サンタマリア:9 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

before

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「美味いじゃん。」

 

「お口に合いましたか。」

 

「ああ。いける。」

 

流輝さんと共にくぐったのれんの先は 威勢の良い店長と活気あるお客さん達の賑わい そして炭火焼きの香ばしい匂い

 

店先も店内も綺麗ってわけではないんだけど、気さくに足を踏み入れられるこのお店はOL時代からのお気に入りだ。

 

「ちょっと高いんですけどね…ガチでやっちゃってます、この店は。」

 

「高いか?」

 

メニューを手に持ち首を傾げる流輝さん そりゃこの前のレストランと比べれば随分チープかもしれないけれど、

 

お給料が出てから行こうかな、なんて早々足を運べない私からしたらご褒美になる焼き鳥屋さんだった。

 

「乾杯しましょうか、とりあえず。」

 

「ん。」

 

コンッ

 

何に乾杯ともなく、ジョッキを合わせる。私達は二人という事もあってカウンター席に案内され

 

目の前に並ぶ食材達に目を泳がせたり 串が焼かれるのをジッと見たりしつつ 肩を並べた。

 

「お前さ。」

 

「はい?」

 

先にあの夜の話をし始めたのは彼の方。

 

「あれごときのキスで焦ったのか。」

 

「え?」

 

「ここに。」

 

わっ…

 

隣に座っているのだから距離は近い。だからすんなりと私の額に人差し指を当てた。

 

「ちょっ」

 

「クック…目が寄った…」

 

なんなのもう~!

 

振り払い顔を紅くしている私を笑う 反省とか詫びとか?この人は全然…むしろ

 

「あれごときって…っ」

 

「あれごときだろ。ガキじゃあるまいし。」

 

あの夜から 顔を洗えば思いだし 鏡に映せば思い出し

 

「なっ…キ、キスがあれごときなんですかぁ?!」

 

カァーッと顔を紅くさせていた私がバカみたい…

 

「それ以上でも以下でもない。」

 

横顔に吠える私を全然無視しメニューを手に取り店員さんを呼ぶ。

 

「かしわとサビ焼きと手羽先とアスパラ。」

 

「ちょっとぉ!串12本コース頼んだじゃないですか!結構量ありますよ?!」

 

「うるせぇな、俺は人の何倍ものスピードで働くからカロリーが必要なんだよ。…ってどうしたお前。」

 

「へ?」

 

私を見てきょとんとする。と思えばプッと吹き出して

 

「見事な仏頂面だな。眉間に皺が寄ってんだよ。」

 

「ちょいぃ!!」

 

そしてまた手を伸ばし 顔に触れてきて。

 

「クックッ…また目が寄った。お前おもしろ…」

 

いちいちいちいちこの人はもぉ~!!

 

もうなんか面白がられていた。


こっちの気も知らないで…っ。

 

顔に触れられる…男性に。早々経験する事の無いこの行動に私は顔を染めっぱなしで。

 

だって彼氏ならまだしも…いや、彼氏にだって顔に手を伸ばされれば心臓はドキッと音を立ててしまうだろう。もしかしたら手を繋ぐよりも胸は高鳴る。

 

いちいち肩が当たる…それさえも遠慮というか私は少し避けているっていうのに 流輝さんは全然お構いなしだった。

 

なんかもうペース狂ぅ…

 

紅い頬を誤魔化す為 ペース早くビールを飲む私に 更に彼は

 

「お前さ。」

 

「はい?」

 

「男とデートした事ねぇの?」

 

「え…」

 

「なんかすげぇそわそわしてないか?さすがにあるだろ、いくらカタブツでも。」

 

「…カタブツって決めないで。」

 

そんな話、し始めて。

 

「お前そんなモテない?」

 

「悪かったですねっ」

 

「冗談だよ。男に飯 誘われる事くらいあるだろ。」

 

「そりゃたまーにあるけど…。いい加減な気持ちで行けないでしょ。」

 

「なんでだ?飯くらい一緒に食いに行けば良い。」

 

サラッとそう言ってビールを飲み干す。そしてフゥと息を吐き私と目を合わせた。だから私は

 

「流輝さんは行きますか?好きでもない人と食事なんて。」

 

と聞いたわけだけど 私を食事に誘った時点で

 

「行くよ。全然行く。」

 

「でしょうね。」

 

そうに決まりで。だから

 

「例えば…もし、流輝さんの事を好きな女性から誘われても?流輝さんはその彼女をなんとも想っていなくても…」

 

そう聞いたんだけど 彼はすぐに

 

「行くよ。」

 

「どうして?気持ちに応えられないのに?」

 

「単なる性欲だろ。」

 

「へ…」

 

…あの夜の美女はきっと

 

「俺の事を好きなら尚更行くだろ。オスなんだから。」

 

「お、オス…」

 

彼にとってそういう対象だったんだと分かった。

 

「能力と性欲のないオスは生きてる価値無いからな。俺はそれが人以上に長けてんだよ。」

 

「…悪い男ですね、流輝さん。」

 

「男なんてそんなもんだろ。プッ…だから眉間に皺が寄ってんだって。」

 

「ちょ…!もうやめてってば!」

 

可笑しそうに笑いながらまた顔に手を伸ばす。さすがにこの時は三度目という事もあって少し仰け反り手を払った。

 

パシッ

 

…だけど

 

「え…」

 

払ったはずの手は ギュッと握られる。そしてグッと顔を覗き込まれた。

 

ちょっ…

 

「…お前って…」

 

待って、ちょっと待って だってもう心臓が

 

「肌がすげぇ綺麗だな。」

 

全然持たない。

 

・・・・

 

『はい、ご注文のかしわとサビ焼きとアスパラ。手羽先は少し待ってね。』

 

トン とカウンターにお皿が置かれる。だけど流輝さんも私も目を向けられなかった。

 

…だって 何この距離 手を握られたまま 私の顔を覗き込むようにして見つめる彼の顔は それこそ

 

「…なに…」

 

唇にキス…されるんじゃないかと勘違いするくらいの距離だったから。

 

「…なぁ~んて。」

 

どれくらい見つめ合っていただろう

 

流輝さんはフッと笑い、そして姿勢を戻し お皿から串を手に取る…だけど

 

「美味っ。お前も食う?」

 

私の口の前に差し出してきたアスパラ…

 

「…食う。」

 

「よし、食え。」

 

パクッと唇で挟めば

 

「クック…お前って犬みたいだな。」

 

スッと串を引いて 笑った。

 

「…。」

 

頬が熱い 心臓もドクドク鳴りっぱなし…

 

だって手、握ったままだよ…?


・・・・

 

それから伊吹ちゃんの話やどういうわけか鴨野橋くんの話をしてお互いビールをお替わり。

 

「あ、ここは私が払いますから。」

 

「ハァ?バカか、良いよ俺が払うよ。」

 

「今日給料日なんで!」

 

「イヤだね。俺が払う。」

 

「じゃ割り勘で!!」

 

「あのな…そういうフェアぶりたい女を歓迎すんの、貧しい草食男子だけなんだよ。バカにすんな。」

 

「でも!」

 

「ハイハイ、外で待ってろ。」

 

トンッ

 

レジの前でバタバタと言い争い…背をトンと押されるまで

 

「強情っぱりぃ!」

 

ずっとお互いの手を握りっぱなしだった私たち…どうかしてる。

 

 

next

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