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近赤外レーザーを体表に当て、局所組織のヘモグロビン濃度を酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンに分けて測定する方法は古くから行われています。我々にもっとも身近な分光装置の一つにパスルオキシメーターがあります。四肢末端にプローブを取り付け末梢血の酸素飽和度を継時的に測定することで、ヒトの生理機能のバイオリズムを知ることができます。

 では、がん腫瘍の

生理機能をパスルオキシメーターで計測したら、がん細胞のバイオリズムを知ることができるのではないか?そこにはおそらく呼吸不全に陥ったがんもいれば、比較的恵まれた酸素化環境にいるがんもいるかもしれません。

 近赤外光スペクトロスコピーによる乳がんイメージングは、こうした腫瘍血管によるがん組織の酸素化を低侵襲でモニターリングできる分光システムです。

 乳がんの光イメージング




この度、我々のグループから最新の知見を報告いたします。

[Cancer Science 2014 Apr 26. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24766271]

 我々は118例の手術前の乳がん患者さんに同意を頂いて、腫瘍組織の総ヘモグロビン量(腫瘍血液量)と酸素飽和度(低酸素)を調べてみました。ご覧のように、乳がんのある乳房をイメージングしますと、病変部とほぼ一致してヘモグロビン濃度のホットスポットが見られます。我々の検討ではホットスポットが見られる腫瘍は、腫瘍のT-stage(大きさ)に依存し、サイズの小さい乳がんや非浸潤性乳がんではホットスポットとして視覚的に検出できないことが分かりました(表1)。ステージ1(2cm未満)腫瘍では実に44%しか検出されていません。




 近赤外光イメージングは、周囲の正常組織のヘモグロビン濃度と比較して、腫瘍の豊富な血液量を反映した高いヘモグロビン濃度のコントラストを利用して画像化していますので、検出されない腫瘍はほぼ正常組織と同じ程度の血液量しか蓄えていないのです。近赤外光イメージングは早期の乳がんの発見にはあまり役立たないという解釈もできますが、こうした生体機能イメージングはがんの「機能」を見るためのものですので、見えないことも大切な情報となるのです。

 少し話は逸れますが、PETなどが良い例です。糖代謝をイメージ化するFDG-PET/CTでは、抗がん剤投与後の腫瘍は見えなくなってしまうことがあります。最近の研究では、抗がん剤投与直後の腫瘍のFDG集積がなくなるケースでは、そうでないケースよりも治療効果が高く、予後が良好であることが知られています。また近年、続々と開発されているトレーサー、例えば核酸代謝・増殖能をイメージ化するFLT-PETや細胞内低酸素をイメージ化するFMISO-PETなども、腫瘍の早期検出にはほとんど役に立たないものの、「見えない」ことがその後の治療を選択するうえで重要な情報になるのです。

 我々の検討では、腫瘍対正常組織のヘモグロビン濃度のレベルは、腫瘍径だけではなく、組織学的悪性度や血管侵襲の程度と強く相関することが分かりました。また、FDG-PET/CTで計測した腫瘍のFDG集積の程度(SUVmax)と非常に高い相関がありました。これらはがんの糖代謝-がん悪性度―腫瘍の新生血管の間の深い関わりを示唆しているのです(表2)。




 さて、腫瘍の酸素飽和度はどうでしょうか。酸素飽和度は患者さんの年齢や腫瘍径と弱い相関があるものの、がんの悪性度を示す病理学的因子との相関はほとんどありませんでした。腫瘍の低酸素を見ているはずなのにどうしてがんの悪性度と相関しないのでしょうか。

 下の図を見てください。これは正常組織とがん腫瘍の総ヘモグロビン濃度と酸素飽和度をプロットした表です。


血管新生と組織酸素化の関係
がん腫瘍は正常組織と比較して明らかに総ヘモグロビン濃度が高いことが分かります。さらに酸素飽和度も正常組織と比べて有意に高いことが分かります。おそらくこれこそが腫瘍は組織内の酸素化を維持するために新生血管を増生している証なのです。実際に一つ一つの症例を見比べてみますと、総ヘモグロビン濃度は正常組織よりもほぼすべての症例で高い値を示しますが、酸素飽和度は正常組織よりも極端に低いがんもあれば、正常組織と同様に高いがんもあります。おそらく、悪性度の高いがんの中にも、酸素化を維持して増殖が盛んな腫瘍もあれば、低酸素から抜け出せず、微小環境の不安定性を引き越している腫瘍もいるのでしょう。がんの酸素飽和度はもしかしたら薬物透過性や抗がん剤や血管新生阻害薬の治療効果との相関があるのかもしれません。


このように、近赤外光イメージングで見る乳がんの生体機能とは、従来の病理組織検査では分からなかった血管新生の増生のレベルと組織低酸素を計り、治療に役立てることなのです。がんの血管新生とは数時間単位で破たんと増生を繰り返し(リモデリング)、また、がんの低酸素とは、時間的にも空間的にもヘテロな状態(Cyclic hypoxia)と知られています。もしかしたら将来はがんの時間的空間的な生理機能のバイオリズムを光で見る時代が来るかもしれません。


がん