キリの良いところで一護の長編に戻らねばな…
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「随分と賑わってるな。」
「行きましょう流輝さん!」
「んな急ぐなよ。天井画は消えないだろ。」
***が観たがっていた天井画の公開が来週末までという事もあり 古寺は観光客で賑わっていた。
「フン…」
随分とはしゃぐんだな…
スキップ混じり駆け出しそうなアイツの背に微笑みかけた昼下がり。
・・・・
「ふ~ん…」
「な、なんですか。」
「今日のお前…」
「えっ。…へ、変ですか??」
コイツの格好…ある意味意表を突かれた。
麻使用のワイドパンツに黒の薄地のデザインジャケット
足下はヒールではなく金具がアクセントになった黒のローファー
その辺までは 少し風の強い丘の上 アスファルトではない踏む先の意識からなんだろうと思うが
髪をひとつに緩やかにまとめ…頬に当たる部分だけを無造作に下ろすそのスタイルは 隠された耳を露わにさせ
耳には遠慮がちなゴールドの小さなリングピアス
化粧こそいつものように薄かったが 口紅は色よりも艶めきを優先した紅いリップ
派手さは無い。今までの女のように無駄に肌を晒したり スタイルの良さを強調させてもいない。むしろ襟の高いジャケットはうなじを隠す。
年相応の無理のない格好…自分に似合う格好っていうのを知っているらしい。
「…似合うな。」
「えっ」
「普通、が。」
「…なにそれどういう意味??」
「まぁ良いから早く乗れ。」
いちいち女の格好なんて気にしていなかった。だけどコイツは会うたびに雰囲気が違う。それのどれもが自然だった。
背伸びのない格好…だが、自分は女 そういう意識を持っているのだと伝わる。…もしくは、
「転ぶぞ、芸術バカ。」
俺が 女だと意識しているのかのどっちか。
・・・・
ここに辿り着くまで高速を飛ばしたとしても約三時間はかかった。
途中パーキングにより軽くコーヒーを飲んで…そうしないと喉はカラカラってくらい随分とお互いおしゃべりだったな。
何を話したっけ…覚えていない それくらいその一言一言にお互い食いついて笑って。
心地良かった。どういうわけか昨夜のようにこのまま話し続けたいような
「やっと着きましたぁ!!」
「ソレは俺の台詞。運転したの俺だろ。」
バタン
早々に車を降りるコイツを引き留めたいようなそんな…。
・・・・
「わぁ~…」
「…。」
一歩堂内に足を踏み入れると 賑わいは不思議なほどの静寂に変わる。それは誰もが息をコロし天井を見上げ
陽の光さえも僅かにしか射し込まない空間 800年前の異空間に染まるからで。
「凄い…」
「…。」
…見事だな…。
雲一つない小春日和の外気が嘘のように 法堂は冷え切っている
その冷気のようなものに勝手に身体は緊張感を増し
「…。」
見事な描写を前に呼吸さえも忘れ…
静寂の中 誰もが息を潜める場所
木枯らし吹く頃のこの場所は感嘆の息が白く染まるそれさえも許されないほどの空気感なのだろうと想像がつく。
「…。」
「…行こう。後が支えてる。」
良い加減なところで声を掛けたが コイツは見上げたまま一向に動こうとせず
「おい。」
「…。」
「***。」
「あ、はい…」
夢中になり過ぎだろ…
背に手を添え 強引に歩かせるまで 口は半開き 瞬きも忘れ見入っていて…
「うわ、眩し…っ」
法堂から一歩出ればハッとする程の光の束と温度差
その一瞬に過去と現代の狭間を感じ 夢から覚めた時のような
「凄かったなぁ…」
夢見心地な横顔を見せた。
「…ハァ…」
「おいおい。戻って来いよ。」
***はいつまでも時代に飲み込まれたままだ。
「クック…お前の魂抜かれた顔ったらねぇな。」
一息つかなきゃ俺までも。
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