憧れのフット・ジョイ (2010年以前に書いた記事)
もうどんなコースでも、スパイクのゴルフシューズは使用禁止になっている。
コースで出会う人達の履いているシューズは、殆ど全部最近作られたゴルフシューズばかりだ。
完全防水、軽量、スパイクレス、材質は皮や合成皮革その他いろいろ。
昨年のオープンコンペで、珍しく古いフットジョイの革靴を履いているゴルファーに出会った。
年は50代半ば、クラブはドライバーもアイアンもわりと最近のクラブなのに、靴だけは古い(よく言えば貫禄のある)シューズを履いているのが気になった。
昼の食事の時に話す機会があったので、それを尋ねてみると...
その男がゴルフを始めたのは29歳の時、仕事の都合で始めたんだけれど、始めたらやっぱり「ハマった」。
しかし、安月給のサラリーマンで、おまけに結婚したばかり、とてもしょっちゅうゴルフにいけるような身分じゃなかった。
クラブやキャディバッグやボールは、近所のディスカウントショップで揃えた。
靴もビニールを貼り合わせて作ったような、安物の靴を何千円かで買った。
...そうして月に一回行けるどうか、というゴルフを楽しみにして1−2年経った時に、その当時尊敬していたゴルフの上手い上司に言われたそうだ。
「君は上手くなりそうだから言っておくが、やがてはアイアンはベン・ホーガン、靴はフットジョイを履くようなゴルファーになりなさい。」
...その言葉が印象深くて、「その後ずっと頭から離れないんですよ」と言う。
やがて、ベン・ホーガンのアイアンはその頃出来始めた中古ショップで手に入れたり、新品も安くなってきたので買うこともできた。
...だが、フットジョイの革靴は高かった...安いもので3万、上司の履いていたクラシックなら5万以上...クラブならローンで10万前後のものも買えたけれど、靴の3万から5万は出せなかった。
悩んでいたときに助けてくれたのが奥さん、楽な生活じゃなかったのに自分のへそくりからお金を出してくれて、その当時5万円くらいの皮製のクラシックフットジョイを買うことが出来たんだそうだ。
「それから、ずっと底皮の張り替えも何度かして、今でも時々履くんです。」
「ええ、女房が買ってくれたみたいなこのフットジョイ、私の大事な宝物です。」
「絶対に捨てたりなんかできませんよ。」
「勿論、スパイクはプラスチックに替えてあります」
...格好いい。
...実は、俺の家の下駄箱の奥深くにも、ビニールの袋に包まれて4足の革靴が置いてある。
フットジョイクラシックが3足、エトニックが一足。
俺も尊敬する先輩から「ちゃんとした本革製の高いシューズは、重さもゴルフにあってるし、底皮の張り替えをすれば殆ど一生ものだ」と言われてから(結構無理して買って)履き出したものだ。
どの靴もいろいろなことがあった人生で、何かが上手く行った時に「自分へのご褒美」として買ったもの。
憧れのフットジョイを、それこそ「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で買って興奮したあの時代の思いが、履く機会がなくなってもこの靴を簡単に捨てさせない理由だと思う。
今履いているのは、安くて軽くて完全防水のデジソール。
どんな天気でも平気だし、アフターケアも必要ないし、セルフのカートゴルフでは不自由する事は何も無い。
...でも、オレもスパイクを替えて、またあの頃の気持ちでゴルフに向かい合ってみようかな。
7月前半なのに暑すぎる...
気分転換に「神谷バーに行って生ビール」って思っていたのに...とんでもないや(笑)。
...駅まで行く間に俺は死ぬ。
朝から日差しギンギンで、汗をかいて目を覚まして...出かける元気は全く無くなった。
もう今日は一日中家に閉じこもって、「クーラーの効いた部屋で缶ビール」でいいや。
...天気予報では「明日から梅雨の戻りで、暑さは一休み」なんて言っているので、今日1日我慢すればこの気狂いじみた暑さから少しの間は逃げられそうだ。
でも、こんな天気でもゴルフをやっている人はいるんだろうし、外で働かなくてはならない人も多いはず...みんな無事に今日を耐えて欲しいと心から願う。
俺の仕事部屋の15年以上前の冷房機(エアコンではない)は、老体に鞭打って必死に唸りながら部屋を冷やしてくれている。
近所のスーパーで安売りしている紙パックの100〜200円のアイスコーヒーに、氷を入れて一口ごとに溜息ついて、もうこんな夏を一緒にやり過ごせなくなった友人達のことでも思い出していようか。
「夕立でも来ればちょっとは涼しい風が吹くんだけど」なんてつい思っても、「ああ、最近は降ると豪雨になっちまうんだっけ...そうなると家の近所は内水氾濫で大変なことになっちまう」なんて...夏の姿は昔とは変わっちまったんだよな。
家にいる猫のユズとコタも、2匹ともちょっと体の調子を崩して元気が無いし、自転車のサドルは暑くて座れないし、花や草木も水をやっても弱ってくるし、ヤモリや虫たちの姿も最近少ない。
夏はもう「楽しむ季節じゃなくて、なんとか生き延びなくちゃいけない季節」に変わっちまったって事だな。
...なんとか頑張らないでやり過ごそうぜい、ご同輩。
これから3ヶ月もこんな暑さが続くんだ...
