
鈴虫の鬚が指揮棒なりしかな
秋茄子の上で羽根立て鳴きにけり
鈴虫や頭脳の中にある空間
鈴虫や本堂といふ虚がひとつ
開眼のかの鈴虫の妙なる音
一年中鈴虫法話聞きに来よ
仏法と鈴虫を聞く座敷かな
鈴虫の遠いところで鳴ひてをり
一願に住所氏名や寺の秋
鈴虫や一願成就地蔵尊
講釈す幸福守柿の秋
日を浴びてまつはり遊ぶ竹の春
十六の石が羅漢や秋深む
秋の蝶巡り巡りて羅漢石
禅寺や秋空狭め大庇
細波の波が波打つ竹の春
何時かしら紅葉の大樹墓に添ふ
寄り添へば歩の合ふ二人竹の春
一斉に詩吟奏づる野路の秋
昼酒や桜紅葉に裏表
京饂飩しばし待つ間の昼の月
吹く風に紅葉が色を深めけり
嵯峨菊を挿して京都の小料理屋
紅葉して庭に陰陽石ふたつ
嵯峨菊や白砂の庭があらばこそ
白塀の上の借景紅葉山
紅葉して枝垂桜に騒ぐ風
白砂と離れがたくて秋の雲
昼の月鳥影横切る池ひとつ
薄紅葉霊明殿は朱なりけり
嵯峨菊と高きを競ふ雲のあり
秋の雲大沢池に沈み行く