サンタマリア:17 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

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忙しいなやっぱ年末はさ…。

 

before

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「美味しかったな…」

 

博物館でパンフレットの整理をしながらポツリ呟く私は 朝から頬が緩んで仕方なかった。

 

流輝さんが泊まった翌朝 私が目覚めた時に彼は居なくて

 

『…夢?』

 

一瞬 夢ではないかと…流輝さんの事ばっかり考えているから彼が訪ねて来る夢を見たんじゃないかと勘違いした。

 

だけど

 

『…この匂い…』

 

キッチンに立って気づく 彼がお味噌汁を作ってくれたこと 傍にラップの張られたネギ入りの卵焼きまであったこと

 

「凄く美味しかったな…」

 

料理上手な男性ってだけで珍しいのに 上手すぎる 美味すぎる…

 

男性に…しかも彼氏に朝食を作って貰った事なんてない

 

「流輝さんてば何者…」

 

パーフェクト過ぎる彼 私にはホントもったいなさ過ぎて…ねぇそれこそ

 

「夢の中??」

 

ねぇ流輝さん、貴方と出会った事、夢じゃないかと思うよ。

 

・・・・

 

一夜を共にしても 流輝さんはキスしかしなかった。

 

口では意識をしているような事を口走ったけれど 眠いから寝るって…それってつまり

 

身体が目当てではないのよね?レストランで出会った彼女のように一夜の恋人ではないのよね

 

スタイル良くって綺麗でモデルさんみたいな人だった。あんな風な女性が彼にはよく似合う

 

それなのに彼はあっさりと振って 多分今までも何人も夢中にさせては振って

 

ただの性欲?だったら私は?一夜を共にしてもキスで終わった私は…

 

「…抱く気にもならなかったとか?」

 

どちらかというとぽっちゃりかもだから 抱き枕止まりとか…

 

「…というより 私のどこが良いんだろ。」

 

浮かれながらも不安は募っていた。それなのにその俯きとは反比例に ヤバい もう会いたくて堪らない、なんて

 

「***。」

 

「…。」

 

「お~い。***っ」

 

「え?…あ…」

 

流輝さん好き度が増してる私はヤバい…。

 

「た、達郎??」

 

流輝さんで頭がいっぱいになっていて 幼なじみに声を掛けられてもすぐに振り返る事が出来なかった。

 

「オッス。サボってないで働いてるかぁ?」

 

「え、どうしたのぉ?」

 

だけど思いも寄らない来客に現実に引き戻され小走りに駆け寄る。

 

にこやかに手を上げ 向かって来る達郎は私の幼なじみで

 

「なになに?仕事?」

 

現役バリバリの刑事だ。

 

・・・・

 

達郎は私の親友蘭子のお兄ちゃんでもある。小さい頃三人でよく遊んで気心は知り合っている仲で。

 

OL時代はよく食事に誘ってくれたっけ。本意ではない職場に勤めた私を心配してくれて 学芸員になりたいという夢を諦めるなと背を叩いてくれた。

 

責任感が強くって…血は繋がっていなくても 頼れる存在、私にとってもある意味お兄ちゃんだ。

 

スーツ姿で颯爽と歩く彼をテレビで偶然見つけてしまった時 あぁもうすっかり刑事が板に付いたねって達郎の夢叶って良かったねって嬉しくなったっけ…。

 

「そ。仕事。***の姿が見えたから つい声を掛けた。」

 

「仕事って…」

 

 はにかむ達郎の背後 事務所の入り口で館長がスーツ姿の男性と話をしているのが目に入れば

 

「…何か大変なこと?」

 

だって刑事さんだもの。何か影深いものを感じ小声になる。そして同時に嫌な予感が頭をよぎった。

 

「結構大きなニュースになっていたから知ってるよな。二週間前、ある名画が盗まれた。で…」

 

達郎は振り返り 館長達の様子を目に映しながら言った。

 

ああ…やっぱり…。

 

「搬入予定の絵画が怪盗ブラックフォックスに狙われる可能性がある。」

 

「ん…」

 

恐れていたことが起こりそうな予感。

 

・・・・

 

「どの案件も未だ証拠はあがらず捜査は手詰まりになってる。うちらも必死だよ。」

 

達郎は中庭に私を誘った。私は彼の言葉に頷きながら小春の温かい陽射しの下 隣を歩いた。

 

「世間じゃ正義の味方扱いだけどな。」

 

「私も…達郎にはごめんだけど、少し応援しちゃってたもんね、怪盗…。」

 

「気持ちは分かるよ。悪人から美術品を奪い それに合う場所に寄贈する。昔でいうねずみ小僧だよな。」

 

