家に帰るとベッドの上にジャージが置かれていた。
借りたままになっている新のジャージだ。
あたしはそれを胸に抱きかかえた。
新の香りは消えてしまっていて、洗濯したての柔らかい陽射しの香りがする。それがなぜだか寂しく感じた。
あたしと新の繋がりまでも洗い流されてしまったようだ。
そもそも、あたしたちには繋がりなんか存在してないのに。
ただのクラスメイト。それだけの関係。
責任感が強く優しい新は、クラスの問題を放っておくことができなかった。
だからあたしに協力してくれたんだ。
そこには特別な感情なんかなくて、例えばそれが陽菜や玲奈だったとしても、新はきっと手助けしてたはず。
玲奈の恋を応援しよう。
これからも新は気まぐれにしか学校に来ないだろう。
来たときは、2人がうまくいくように協力するんだ。
頭ではそう想いながら、胸が痛んでる。
あたしはそれに気づかないふりをした。
認めないことにした。
自分の気持ちから逃げること。それが、友達との関係を壊さない最良の選択だから。
「おう」
次の日、6限が始まる少し前に新が学校に現れた。
3日連続で来ることなんて今までなかったことだ。
「おい」
返事を返さないあたしに、「聞いてんのか?」と彼は頭をポンポン叩いた。
「あ、うん。おはよ」
時間に合わない挨拶を口にする。
「今日は大丈夫だった?」
彼が訊いた。きっと島田のことだ。
「平気だったよ。ハジメたち休んでるし」
ハジメは欠席しているハジメだけではない。取り巻き連中も皆来ていない。
久しぶりに島田の声を聞いた。
相変わらず汗を拭きながら、でも、笑って話していた。
小さな勇気が明日を変えたのだと、あたしは少し誇らしく思えた。
「そういえば、昨日ハジメたち俺のトコきたよ」
「え?」
あまりにさらっと言うので、彼を二度見してしまった。
「仕返しのつもりで来たんだろうけど、あんな奴らに負けねえよ」
「喧嘩したの?大丈夫?」
新の全身を見渡す。怪我はどこにも見当たらない。
「バカにすんな。俺、そんなに弱くねえし」
「無事でよかった。何かあったらあたし、どうしていいか・・・」
思わず本音がでた。
自分でも不本意すぎて驚いてしまう。
慌てて弁解しようとしたけど、言葉が見つからない。
「ジャージ、早く返すからっ!!」
真っ赤な顔でそれだけ言うと、あたしは新から顔を逸らし前を向いた。
「顔、真っ赤。可愛いね」
彼があたしのうしろでつぶやいた。
その声がいつも以上に優しくて。
ドキドキがおさまらない。
体中が熱くなる。
こんな気持ち、いけないのに。
玲奈と約束したのに。
あたしは知らなかった。
自分の気持ちを抑えることが、
こんなにこんなに辛いということを。