サンタマリア:10 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

長編といってもそこまで長くはないので展開が早い…でもまだ序盤。

 

before

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「家まで送る。」

 

「え…」

 

流輝さんは店から出てすぐにそう言ってどっち方向かと左右を指さした。

 

だから私は首を横に振り

 

「大丈夫です。一人で帰れますから。」

 

そう応え帰路へと身体を向ける。それなのにすぐに

 

「一人で夜道を歩かせるわけにいかないだろ。お前みたいな奴でも女って理由だけで狙う奴がいるかもしれないしな。」

 

「言い方…。」

 

頬を引きつらせる私を笑い先を歩き始めて。

 

「ごちそうになった上に送っても頂いてすいません。」

 

「どういたしまして。」

 

駆け寄り隣に並んだ私は…お店に来る時よりも距離が近いこと 感じたけれど無意識で。

 

「ハァ…夜風が気持ち良い。」

 

いつもより飲み過ぎたビール アルコールは頬と吐く息を熱くさせる。

 

もうすぐ夏 心地良い風は街路樹の青々とした葉を揺らし その音に見上げれば さっきより随分と月が近くに見えて

 

「キレー…」

 

思わず微笑み呟いた 月の綺麗な夜だった。

 

「お前の芸術バカぶりはよく分かったけど」

 

「え?」

 

流輝さんはチラッと月を見上げはしたけれど隣を歩く私にすぐに視線を向け

 

「自分ではどうなんだ?絵を描いたりするのか。」

 

そう聞いてきて。

 

「美術大学で油絵を専攻してたから…多少は。」

 

「へぇ。今度俺がモデルになってやろうか?裸体で。」

 

「結構です。」

 

他愛のない話をしながら帰る春の夜道

 

「好きな絵描きさんがいて、人物画が素晴らしくって憧れてよく真似て描いたりしてたけど…センス無くって。描くとしたら人物より風景画の方が多いかな。でも最近は筆を持つ事も無いですけどね。」

 

「どうして?」

 

「ほら、毎日一流品を観ているんだもの、自分の一筆に落胆しちゃって。」

 

「逆手に取れよ。一流品に囲まれているからこそ 学ぶ事もあるだろ。」

 

「…そうだけど…」

 

「目が肥えている分、また違う表現が出来るかもしれない。勿体ないだろ 良い環境にいるのに。」

 

「…確かに。」

 

お酒も飲んでるし一人だと楽してタクシー乗っちゃおうかなって思う位の距離 それなのに

 

「いつでもモデルになってやる。全裸だろうとなんだろうと…」

 

「だから結構です。」

 

話が尽きなくて…なんだか楽しくて歩くことは苦痛ではなかった。

 

「結局ここに戻るのかよ。」

 

「だから送らなくても良いって言ったのに。」

 

暗闇にライトアップされている博物館 その閉ざされた重き扉の前で立ち止まる。

 

「ここで良いです。ここからすぐだから。」

 

博物館の前を通り 角を曲がればもう少しでアパートが見えてくる

 

実はここからが人も街灯も少なくなる路地…なんだけど

 

「この通りならタクシーも結構通るし、流輝さんの家ってここからちょっとありますよね、伊吹ちゃんが時々タクシーで…」

 

もう結構遅い時間だった。伊吹ちゃんが彼の帰りを待っているかもしれないと思えばこれ以上付きわせるのに気が引けた。

 

「あ、タクシー来たっ」

 

だけど彼は

 

「俺は実家に住んでいない。」

 

「え?」

 

「知人の家に部屋を借りて住んでる。ここから近い。で?お前んちはどっち?」

 

あ、そうなんだ…

 

また左右を指さす彼に今度は素直に右を指して。

 

「なんかすいません…」

 

「いちいち謝るな。すぐそこならもう一緒だろ。」

 

結局…送って貰っちゃって。

 

・・・・

 

カツカツ…

コツコツ…

 

私と彼の足音がアスファルトに響くのを合図に 人も街灯も少なくなっていった。

 

団地の一角にあるアパート 日中は子供達の声で賑わう公園も日が傾くに連れ寂しい空間に変わる。

 

時に遅くなる帰り 密かにダッシュで帰ったりする人気のない路地だったから

 

流輝さんが居てくれて 実は凄く心強かった。

 

「どうして実家に住まないんですか?」

 

「居心地が悪かったんだよ。俺は伊吹と違って親父と相性が悪いからな。最近はそうでもないけど…まぁ今住んでるところが色々便利だし。」

 

「へぇ…」

 

「昔からの知り合いだから気兼ねしなくて済むし、居酒屋の2階だから仲間も集まりやすいしな。」

 