外は35度越えの猛暑日なんだと、テレビの天気予報が騒いでる。
昨日の夜はずっと蒸し暑くて...目が覚めると全身汗ばんでいて、なんだか気が重くなる今日の朝だった。
年々、夏という季節が嫌いになる。
クーラーをかけ、アイスコーヒーやビールや麦茶を飲みながら部屋に閉じ籠り、夜には空き缶だけが増えて行く。
出歩く時には日陰を選び、汗をかきながらブツブツと暑さを呪う。
...娘がまだ歩けないうちら20歳を越えた後まで毎年ずっと続けていた「根本キャンプ場での夏キャンプ」も、もう20年以上昔の事となり...汗を流しながらも楽しんでいた夏ゴルフももう15年以上前に止めた。
今では「夏」という季節に楽しむ事は何も無い...50年以上昔には「夏はあなたの季節ね」なんて言われていたのに(笑)。
なのに...今は太陽の光を浴びることさえ嫌なのに...なぜか青い海と青い空、立ち上がる入道雲の姿がふとした時に思い出されて、懐かしさと憧れの気持ちが湧き上がる。
...房総の夏の海は綺麗だったんだ。
7月末から8月初めの、海辺のテント生活の7〜10日間..何もせずに缶ビールを飲んで絵を描いて、砂浜・岩場で遊ぶ娘達の様子を見守りながら海風に吹かれる時間は幸せだった。
娘たちも、自分たちの夏の原風景はあの夏の海の景色だった、とよく話す。
今更ながら思うのは、夏や夏の海には「若さが似合う」ってこと....歳をとってしまうと、もう夏と夏の海は眩しすぎて落ち着けないし、居場所が見つからない。
ああ...それでも汗かきながら生ビールが飲みたい気分だなあ...缶ビールや缶酎ハイはもう飽きた。
クーラーの効いた部屋に閉じ篭っているのも、もう飽き飽きだし。
そうだ...明後日にでも浅草の神谷バーに行ってみるか...あの安っぽい串カツとポテトサラダを摘みにして生ビールをグイッとね(笑)。
で、飲み相手誰かいないかなあ...一人じゃ寂しいし(笑)。
...イマトナルトトモダチスクネーナア、オレ(笑)。
怒れる男 (2010年以前に書いた記事)
その男に会ったのは、茨城県のHカントリークラブのオープンコンペ。
一人ずつの参加した4人が組み合わされて、一緒の組になったうちの一人。
最初に顔を合わせたときに、帽子をとり名前を言って挨拶したんだけど、じろっと見てちょっと頭を下げただけで名前をはっきり言わなかった。
(変な奴だな..)
年は60歳前後、俺の数倍真っ黒に日焼けしていて、服装から態度からいかにも「オレはゴルフが上手いんだぞ」と言う雰囲気をまき散らしている。
練習グリーンでパットの練習をしていると、知り合いらしい数人がやって来て、その男に色々と教えてもらっていた。
他の同伴競技者は、埼玉から来た40代の陽気な男性Kさんと、横浜から来た大人しそうな40代の男性Oさん。
こちら二人は明るくて、すぐに話が弾んで盛り上がる。
...が、どうも先程の男は我々を見下しているようで、中に入らない。
スタートすると、その男はやはりそれなりの腕とコースを熟知している様が見て取れる。
しかし、埼玉のKさんも上手そうだし、俺もなんだか調子が良い。
...スタートホールで、俺とKさんがパー、その男は短いパーパットが蹴られてボギー。
あれ?こんなはずじゃ...とその男は首をかしげて不愉快そうな顔をしている。
Kさんはたまにボギーを打ちながらも、堅実にプレーしているし、俺は相変わらずのお祭りゴルフで、隣のホールに打ち込んでそこからバーディーを獲ったり、バーディーチャンスで3パットボギーを打ったり...でも、結果としてスコアが上手くまとまっている。
...気が付くと、アウトの最終ホールまで、Kさんと俺が交代でオナーを努めて、その男は一度もオナーを獲れていなかった。
そして、そのハーフ、俺が2バーディー2ボギーの36(出来過ぎ)、Kさんが38,その男が40...Oさんはボギーペースの45。
その男のイライラ感は、傍目にもはっきりとわかるようになり、昼食時には一言も我々とは話さずに、さっさと食べ終わって出て行ってしまった。
...その後の残された3人の会話
「あの人はきっとこの地元では凄く上手いんだろうねえ」
「うん、よっぽど腕に自信があるんでしょう」
「他の人に色々と教えていたからね」
「それを大叩き男さんと、私のように軽いのが平気で良いスコア出しちゃうから頭に来てるんでしょうねえ」
午後になるとその男は益々荒れてきた...ミスしてクラブをたたきつける、地面を蹴っ飛ばす...
