何事もなかったかのように平然と扇子で煙人間を散らした変人は、もう一度扉を開ける作業に戻っている僕にこう言った。

「扉は力では開きませんよ」

でも今さっき少し開いていたぜ?

「それは、外部からの何らかの力がはたらいたんでしょう」

じゃあ、どうやって出たらいいんだよ。
どうしろってんだ。

「ふふふ。ここは図書館ですよ。いわば知識の宝庫です。探せば扉を開く方法があるんじゃないですか?」

まぁ、あなたが望めばですけどね。


変人の表情はごくごく変人的なニヤニヤ笑いだった。
これが彼の基本ステータスのようだ。


言いなりになるのも癪だが、僕は早速本を適当にとってみる。

本棚から取り出した瞬間、写真が一枚落ちてきた。
ページの間にしおり代わりにはさまれていた様だ。
僕は変人にせかされるようにして、手近にあった箒を手にして図書館に戻った。


僕より背が低い。

煙は、人の形をとっていた。


黒い煙は、まだそこに残っていた。
より確実な形を持って。


「早く、ひっぱたいてくださいよ」
うるさいなぁ。

僕は恐る恐る、人形煙に箒を叩き込んだ。

しかし、煙はまったく気にしていないようだ。


僕は繰り返し叩き込む。

もう一回
もう一回
もう一回
もう一回

「おい、ぜんぜんきえねぇぞ!」
「仕方ないですね」

変人はため息をついて、僕の元に歩み寄った。
っていうか黙ってみてたのかよ!

「もう少し頭使ってくださいよ」
お前に言われたくはない。

変人は懐から扇子を取り出し、パタパタと煙を散らした。


そんなのありかよ。

扉の隙間から、黒い煙のようなものが流れ出てきた。

なんなんだ?これは。


「これはこれは…」

図書館司書の変人(仮名)が笑っている。

僕はあわてて扉を閉めた。

煙は途切れる。


逃げないと大変なことになりますよ。

平然と変人はそう言って、図書室から出て行く。



煙のほうを見ると、少しずつ膨張しながら形作っているようだ。



言うまでもないよ。


僕も迷わず、後を追った。


「いったい何なんだ?あれは」

僕が最後に見たあの黒い物体は、確かに二足で立ち上がったように見えたような気がした。

「あれですか?」

かれは一瞬考え込むような顔をして、言葉を続けようとした。


聞いてはいけないような気がした。


「あなたが、ここから外に出られない理由ですよ」

「ここから出られない理由?」

ここから出るためには、あの扉を通ればいいはずだ。


だけど、扉の前には、あの煙がいる。

さすがにあれを無視する度胸はない。


「煙ですか?」

変人は笑っている。

「煙は何かで払ったらいいでしょう。消えてなくなるかもしれませんよ?」