「おう」
次の日もいつもと同じ、変わらぬ新の挨拶が聞こえた。
あたしはそれを無視した。
だって見ている。玲奈が見ているんだ。
失いたくない。
揉めたくない。
たとえこの恋が終わったとしても、例え新に嫌われたとしても。
「大川?」
呼ばないで。
「なあ、おい」
肩を掴まれ、無理矢理顔を向けさせられた。
「どうした?そんな顔して?」
話しかけないで。
心配なんて、しないで。
「離して」
肩に置かれた手を振り払い、あたしはうつむいて新に言った。
彼の顔を見ることができない。
あたしの顔も、見てほしくない。
だってあたしは、きっと泣きそうな顔をしているから。
「話しかけてこないで。迷惑だから・・・・」
「は?急になんなの?意味わかんねえ」
聞こえた言葉は、たしかそんな感じだった。
実際のところ、あまりよく覚えていない。
次に見たのは、去っていく新の背中だった。
これでよかったんだよね?
隣の玲奈に目を向けると、満足そうに微笑んでいた。
あたしは、間違っていない。
新に掴まれた肩が痛くて、それを理由に保健室に駆け込んだ。
けれど実際痛かったのは、肩なんかじゃなくて、心だった。
保健室から教室に帰るとき、廊下の隅に陽菜を見つけた。
「陽・・・」
声をかけようとした瞬間、隣に夢ちゃんがいることに気がついた。
足が止まる、躊躇してしてしまったのだ。
離れたところから2人を眺めることしかできないでいる自分が嫌でたまらなくなった。
教室に戻ると、しばらくして陽菜が戻ってきた。
「どこいってたの?」
彼女に聞いてみた。
「別に・・・・」
陽菜は本当のことを言わなかった。
彼女もあたしを疑っているのだろうか。
夢ちゃんが言っていることを、信じているのだろうか。
涙が出そうになった。
鼻がツンとして、世界中でひとりぼっちになったような気持ちになる。
新。
あたしは、新を求めていた。