は…まだ見ぬ『椿姫肖像画』と曾孫を瞼の裏に映しだしていた。

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

「…なんだかな…。」

 

夜も更けた23時過ぎ 私は未だスケッチブックを片づける事もせず 鉛筆を持ったまま呆然としていた。

 

流輝さんとのいつかの帰り道 彼に言われてから こうして時にスケッチブックを広げるようになった。

 

『一流品に囲まれてるからこそ学ぶ事もあるだろ。また違う表現が出来るかもしれない。』

 

あの言葉…結構胸に響いたんだよね。

 

それから伊吹ちゃんに絵を教えるようになって 収め込んでいた絵筆を取り出し…だけどキャンパスを出すには部屋のスペースが足りない

 

スケッチブックに風景写真や一輪の花をモデルに鉛筆を走らせているわけだけど

 

…いつもなら

 

「…。」

 

あっという間に時間が経って…。だけど今夜は全く筆が走らなくて。

 

「ハァ…」

 

腰を挙げ本棚の美術本の表紙に目を走らせながら

 

「…ハァ…。」

 

カタッ…

 

何度目かのため息をつき…地味な色の中でひときわ目立つクリスタル散りばめられた宝石箱を手に取った。

 

そして

 

「…ふぅ。」

 

ただひとつ入っているエメラルドの指輪を取り出して。

 

「…曾おじいちゃん、***は今なんだか…」

 

手の平に載せ呟く私はもう

 

「…愛する人を疑っていたり…いや、…いやぁ…」

 

バカじゃない。流輝さんを疑うなんて

 

「…ハァ…」

 

バカじゃない…。

 

・・・・

 

曾おじいちゃんが曾おばあちゃんに送った婚約指輪

 

曾おばあちゃん亡き後 曾おじいちゃんから貰った大事な指輪は私のお守りになっていた。

 

お守りとしてって…あぁ、でも本当にそう言われたのかな、覚えていない。

 

ただ、しわくちゃの大きな手から 絵の具の色んな色の付いた手から…器上にした両手に…。

 

「…流輝さんを信じよう。」

 

…コト。

 

静かに箱の中に戻し 棚に戻す。そしてチラッとカレンダーに目をやった。

 

「…。」

 

もうすぐ『花水木』搬入…。

 

手を伸ばし 手に取ろうとした時だった。

 

ピンポ~ン

 

「え。」

 

え…ウソ、この時間に来る人ってば、え、ウソぉ~?!

 

ピンポ~ン

 

「は、はいぃ~!」

 

夜の訪問者は私の胸をドキドキさせる。今夜は緊張と

 

ガチャ

 

「流輝さんっ」

 

「よ。」

 

「どうしたの突然っ」

 

「なんだよ?迷惑か?」

 

「いや、だから連絡くらい…あ~、またお酒飲んでるぅ!」

 

…後ろめたさ、と。

 


 

next

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