あの有名なる鈴虫寺は、今だ、訪問したことがなく、京都では、取りこぼした寺のひとつである。「秋
に鳴く鈴虫の音を聞いて開眼なさった台厳和尚」が、年中聞いて頂きたいと言う願が叶ったのである。華
厳寺という。お茶にお菓子が出て、法話が鈴虫の音色と伴に聞くことが出来る。鈴虫に関した有難い法話
と、山門脇にお祭している幸福地蔵菩薩の一願についての話が面白く拝聴される。人の願いは、誠に、勝
手なもので、出来もせぬことを散々願うが、そのことを諌めておられ、叶う願と叶わぬ願があることを、
教えてくれる。また、お札とお守りの違いや、なにしろ、願うのに、住所と氏名を、言うのであるが、な
るほど、各家庭を訪ねて、一眼成就なさるのであるから、これは、無理がない。鈴虫の有難い音が、本堂
に満ちて、どちらかというと、本堂全体に響き渡っている感じが実に、印象深く、ここにこうしている鈴
虫の音とは思えないほど、有難く聞こえてくるのである。