近赤外光イメージングでは組織に近赤外光(~赤色光)レーザーを照射することで簡単にヘモグロビン濃度(Hb)を定量化することができます。ヘモグロビンは生体内で酸素を運搬する重要な器官ですが、酸素化ヘモグロビン濃度(HbO2)と脱酸素化ヘモグロビン(HHb)の変化を同時に計測することで、局所組織の細胞の呼吸代謝の推移を観察することができ、さらに局所組織の血液量や酸素飽和濃度(stO2)を求めることができます。
Hemodynamic biomarkerとしてのヘモグロビン濃度
組織血液量:total Hb (uM) = HbO2 + HHb
組織酸素化:stO2 (%) = HbO2 / tHb × 100
実際に乳房内に発生する乳がんの組織酸素化のレベルを測定してみると、酸素飽和濃度の値の低い乳がんから、高い乳がんまでさまざまであることが分かります。我々は以前、この酸素飽和濃度のよい乳がんは抗がん剤感受性が高いことを報告してきましたが(H25日本乳癌学会「がん機能イメージングの最新動向と将来への展望」(続き2)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22777823)、実際に酸素飽和濃度が高くても抗がん剤抵抗性を示す乳がんもあり、酸素飽和濃度のレベルはベースラインにおける腫瘍の微小環境の一部を表現しているに過ぎないと感じています。また同じ患者さんでも、時間を追って計測すると、酸素飽和濃度の値は大きく変化することに気づきます。こうした腫瘍低酸素の日内、月内変動をCyclic hypoxiaと呼ばれることがありますが、おそらく乳がんには腫瘍内の血管新生の早いターンオーバーを反映して、時間的にも空間的にもヘテロな微小環境があるものと思われます。
(図)
そもそも腫瘍低酸素の臨床的な重要性は、Drug delivery、薬剤・放射線感受性とともに、低酸素により引き起こされる微小環境やがん細胞の遺伝子の不安定性により、がんの悪性度や転移浸潤能が増強してしまうのではないか、という所です。しかし、いくら組織酸素化がよくても、それ以上にがん細胞の代謝回転が速ければ、細胞内低酸素は改善されませんし、逆に慢性的な組織低酸素に適応してがん細胞が休眠状態に陥っていれば、こうした問題は発生しません。さらにこうした現象が一つの腫瘍の中でまだら模様に存在している可能性もあります。こうして考えると、組織低酸素と細胞内低酸素は別物であり、両者は相対的な現象であることに気づきます。実際に正常側の乳房の酸素飽和濃度を測定してみると、かなり酸素飽和濃度の低い人もいることが分かり、正常組織においても組織酸素化とは個人差があるものと考えられます。
上図は実際に、右乳房に乳がんを持つ患者さんの酸素飽和濃度を測定し画像化したものです。Day0とDay20はいずれも治療前ですが、20日間で時間的にも空間的にも大きく酸素飽和濃度が変動していることが分かります。
低酸素イメージングの実用化が期待される理由の一つに、血管新生阻害薬の治療効果をみるツールとして利用したいというニーズがあります。アバスチンやスーテントなど、血管新生阻害薬は日常診療ですでに使われていますが、標的が明らかであるにも関わらず、いまだ治療効果を予測する有効なバイオマーカーがありません。もう一つはそもそも抗がん剤や放射線療法の適応があるのか、という疑問です。これらの治療はがんを直接ターゲットにして殺細胞効果を表わすとともに血管のリモデリングを起こすことが知られていますが、治療の間に血管リモデリングが上手くいかず、さらに強い低酸素を引き起こしてしまうと、逆にがん細胞の悪性度や転移浸潤能が増強してしまう可能性もあります。
こうした現象はこれまで細胞や動物レベルで議論されていた内容ですが、低酸素イメージングが臨床応用されるようになると、さらにがんの低酸素と治療効果との関連が注目されるようになるかもしれません。