それは私にくどくど余計なことを言ってひどい目にあわせた?薬剤
師さんでした。目を合わせないようにして通り過ぎようとした私に
”頑張っていますね。あなたにラッキーな話があります”と辺りを
はばかりながら言いました。そうして”あなたの病症は治ります。
実はリツキサンという抗がん剤はあなたの症状に効く新薬で最近、
市販された新薬です。だから希望を持ってトレーニングに励んで下
さい。H先生がおっしゃるように免疫力を高めることでさらに効果

が高まります”とハグしたくなるようなことを言うじゃないですか
もうちょっと美形だったら、どさくさ紛れでハグしたと思います。
私はこの天から派遣されたような薬剤師をマークすることにしまし
た。それからは彼女のひと言”治る!”を寝言のように口にしなが
らトレーニングに励みました。3回目ともなりますと私の奇行は奇
行でなくなり当たり前の風景になってきました。私自身も3回目と
もなれば、ヘンな話ですが余裕が出てきます。慣れもあります。

痩せこけて今にも倒れそうですが倒れませんでした。薬剤師さん
の”あなたは治る”という魔法の言葉に導かれるように判で押し
たようなアクションは続きました。そうして待ちに待った3回目
の結果が出ました。しかし今度はあんまり担当医の、表情が思わ
しくありません。案の定”4cmまで小さくなったんですが今回
は1cm縮小しました。でも我々は小さくなることもですが、む
しろ大きくなることを危惧していました”と落胆する私を慰める

ように言います。患者のなかには半数ぐらいは死に至ったり体力
が続かず化学療法をギブアップするひともあるぐらい手強い相手
であることを知らされて鉛を飲んだような気持ちになってしまい
ました。”ぐっさん、あなたはこれだけ動き回ってありますから
当然4回目もやりましょう、ただし難敵です。ほかに手段として
として一旦、腫瘍の混入する血液を抜いて再生して体内に戻すと
いう方法もありますが若年でも生還率は少ない施術です。あなた

の年代では保障できません”と冷酷な話に反発するように”私で
もだめですか”と動き回るのを誇示するように言いましたら”残
念ながら死んでしまいます”と頭を殴られたような気持になりま
した。空気を和らげるようにH先生は”もうひとつ手として、さ
らに強力な抗がん剤を投与するという方法もありますが血液の洗
浄する方法より生存率はアップしますが、ぐっさんの年代では期
待できません”とこっちが聞きたい気持ちを先制するように言い
ました。

  神も仏もいないとかと天を仰ぎました ぐっさんハイ

すぐギブアップすると思われた奇行は周囲の心配や思惑をよそに朝
6時半、午後2時、夕方5時と判で押したように院内を徘徊し続け
て、2回目の治療が完了しました。その結果のデーターを手にした
主治医が飛んで来て”ぐっさん10cmあった腫瘍が4cmになってい
ます、予想以上の改善です!もちろん内臓も正常に機能しています
”と医師らしくない、一般人のような喜びようで教えてくれるじゃ
ありませんか。うれしくて涙が止まりませんでした。H先生は、

”あなたが一生懸命リハビリをやられたことと今度は腫瘍を小さく
することに主眼を置いて抗がん剤の投与の効果がでてきたことが、
よかったと思います。しばらく休養して3度目の投与で一気に(
腫瘍を)叩きましょう。とノリノリの口調で弾むように言います、
私は”先生もう内臓は正常になったとなら口から食えるんですね”
と媚びるように言いましたら”いいえ用心のため点滴で栄養補給
を続けましょう”と他人事だと思って素っ気ない答えが返ってき

ました。因みに絶食のとき飯が食いたいと思ったのは体調によって
も違うと思いますが、私の場合は内臓が動き始めて、しばらくした
らテレビのCMをみても食いたくなり配膳車とすれ違ったらついて
いきたくなりましたね。ところが絶食も1ケ月を経過したころから
慣れというか惰性で点滴で過ごしても、さほど飢餓感を感じなくな
りました。3回目の作戦が近くなり口から物が食えるようになりま
したとはいっても最初は流動物です。さっそくかみさんがスープな

