Remember:33 (吉祥寺デイズ:Long:種村春樹) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

before

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「ドキドキする…」


小雨の降る中 駅に走っているあいだも 電車のなかでも 家に帰ってからも


「ハァ…どきどきする…」


ハルさんの笑顔に胸が高鳴って仕方なかった。恥ずかしい程顔が赤くなってどうしようもなかった。


「…行けば良かった…」


玄関に突っ立ったままそう呟く私は ハルさんの誘いを断った事を後悔するばかり。


明日会った時 無視されたりしないだろうか


せっかく誘ったのにこいつ断りやがったって怒ってないかな


そんな事を思ったらただ恥ずかしいという理由だけで走り去った自分が情けなくなる。


もっとハルさんと仲良くなるチャンスだったのに…


「ハァ…」


ため息を付けばつくほど 彼に恋をしてしまった自分を認めているよう


「…。」


私はハルさんが好きなんだって…また辛い恋の幕開けに涙が出そう。


・・・・


「…夏樹さん…。」


何度もみた携帯のメールを確認する。


『七夕の夜 吉祥寺でお祭りがあるんだ。来ないか?その時会わないか。』


「…。」


何度目を通しただろう


たわいない会話は毎日しているけれど 私はこの誘いの返事をまだしていない。


「…ふぅ…」


断ったら…今日の私のように 後悔するかもしれない。でも


「…。」


浮かぶのはハルさんの姿 だけど夏樹さんは決してハルさんではない。


だからつまり私は…


「ハルさんが好き…。」


・・・・


「…あ、ナナ先輩?…ミカです。」


夜 先輩に電話をした。そして


「…私…好きな人が出来ました。だから…夏樹さんと…メールするの止めます。」


どうして涙が出るの 辛い恋を始めると決めたからかな。


「…。」


それとも夏樹さんと会えなくなるから?


「…片想いの始まりだ。」


携帯を握ったまましばらくぼぅ…とする私は。







「断られたぁ?!」


「うん。…ハハ、初めてフラれたよ。」


頬を引きつらせる俺にハルは力無くそう言って笑う。


「ミカは…好きな奴がいるみたいなんだ。やっぱり目に映る相手には敵わないね。」


「…。」


七夕祭り当日 クロフネのいつものソファでハルはため息交じりそう言った。


「…ハァ。」


いつもの定位置 俺の右側に座っているタケに


「ナナ、なんて。」


俺は睨むような視線を向けそう問う。


ミカがナナに連絡を取り そしてナナがハルに連絡を取り…中途半端に終わった二人の関係。


「…ああ。」


タケは小さくため息をつき


「聞いてない。今日これから会うから聞いてみる。」


そう答えハルにチラッと視線を向ける。


「なんだよ、それ。」


その期待通りではない返答に 他人事ながら腹が立って


「連絡取ってねぇのかよ。」


「夜勤ばっかで忙しいんだよ。」


「どうだか。自分の女の管理ぐらいしろよ。」


そんな事を言ってしまう。そんな嫌味に黙っているタケじゃないから


「うるせぇよ。お前に言われたくねぇわ。」


「ハァ?ナナがしょうもねぇ女紹介するからだろ。こっちはな…」


「だから一護に言われる筋合いはないって。」


「お前も多少なりとも気にしろって言ってんだよ。連絡取ってねぇなんてお前らもう終わりじゃねぇの。」


「るっさ…いちいち人の付き合いに首突っ込むな。」


だなんて…俺もタケもイライラマックス ミカに呆れ半分ハルに情け半分…


「一護も剛史も喧嘩するなよ。誰も悪くないから。」


言い合う俺らをハルが笑いながら止める。けれどその笑顔はホント弱々しくて


「魅力不足。…そういう事だったんだと思う。」


「ハル…」


うな垂れるこいつに声も掛けられなくなって。


・・・・


カウンターにみっちゃんはいなかった。


俺らがここに集まった時には彼女のバイト時間は終わっていたからもう姿はない。


「…。」


七夕祭り 俺は***と約束をしていて吉祥寺に戻って来たけれど


「どいつもこいつも…」


急な大学の研修が入り 帰りが遅くなるらしい俺の女


そんなドタキャンもあり ハルの失恋もあり…俺の機嫌は悪くなる一方…


「そろそろ外が賑わって来たね。」


ハルはドア越し 賑わいはじめた商店街の様子に目を細める。


「一護、行こうか。剛史は?ナナちゃん待つ?」


「ああ。」


ハルのへこみ様はハンパなくて。いつもなら感情を顔に出す様な男じゃねぇのに


「じゃぁ一護、行こう。」


「…ああ。」


ナナに会わせる顔が無かったんだろう どこか寂しそうに腰を上げた。


「タケ。」


「ん。」


店を出て行くハルの背を見ながら俺はタケに言う。


「ナナにミカの正体聞いておけよ。」


「言われなくても聞く。」


そう答えられる事は分かっていたけれど…


カラン


・・・・


「賑わってるねぇ。」


笹の揺れる商店街 重い程短冊を吊るすそのひとつひとつに願いが綴られている。


行き交う来客に肩をぶつからせながらも ハルは微笑みながらそれを眺めていた。



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