達郎は 木陰のベンチに腰を下ろし 隣を指差す。だから私はゆっくりと座り 達郎のどこか思い詰めた横顔を見つめた。

 

「だけど…寄贈ばかりしているわけじゃないんだ。被害届が出されていないから表には出ていないけれど 密かに行方知らずの品もある。…ブラックフォックスこそが闇ルートに流しているという情報もあるんだ。」

 

肩を落とす達郎は随分と疲れているよう。私はソッと顔を覗き込み

 

「ちゃんとお休みとってる?食事もきちんと取ってる…?」

 

声を掛けながら背を擦る。そうしたら達郎はフッと笑い

 

「***の…アレ食いたいな、特製グラタン。」

 

ニカッと白い歯を見せる彼に

 

「グラタン好きだよね~。達郎のためなら腕を振るうよっ」

 

私は微笑み頷いた。そうしたら達郎は拳を握り空を仰いで

 

「***の為にも阻止しなきゃな。『花水木』だっけ。」

 

そう言って春風に前髪を揺らす。そして私の手を取りギュッと握り

 

「***の曾じいさんの形見みたいなもんだもんな。」

 

「…うん。」

 

真剣な眼差しで見つめ…言った。

 

・・・・

 

「俺は美術品とか工芸品とかに疎いから知らなかったけど ***の曾じいさんってすげぇ有名な画家だったんだな。」

 

達郎の言うとおり 私の曾おじいさんは大正のダビンチ その人。

 

私が美術の道に進んだのも 学芸員を目指したのも曾おじいちゃんの影響だ。

 

「あんな偉大な人の曾孫なんてね。自分でも信じられないけど。」

 

だけどそれを知ったのは高校生の時。当時描いた油絵がコンクールに入賞し 表彰式後 両親から話をされる

 

その時たまたまうちにお祝いに来てくれた達郎に驚きのあまり話をしてしまい…両親に随分怒られ、そして決して口外するなと私たちはキツく言われ…

 

「***の才能は曾じいさんの血を引いてる証拠だよ。お前ホント上手いもんな。」

 

どうして隠さなければならないのか その時は分からなかったけれど大人になるにつれ分かった。薄らと残る曾おじいちゃんの笑顔と手渡された指輪の意味も。

 

「描き慣れているってだけだよ。曾おじいちゃんの足下にも及ばない。」

 

曾おじいちゃんは天才画家 彼の絵画を金儲けの為に狙う人達が沢山いる

 

私を危険な目に遭わせたくない両親の思いと絵画を守って欲しいという曾おじいちゃんの願い、だ。

 

「実際に観たことないんだろ?本物の

 

「もちろん、美術館で保管されているものはあるよ。全国どこだろうと足を運んだもの。だけど…そうだね、名画と言われている『桜』『鈴蘭』『花水木』この三作品は無いよね、だって行方知らずだったもの。」

 

「その一つ『桜』の行方をブラックフォックスが掴み盗んだ…となるとやっぱり…」

 

達郎と目を合わせ 私は静かに頷いた。

 

「次は『鈴蘭』か『花水木』か、だと思う。」

 

「だな…。」

 

ふぅ…と長く息を吐く達郎と同じように私も目線を落とす。というのも 少し前まで…密かにブラックフォックスには期待していた。

 

今までのようにどこかの美術館に寄贈してくれるんじゃないか 曾おじいちゃんの名画を闇から解放してくれるって…そうなればブラックフォックスさまさまなんだけど、

 

…だけど 『桜』に関してはその後全く動きがない。今までなら当日、遅くとも翌日には届けられていたのに全く彼らは動かなかった。

 

それどころか 今までの絵画は目眩ましで

 

ブラックフォックスの本来の目的は大正のダビンチの名画…それを闇ルートに流し金儲けをしていると噂がある

 

「もう、闇でもなんでも良いよ、曾おじいちゃんの絵画はソッとしておいて欲しいよ…。」

 

疑い始めた私は…怪盗ブラックフォックスが大嫌いだ。

 

「ここだけの話…『鈴蘭』の在処は大体の目星が付いているんだ。」

 

「…え、そうなの?」

 

「ああ。あっちが先かこの博物館が先か。…とにかく阻止するから。」

 

ポン

 

達郎は私の肩を叩き ベンチから腰を上げる。そしてこちらに向かって来る同僚の刑事さんに手を上げ矛先を向けた。

 

「また連絡するよ。」

 

「うん、ありがとう達郎、ガンバっ」

 

笑顔で手を振り合い…そして私は達郎の姿が見えなくなったところで

 

「…『椿姫』…」

 

ねぇ、怪盗 どうかあの絵画だけは見つけ出さないで

 

「ホントやめて欲しい。」

 

ベンチにもたれ…木漏れ日の下 呟いた。

 


 

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