『失われた足跡』 カルペンティエル
失われた足跡 (岩波文庫)/岩波書店¥1,102Amazon.co.jpなかなか難儀な本だった。キューバ出身の作家、カルペンティエルの作品。1953年刊。ラテンアメリカ文学ってのは時にとんでもない世界に連れて行かれる。西洋文明社会で退廃的な一小市民的音楽人として暮らしている「わたし」がひょんなことからアマゾン奥地へ、ある楽器を探しにいくことになる。妻と文明から逃避して、愛人と二人で向かう南米。到着早々にクーデターに遭遇したり、しつつもとりあえずアマゾン奥地へ向かうことに。文明から離れるに連れて愛人の容貌がどんどん悪化し(ってどんだけ化粧でごまかしてたんだよ)、こいつ似非文学好きだなとか、嫌悪感を覚えるようになる。「あちら」の世界に属していたものへの関心が薄れ、奥地への移動につれて「わたし」は別の世界へと近づく。熱にうなされたように奇妙な記述が続き、いつの間にやら文明人「わたし」は消え、20世紀ではなく創世記冒頭の時代に生きる「わたし」に変容する。呪術と、それにまつわる音楽の誕生を目にした私は取り付かれたように原初の音楽を数少ないノートに書き記し・・・カルペンティエルはキューバ生まれ。頽廃的知識人であり西欧人であった両親のもとに生まれ、10代から書き続けたらしい。ラテンアメリカ文学って、ラテンアメリカでは異端というか、浮いた存在である階層の人たちが書いているイメージが強いな。ボルヘスとかアストゥリアスとか。西欧を強く、西欧自身よりも強く引きずりながらも土着的な「アメリカ」を再発見する作品が多い印象。ちなみにカルペンティエルはアストゥリアスらとともにフランスに亡命していて、1930年代にシュルレアリスト達と交流していた。だから、フランス文学っぽさも結構強い。