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 がん細胞は自己の複製のために、たくさんのエネルギーを消費します。酸素やグルコースなどの栄養素を取り入れる為に自ら血管新生因子を分泌し、血管を再構築していくため、腫瘍の周りには正常組織に比べて、はるかに密度の濃い血管が入り込み、これを腫瘍血管と言います。しかしながら、早急な突貫工事で作られた腫瘍血管は脆弱で機能性に乏しいため、すぐに破たんしてしまい、十分な酸素や栄養素をがん細胞まで届けることができないと考えられています。


 この腫瘍血管の特性、つまり豊富であっても機能性の乏しい血管構造が結果的にさらなる低酸素や低栄養を導き、がんの微小環境の不安定性をもたらす危険性があります。

 これらの知識は、これまでマウスなどの小動物を利用した実験で明らかになったことであり、人間では腫瘍の低酸素や血管構築を定量化する手段がありませんでした。動物実験と人のがんで明らかに異なることは、腫瘍の多様性であります。例えば乳がんでは、抗がん剤がよく効く腫瘍と抵抗性を示す腫瘍がありますが、これらを明確に2分することはできません。さらに抗がん剤の感受性が高い腫瘍だからといって、抗がん剤を使えば患者さんの予後が良くなるという訳ではなく、すぐに再発をしてしまうたちの悪いがんがいる一方、抗がん剤に抵抗性を示す腫瘍でも、進展が遅く、すぐに転移せずに、乳房にとどまっている性格のものもいます。


 ここで考えたいことは、がん細胞のもつ内在的な特性、代謝回転の速い・遅い、薬物感受性の高い・低い、転移浸潤能の高い・低いといった特性の他に、間質・血管のもつ特性、腫瘍血管の脆弱性の有無、酸素化、pH、間質圧の高い・低いなどが、予後や治療効果に影響を及ぼしている可能性です。

 例えば、代謝回転が高く、薬物感受性の高いがん細胞であっても、腫瘍血管が脆弱で、薬剤の浸透が十分でなければ抗がん剤が効くことは少なくなります。一方、代謝回転が低く、抗がん剤の感受性が低いがん細胞であっても、組織の酸素化が十分であれば、もしかしたらがん細胞の転移・浸潤能は比較的低く抑えられ、原発巣にとどまりながらゆっくりと増殖をし続けるのかもしれません。


 最近、血管新生阻害薬が数多く開発され、臨床現場ですでに使用されているものもあります。代表的な血管新生阻害薬がアバスチン(bevacizumab)で、多くのがん腫で有効性が確かめられています。アバスチンはVEGFと呼ばれる血管新生因子の一つを中和する抗体ですので、多種多様な血管新生因子(例えばPDGFあなど)は抑制しないため、その作用は限定的と考えられます。実際に乳がんの臨床試験では腫瘍の進展を抑える効果は期待されるものの、患者さんの生存率の向上まではよい影響を及ぼすことはできませんでした。

 しかしながら、アバスチンの研究をすることで、腫瘍血管とがん細胞の関係を理解することができます。最近の研究では、アバスチンの主要な作用はVEGFを中和させ、腫瘍血管の新生を抑制するだけではないことが分かってきました。VEGFの抑制により、腫瘍血管の再構築(リモデリング)を誘導し、組織の酸素化を改善することで、低酸素を解除し、結果的に抗がん剤の浸透をよくすることが主な目的であることが分かってきたのです。さらに腫瘍血管リモデリングは治療開始後、3時間血管リモデリング ~3日という比較的早いタイミングで起こる可能性があるというのです。つまり腫瘍血管の正常な血管のように機能的にすることが治療効果を高めるために非常に重要であるわけです。しかし逆に考えると、血管リモデリングが上手くいかない場合、既存の血管は破たんしてしまし、さらなる低酸素を招いてしまう可能性も指摘されています。血管新生阻害薬とは諸刃の剣なのです(右図)。




 これは血管新生阻害薬に限った話ではありません。抗がん剤には、アバスチン同様に、腫瘍血管リモデリングを持つことが知られています。古くはサイクロフォスファミドや5FUにその作用があることが知られていますし、近年は、ハーセプチンやタキサン系薬剤やエリブリンなどの新薬でも腫瘍血管リモデリングをほのめかす前臨床研究の結果が報告されています。

 このような腫瘍血管リモデリングをリアルタイムに画像化することができたら、いち早く治療効果を予測することができるわけですが、現状では血管構造や低酸素をイメージできるDCE-MRIやfunctional PETなど最新の検査があるものの、超早期の撮影には制限があり、臨床応用には至りません。近赤外光イメージングはベッドサイドで造影剤を使用せずに測定でき、簡便に組織ヘモグロビン濃度を定量化・画像化することで、間接的に腫瘍血管量や組織酸素飽和度を求めることできるため、臨床応用に向けて現実的な手法であると考えています(下図)。 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24176197 )



近赤外光イメージング


 実際にハーセプチンを初回に単剤投与した症例を提示します。投与前後の腫瘍と腫瘍周辺の総ヘモグロビン量を画像化すると、興味深い変化が見られます。投与後1日で総ヘモグロビン濃度の上昇とともに組織酸素飽和度の上昇(フレア現象)が見られますが、その後、総ヘモグロビン濃度は徐々に減少します。これは超早期の腫瘍血管の反応性を示しているとともに、その後の腫瘍血管の退縮を観察しているのかもしれません。(下図)。

ハーセプチン使用例


 ヘモグロビンのフレア現象が抗がん剤感受性の高い腫瘍で起こりやすく、治療効果の指標として期待されることが、我々から報告していますので、お時間があるときにぜひ読んでください。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21852577 )

 さて、アバスチンではどうでしょうか。アバスチンはハーセプチンや抗がん剤とは全く異なる反応を示すことが分かりました。この結果は来年には報告させていただきます。