どを差し入れてくれるようになって気持ちのうえで一般人に近かく
なったと意を強くしました。とにかく身体を動かし汗を掻くことは
普通の人でも生活を維持ためには必要なことでしょうが、出来るだ
けベットを離れて動き回り、現役のみなさんが忙しく働いている中
を徘徊することで刺激を受け副作用に襲われる暇がないというか気
持ちを転換させるという体験をしました。実際はいろいろあるんで
しょうが意識を別に向けたんです。貴重な体験でした。さて私が、

勝手に薬漬けは副作用があって大変だと騒いでいるのですがガンに
は無縁で幸運な方には入院日記など迷惑な話ですね、でも、もうし
ばらくお付き合い下さい。それにしても抗がん剤は劇薬です。です
から化学療法なんか止めとけという学者や医師がいます。しかし私
は化学療法に賭けました。だって、おなかが破裂しそうな状態だっ
たし西洋医学に頼るしかありませんでした。そんなことを思い浮か
べながら院内を徘徊していましたら素敵なひとと出会いました。

  普段は表情を顔に出さない医師が「 破顔一笑」という
   言葉がピッタリの表情に驚喜した かみさんとぐっさん
指導を受ける期間は1週間、本来ならリハビリルームに行って受講
せねばならないところですが、ガリガリに痩せて体力もありません
でしたから個室に移ったこともあって先生に出向いて頂きました、
部屋で出来るトレーニングを教えてもらいました。普通なら楽勝で
しょうが体力がありませんから骨が折れました、そのくせ翌日はベ
ットでのリハビリの後、室外に出ようとしましたが脚が縺れてなり
ませんでした。出張指導は5日で辞退して自分でやれると言いまし

たが三日坊主と思われたのか、その後も出向いて私の動きを見守り
ながら”日頃からやっていましたね”と言って姿を見せなくなりま
した、見栄を張ってノルマの倍やったんです、それは症状が思った
以上に重篤で死ぬ目にあい、こりゃヤバいと思ったことと担当医に
説教されたことがきっかけとなり、きざな言い方ですが自分の仕事
即ち筋トレや歩行をやり抜いて免疫力を高めてやろうと決めたから
です。それに初回の治療では恐怖と緊張の、あまり医師や薬剤師の

言うことに順応し過ぎて、優等生的病人なってしまったという反省
から発想を全く変えようということで医師や看護師さんを慌てさせ
ることになりました、つまりですな、ベットを飛び出してリハビリ
をはじめたんです、具体的には2回目の化学療法がスタートしたと
きのことです。点滴が始まってベットから起き上がり、点滴の棒に
掴まりながら筋トレや歩行をやろうとしたんです。当然、看護師が
”点滴中は危ないですからジッとして下さい”と止めようとしまし

た。薬剤師も来て”副作用が筋トレや歩行中に出たら危険です”と
呆れ顔で言います。そうして担当医も飛んで来ました。”こんな、
無茶なことをやろうとする患者さんは始めてです。点滴が終わって
からにして下さい”と駄々っ子を叱るように言いました。私は”先
生、先生に教えて頂いた治癒力を取り戻し化学療法をより効果的に
したいのです。なにより死にたくない!生きたい!”と涙声でうわ
言のように言いました。やつれて骸骨みたいな老人の言うことだか

ら、すぐにくたばると思ったのでしょう許可が下り病棟の外にある
公衆電話のスペースまで這うようにたどり着いて形ばかりの筋トレ
をやって歩行するという奇想天外なアクションがスタートしまた。
気の毒だったのはリハビリの先生で腫れ物を扱うように付き合って
頂きました。先生も私の執念に共感したのか熱心に伴走して頂き、
よちよち歩きをしながら最初はすぐ疲れて横になるという動作の連
続でした。そんな破天荒のアクションは院内で好奇の的でした。

  ”死んでたまるか!”と闘争心に火がついた ぐっさんハイ