...俺は後半はそんなに良い調子が続くはずもなく、パーとボギーの繰り返しになったけど、かわりにKさんが絶好調で、相変わらずその男はオナーをとれない...
そして終わり近くのあるホールのグリーンで...
その男が2メートルほどのバーディーパット。
丁度スタンスの部分に、Oさんのマーカーがあった。
かなりいらついていた男に、Oさんが「邪魔になるでしたら動かしましょうか? 踏んでもかまいませんよ」と言ったら...
「じゃ、踏みます!」
ためらいも見せずにその男はOさんのマーカーを踏みつけた。
...それも勢いをつけてドン、ドンと2回踏み、グリグリとねじってスタンスをとった!
思わず俺とKさんは顔を見合わす...Oさんも驚いたような顔で我々の方を見た。
...その男のバーディーパットは、カップをかすりもしなかった。
ラウンド後のパーティーの時も、(組ごとに席は決まっていたのに)弟子らしい人達のテーブルに行ってしまい、最後まで同じテーブルにはやって来なかった。
眠れない夜 (2010年以前の記事)
A子さんは、ゴルフの前日にまともに眠ったことがない。
と、言うより殆ど眠れない。
ゴルフを始めたのは5年ほど前、子育ても一段落して友人や旦那に勧められて、近所のゴルフ練習場のゴルフスクールに入ったのがきっかけ。
そこで仲間が出来て、そこのゴルフサークルに入り、サークルのコンペにも出るようになった。
それ以来、週一度の練習場の教室には必ず参加し、3ヶ月に一度のコンペに出て、その他に月に一回仲間とのゴルフに行く。
...だけど、初めてコースに行って以来、前日にぐっすり寝たということは一度もない。
まるで遠足の前の日の子供のように、緊張して眠れなくなってしまう。
前のラウンドで上手く行かなかった事が、頭の中をぐるぐる回る。
練習場で覚えた事が、ボールを前にしたらすっかり頭から消えてしまう様な気がして、心配でしょうがない。
そんな事が次から次へと頭に浮かぶ。
月に一度のラウンドは、ずっと前から楽しみにしていたはずなのに....
「眠ろう」「寝なくちゃ」...と思うたびに頭は益々冴えてくる。
旦那に言われて、飲めない酒を飲んだ事もあった...かえって、心臓がドキドキしてきてダメだった。
おまけに次の日の午前中気持ち悪かった。
昼間に、色々と忙しく動き回り、プールに行ったりして身体を疲れさせてみた。
余計に疲れが残っただけだった。
寝ようとして目をつぶると、今まで回って印象の深かったコースの風景が浮かんでくる。
ティーグラウンドの興奮が蘇ってくる。
パットを外した時の、失望を思い出す。
池にボールを入れたときの脱力感が、OBを打ったときの後悔が、競い合っている仲間にスコアで負けたときの悔しさが、いくつもいくつも頭の中に湧き上がって来て...気が付くと外が明るくなっている。
ゴルフの日にはその繰り返しが続いている。
だから、いつもラウンドの日は目が充血している。
日焼け止めをいっぱい塗るからいいんだけれど、化粧ののりも良くないし、朝に食欲も湧いてこない。
お腹の調子も良くないし、午前中は身体が重い。
...そのかわり家に帰ってきたら、ばたんと倒れて朝まで爆睡する。
次の日は体中が筋肉痛で痛い。
だけど、ゴルフが大好きなのだ。
平凡な自分の「多分」幸せだけども変化の乏しい日々の暮らしの中で、ゴルフは大きなアクセントになっていて、ひと月の出来事はゴルフの日を中心に動いている様な気さえしている。
...そんなに良い暮らしが出来なくても、贅沢を我慢しても、ずっと同じ古いクラブを使っていても、仲間のように最新のゴルフファッションとは縁のないウェアしかなくても、不満はない。
日常生活とは違う世界をラウンドする事は本当に楽しいのだ。
...だから、月に一度の「眠れない夜」は、自分には絶対必要だと思っている。