「あー。うん」
アリガトウゴザイマス、と無機質に言って、お隣さまはタルトを受け取った。
なんか・・・・ちょっと。態度悪くね?
よく見ると家の中は電気が消えていて。そして彼の表情は眠そうで。
もしかして・・・っていうか、たぶん。一人で寝ていたところをあたしが起こしてしまったらしい。
まずいな。
あたしは冷や汗をかいて、ヘコヘコと笑顔を作った。
「あ、あの~っ。そういえば、初めまして、ですよね」
「・・・・・・あー」
「あたし、隣の家の長女で、泉穂っていうんですけど」
「・・・・・・あー」
「えと、アキ君、だよね?」
「・・・・・・あー」
「・・・・・・」
お前は「あ」しか知らんのか?会話のボールは投げ返せよ!
キャッチボールしようよオイ!
胸ん中で抗議してみるものの、目の前の彼は悠然と無表情を保ったままだ。
もしかして・・・・・・この人。
嫌なヤツ、なのかもしれない。
あのとき見た虹の美しさにつられて、勝手にいいイメージもっちゃったけど。
思い違い、だったのかもしれない。
・・・・・・なんだろう。悲しくなってきた。みじめになってきた。
ヘコヘコ笑って機嫌とろうとした自分が、バカみたいに思えてきた。
つーか、ちょっとはアンタもあわせろよ。
なんでそんな堂々と無愛想にできんだよ。
黙り込むあたしに、彼は「まだなにか?」みたいな視線を送ってくる。
「・・・おジャマしました」
そういって帰ろうとしたけど、やっぱ最後に嫌味のひとつでも言ってやろうと思った。
あたしは振り返り、精一杯な高飛車な態度で言い放った。
「そのタルト、高いんだから味わって食べてくださいね」
すると彼は、やわらかそうな前髪の隙間からあたしを見つめて。
「悪いけど俺、甘いものは食えないから」
「・・・・それはそれは失礼しました!!」
バン!!と乱暴に閉めたドアの音。
昨日、虹を見た空は、ムカつくくらいに晴れ渡っていた。
なにアイツなにアイツ、なんなんだよアイツ。
隣人へのムカつきは、一晩たっても消えなかった。
べつにそこまで腹を立てる必要はないって、自分でも思うけど。でも、無性に裏切られた気分で。
・・・・・・だって。バカみたいかもしんないけど、あのキレイな虹は、彼が見せてくれたような気がしてたのに。
いや、バカみたいじゃなくて、ホントのバカか。なにを期待してたんだっつーの。
「はぁ・・・・・・」
てゆーか、どいつもこぃつも、なんであんな傍若無人に生きられるんだろう。
それともあたしがヘタレすぎんの?
あたし以外の人間がみんな自信満々で、あたしだけがビクビク生きてるような気がしてくる。
ムシャクシャしながら放課後の廊下を歩いていると、前から来た人と正面衝突してしまった。
「・・・・・・いってーなぁ!」
小心者のくせにイキがるのが得意なあたしは、ぶつかった顔を上げて相手をにらみつけた。
が、次の瞬間には大後悔。
「ごめん、そんな痛かった?」
うそっ・・・・・・マジでっ!?ニーナ先輩!!
続く