SM小説  背徳の恥恋花 | 官能作家、片桐源蔵の公式ブログ

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 TVキャスター上杉理恵子 其の二



 あぁ、 専務、 お待たせ、 理恵子は先程スタジオで見せた傲慢な態度とはうって変わって専務の園田の姿を見た瞬間、朗らかな顔に変わっていた。  あぁ、 いいよ、 さっきまで下のモニターで理恵ちゃんのニュースを見てたんだよ、  上品なスーツ姿の園田も理恵子の姿を見て笑顔で軽く言葉を交わしたのだった。

専務、 それじゃぁ、今日のニュースを見てて気付きました? あの議員会館からの中継、 参議院からの中継はいつも法案審議に時間がかかるから絶対ダメなのよね、 デスクもそんな事分ってるはずなのに、 片山さんもあの時無理して引っ張らずにすぐCMにいけば良かったのよ、  そうすればエンディングに私のコメントも入れられたのに、 本当に今日は最悪だったわ、 せっかく昨日から政府のこの法案は酷すぎるってコメを考えていたのよ、 本当に台無しだわ、   理恵子はまた思い出したように今日のニュースの不手際の憂さ晴らしをするように園田に愚痴をぶつけていたのだった。

  ハッ、ハッ、ハッ、 そんなにスタッフを怒っちゃだめだよ、 まぁ、 先に車に乗ってから話を聞こう、今の時間なら十分間に合うとは思うが早く行った方が良い、  彼は一人だから何かあったら申し訳ないからな、 本当に理恵ちゃんはフランス語が分かるから助かるよ、  興奮する理恵子を温厚で部下の信頼も厚い園田は促がすようにハイヤーに乗せたのだった。

あぁ、 運転手さん、 聞いてると思うが成田空港では一般道からじゃなく東側の特別進入路から入ってVIP専用出口の方に廻って下さいね、  此れがその通行許可書ですから、 園田のそんな問いかけに、 いかにもベテランらしく落ち着いた声で運転手はハイ良く承っておりますのでと丁寧な言葉で応えたのだった。  ドアが閉まった瞬間車内にはおそらく理恵子の身体から発散されただろう妖しい香水の匂いが園田の身体を刺激した。  理恵ちゃん、 最近怒りっぽくなったね、 強い香水の刺激と40代の女の身体から湧き出すような艶かしい女の匂いの中、園田は局内から聞こえてくる理恵子の噂話を話し出したのだ。  運転手さん、 ちょっと音楽を掛けてくださるかしら、 音は少し大きめで良いですから、 理恵子は用心深い性格だったのだろう、 自分の噂話を運転手にも聞かれたくはなかったのだ。  運転手は其の点も心得ているかのようにポップス調の会話が聞き取りにくい曲をわざわざ選んで流したのだった。

 有難う、運転手さん、  理恵子は安心するかのように流れる音楽を確認しながら話し出したのだった。 専務、 だって最近本当に怒れることばかりなんですもの、 其れに新人アナの教育も全然なってないわ、  本当に最近の新人さんは挨拶もちゃんと出来ないんですもの、 理恵子は先週研修を終えた新人アナウンサーの挨拶回りに遭遇した時の感想を話しながら怒りを専務にぶつけだしたのだ。  

 あぁ、 そうか、 ふむっ、 そうだなぁ、 理恵ちゃんの気持も分るが、  あぁ、 其れじゃぁ、丁度良かった、 そう云えば理恵ちゃんも聞いてるかな、 人事の話だよ、 理恵ちゃんに人事教育部の責任者になってもらおうって話、 どうなんだね、 理恵ちゃんに教育をしてもらえば会社としても大助かりなんだが、 園田は思い出したように理恵子の本心を問い質したのだ。  えっ、 其の話、専務の処にも?   ふ~ん、  理恵子はまた気分を悪くした口調に戻っていた。  この話は昨年から人事部の山崎部長から何度も打診されていた話なのだった。  理恵子が気分を悪くするのも当然だったのだ。   部長待遇でのこの話、形ばかりは栄転なのだが其れは十七年続けてきたメインキャスターの座を引退する事を意味していたのだから。  専務、 私、其の話はきっぱり断っていますから、 山崎部長にもハッキリ云ったんですよ、  私がこの番組を辞める時はこの会社を辞める時ですって!   本当に誰も分ってくれないんだから、  園田も此処までハッキリ否定されると次の言葉も出てこなかったのだろう、 うなずくように外の景色を見ながら黙ってしまったのだった。

 暫く車内の会話は途切れポップス調の騒々しい音楽だけが鳴り響いていたのだった。

運転手さん、 有難う、 悪いけど今度はもう少し静かな曲をお願い出来るかしら、 理恵子はそんな嫌な雰囲気を掻き消すように静かな曲を要求して話題を変えたかったのだろう。  理恵子自身も今この話が一番気になっていたからだ。   うふっ、  この運転手さん、どんな曲を掛けてくださるのかしら、  理恵子は耳を澄まして流れる曲を待ったのだ。   ええっ、?  そっ、そんな、本当に、  理恵子は驚いた、  運転手が選んだ曲は理恵子が一番好きな曲、ナムキトパだったからだ。  えっ、 本当に? 理恵子はグッと耳を澄まして聴き入った。  やっぱりそうだわ、 理恵子は曲のイントロが流れた時すぐにこの曲が何かすぐ分ったのだ。

フランス語で、行かないで、 運転手がフランス語が堪能な理恵子のことを知っていてこの曲を掛けたのかは分らない。 しかし理恵子は嬉しかった。  偶然かしら、  理恵子の心の中にもこの曲があったのだ。  理恵子はいつも局が手配するハイヤーには乗る前に運転手の顔を確認する事がよくあった。 知っている馴染みの運転手がよくいたからだ。  しかし今日は時間に追われ、また専務との話しに夢中になり運転手の顔は見てなかったのだった。  アラ、 私初めての運転手さんかしら、 理恵子は思った。 今迄馴染みの運転手でも音楽にこんなフランスのシャンソンを掛けてくれるような気の利いた運転手はいなかったからだ。 理恵子は興味深くそっと覗くように前を見たが其の運転手の顔は暗い車内の中でよく見れなかった。  ふふっ、 なんて運転手さんかしら、  まあいいわ、  あぁ、 でも本当に素敵な曲だわ、  理恵子は園田との会話をやめて外に映る夜景をみながら静かに美しく流れる愛の詩に聴き入ったのだった。

 ハイヤーは流れるように光に満ちた夜の街の中を走って行った。  だが其の時だった。  えっ、 まっ、まさかこの道は、 理恵子は外の街の景色を見て驚いた、 成田空港へ向かういつもの道ではなかったのだ。 しかも其の道は十九年前未だこのテレビ局に入社したばかりの自分の人生を大きく変えた思い出したくも無い屈辱のあの場所に向かって走っていたのだった。  



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