「大川くん」
背中に呼びかける。
「お前も大川だろ?」
少しだけ、新が笑ったように思えた。
適当な場所に腰掛けると、彼はもってきたジャージを自分の隣に敷いた。
「タバコの灰とか落ちてるし、ここにすわれよ」
思いもよらない言葉と行動に、素直に頷けない。
「何?嫌なの?」
顔をしかめると、あたしの腕を掴み無理やり隣に座らせた。
掴まれた腕が熱くなる。
新の優しさが、新の言葉が、あたしをドキドキさせた。
「ありがとう」
うつむいたまま、新の顔をみることができなかった。
「今日のあれ、なんなの?」
溜息混じりに彼が言った。
あたしの中のドキドキが一気に消えていく。
島田の事を聞かれると頭ではわかっていた。
それでも、実際口に出す勇気が出てこない。
あのイジメは新以外のクラス全員の罪だ。
あたしも加害者のひとり。
それをひとに話すこと。すなわち自分の過ちを認めること。
「大川を責めているわけじゃないんだ。ただ、何が起きているのか知りたい」
「言ったら、なにかが変わるの?」
「・・・変わる」
新は言った。“変わる”と。
「大川の勇気が明日を変えるんだ」
諦めていた。
あたしなんかじゃ何もできない、流されるしかない、と。
慣れてきていた。
ひとを傷つけること。
それを黙認すること。
痛みを忘れて、傷つくことを恐れて、あたしは明日を捨てていた。
包み隠さずすべてを話した。
ハジメたちの罪。あたしたちの罪。
新はどう思っただろう。
日常的に繰り返されていた島田に対する卑劣な暴力。
そしてそれを傍観する、クラスメイトたち。
新がいたら、こんなことにはならなかったというのだろうか。
あたしたちはただ、弱いだけなのだろうか。
新は最後まで話を聞いてから言った。
「暴力は、最低だ」
そして続けた。
「怖い気持ちは分かる。大きな力に向かっていくってのは、大変なことだから。でも、誰かが動かなきゃ何も変わらない。」
何も、変わらない。明日も明後日もその先も。ずっと、このまま。
「その“誰か”に大川がなるんだよ」
「あたし・・・が?」
できるのだろうか。あたしなんかに。
「あたし、何をすればいいのかな?」
不安だった。だけど、明日を変えたかった。
「明日、嫌って言うんだ」
「え・・・」
「やりたくないって、こんなことはもうやめようって、ハジメたちの前で言うんだ」
「でも・・・」
そんなことして大丈夫かな?
「大丈夫だから」
あたしの思いがわかっているのか、新はあたしの長い髪を優しく撫でる。
「大川はひとりで戦うんじゃない。俺が居る。絶対守るから。俺を信じて」
新の顔は見えなかったけれど、彼の言葉を信じようと思った。
彼はあたしを裏切らない。きっと守ってくれる。
まともに話したことすらなかったひとなのに、どうしてか信用できるような気がした。