SM小説  背徳の恥恋花 | 官能作家、片桐源蔵の公式ブログ

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 TVキャスター 上杉理恵子 其の三



 そうだわ、 この道は環八につながる吉田街道だもの、 でもおかしいわ、 何故? 何故この道を通るのよ、 理恵子は外の景色に嫌な胸騒ぎを感じていた。  この道が空港へはかなり大回りになる事は運転手だって知っているはずなのだ。  何故かしら? 何故わざわざ大回りしてこの道を通るのかしら、 理恵子は運転手の後姿を見ながら思ったのだ。  隣を見ると園田専務も窓から外の景色を見ているのが分った。  しかし専務は何の疑問も何処を走っているのかも気にする様子はなかったのだ。  何かしら? 何か他に途中で用事でもあるのかしら、 このまま真っ直ぐ行けば浅草に出てしまうもの、 ふう~ん、 駒形インターから高速に乗るのかしら、 理恵子は音楽よりも運転手が何を考えているのかその方が気になっていたのだ。  アッ、 やっぱりそうだわ、 この道よ、 あの古い並木の切れた交差点を左に曲がれば、  左側に大きなお寺があって、 其処を通り過ぎた処を右に廻れば、 理恵子はあの屈辱の後も幾度か訪れたこの変わらぬ古い並木道をハッキリ憶えていたのだった。  あぁ、 本当にイヤだわ、 この道はイヤよ、 理恵子は其の交差点が眼の前に近づくに従って何故か心臓が高鳴るのを感じていたのだった。

 あぁ、 良かった、 眼の前に見える交差点の信号が青になっている事が理恵子にも見えていたからだ。 理恵子は一刻も早くこの見たくも無い運命の交差点を通り越して欲しいと思ったのだろう。  

 あぁ、  早く、早く、 早く走って、 理恵子は無意識に心の中で叫んでいたのだ。  しかしハイヤーが進入しようとした瞬間信号は黄色に変わったのだ。  運転手は其の瞬間を待っていたかのように何故かスーッと音も無くブレーキを踏んだのだった。  理恵子はハイヤーが停止線の前の歩道を越えた処で止まった瞬間、何故か身体が小刻みに震えていることを感じていた。  ふうっ  何よ、 行けば良いのに、 本当にイヤな信号ね、 理恵子は諦めるように思った。

 あぁ、 早く信号、青にならないかしら、 イヤよ、 早く此処から離れたいわ、  この場所を思い出したくない、 思い出したくないもの、 理恵子はそんな胸騒ぎがする中一番思い出したくない人物が心の中から現れるのを感じていたのだ。  ジャンヌ ダルク、  そう、 このジャンヌダルクこそがこの場所で理恵子の運命を変えたのだから。   理恵子は左側の景色を避け右側の風に揺れる並木道を眺めながらも自分の運命を変えたフランスの若き英雄の名が避けても避けても心の奥底から想い浮んで来る事に堪えられない感情を抱くのだった。

 そんな理恵子がフランスに興味を抱いたのは中学生の頃だった。 当時の同級生の中ではフランスと云えばベルサイユのバラであってテニスのお蝶さんだったのだろう。 しかし智才で其の頃から外国文化に興味を抱いていた理恵子は何故か図書館で読んだジャンヌダルクの本で彼女の生き方に傾倒していったのだった。 勿論その時は日本語に訳されていた本を読んだのだが次第にフランス語の原本でこのジャンヌの物語を読みたいと思ったのが始まりだったのだ。  大学二年の時、フランス大使館主催の外国人によるフランス弁論大会という催しで理恵子は見事優勝を果し夏休みを挟み二ヶ月もの間フランス留学を経験していたのだった。  しかし其の時の経験がまさか今いるあの場所での汚辱の経験に繋がっていた事など当時は夢にも思わなかっただろう。 

 理恵子は其のフランス大使館の優勝への招きで二ヶ月の留学の権利を得たのである。 其の為フランス留学時、色々な美術館や博物館を無料で見学する事が出来たのだ。  およそ六百年前ジャンヌが生きた頃のフランスの地方を訪ね歩く事も出来たのだった。  またその間に二週間ほどイギリスにも滞在して当時のフランスとイギリスが争った所謂百年戦争の歴史を比較することも出来たのだった。   その中で理恵子にはとても信じられない発見がいくつも有ったのだろう、 中でも理恵子が驚愕したのは拷問に使われた当時の怖ろしい道具の数々だったのだ。  フランスには歴史的に色々珍しい博物館が沢山あるが其の中には拷問の道具だけを展示している博物館も複数あったのだ。  ジャンヌは捕虜になった時、女性であるがゆえに、また不当な裁判に堪える為に恥かしい思いに曝される事もあったのだろう。 理恵子は一人初めて見るおぞましい拷問の道具を眼の前にして其の当時ジャンヌが生きた時代の凄惨な歴史に思いを巡らせるのであった。 


 

  片桐源蔵 オリジナル作品