「じゃぁ食事もそこで?」

 

「外食かその店のまかない食うか、厨房借りて自分で作るか。」

 

「えっ流輝さん料理出来るんですか!」

 

「毎朝、自作の味噌で味噌汁作る。」

 

ある意味世間で言うパーフェクトな人

 

「お前は?料理出来るの?」

 

「…こう見えて~」

 

「は?」

 

「絵を描くより得意かもしれません。」

 

「お。言ったな、俺と勝負するか?俺は半端ないぞ。」

 

止まらない会話に夢中になって 気づけばもうアパートはすぐそこ…

 

それなのに 私は早足になるどころか 歩くペースを少し落としていた。流輝さんは歩幅を合わせてくれていたから 二人なんだかゆっくり…

 

「そういやぁ話の途中だったけど、美術品ってさ」

 

…変だよね、もっとこうして歩いていたいって

 

「一流品っていうけど…絵の凄さ?なにを評価して良い絵、悪い絵ってなるのかが俺は分からない。そこらのガキが描いた絵のほうが全然上手いんじゃないかっていうのあるだろ。」

 

もっと…流輝さんと話をしたいって思ったんだ。

 

「う~ん…なんというか心に響くっていうか。何度観ても飽きないっていうか…」

 

「心ねぇ…」

 

「ドキッとしちゃうんですよねなんか。大正のダビンチって言われている画家さん、知ってます?その人が私の憧れの絵描きさんなんですけど、」

 

 もっと一緒にいたい、なんて。

 

 

 

 

 

・・・・

 

 


 

 

カツッ…

 

「風景画も人物画も素晴らしいです。」

 

「…。」

 

コイツがその名を口にした時 俺は不覚にも少しだけ靴音を止めてしまう。

 

「感動に近いかな…心が揺さぶられます。すっごい物語を感じるんです。」

 

だけどコイツは夢中に語り始めていたから その一瞬の靴音の違和感に気づかなかったろう すぐにまた歩幅を合わせた。

 

「…大正のダビンチ。」

 

「ほら、少し前に話題になったでしょ、あの怪盗ブラックフォックスが…」

 

目を…合わせた時

 

~♪

 

「…悪い。」

 

タイミング良く俺の携帯が鳴った。

 

「…もしもし。…あぁ、拓斗か。」

 

***は行く先のアパートを指さす。そして小さく頭を下げ立ち去るべきか悩んでいるような素振りを見せた。だから俺は

 

「悪い。またすぐかけ直す。…ここか、お前んち。」

 

ピッ

 

すぐに切り…アパートを見上げた。

 

「今日はありがとうございました。楽しかった…です…。」

 

「なんで語尾が小さくなんだよ。」

 

どこか照れたような表情を見せるコイツに思わず笑ってしまったが、

 

「じゃ。」

 

「ああ。おやすみ。」

 

「おやすみなさい。」

 

そう言って手を振るコイツに 背を向け、

 

「…。」

 

…それで終わりだったはずなのに。

 

「なぁ。」

 

すぐに振り返り呼び止めた俺、どうした…?

 

「え?」

 

「明日連れて行ってやろうか。」

 

明日は休みだと言っていた。隣県の寺で限定公開している天井画を観に行くらしい。

 

「迎えに来てやろうか。」

 

芸術バカかと散々茶化し笑ったくせに

 

「え…良いんですか…?」

 

「ああ。俺も休みだし付き合ってやる。」

 

大正のダビンチの名に…ビクついたくせに。

 

俺の言葉に きょとんとしていたコイツが段々と笑顔溢れさせれば

 

「…ハイッ!!」

 

「バカッ、シーッ!響くだろ…」

 

「あ…はいっ」

 

そんな無邪気な表情に…なんていうか…。

 

・・・・

 

「…フン…」

 

一人帰路に付きながら 懐かしいと感じる言いようのない感情が 胸に渦巻くのを感じていた。

 

「…。」

 

伊吹や親父が随分とアイツを気に入っている理由 俺まで変に気にしている理由…それが知りたくて誘った夜のはず

 

理由は分からなかった。それなのに なんだ?有り得ない、俺まで?

 

「…フン…」

 

無意識に握った手の平 衝動を理解できなくて帰りはずっとポケットに手を突っ込んでいた。

 

「…俺がな…。」

 

今も感じている 名残惜しさがその答え。

 

・・・・

 

見上げれば端の欠けた月が随分と傾いている…しばらく見上げたまま

 

「…バカか。」

 

早く夜が明ければ良い 明日の朝が待ち遠しい

 

約束の時間を気にしている自分に気づいた。

 

 

 

next

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