ルチアの胸をハッシとばかりに捉えた ブルータスは、ただのこちらの気のせいか、舞台の上からじっとルチアを見つめるようにして、
初めに こう言いました。
ブルータス 「 キャシアス、誤解しないでくれ。おれが人に面をみせたがらぬというのも、いわばおのれの暗い顔をひたすら
自分の胸に向けようとするからなのだ。 おれは苦しんでいる。
この間から心の内に相争うものがあるのだ。 もちろん、人に関わりのない自分一人の心のわだかまりにすぎぬ。
あるいは、それがおれのふるまいに、影のようなものを与えているのであろう。… この無愛想も、所詮は
ブルータスの奴、かわいそうに、おのれを相手の戦いで精一杯、他人に友情を示すゆとりを失ってしまったと、
そう思ってくれればいい。」
これは『トロイラス』 の冒頭と同じなのです。
トロイラス 「 この胸のなかに 無惨な戦いがあるというのに? 自分の心を思いのままにできるやつは戦場に行くがいい。
このトロイラスは悲しいかな 心をうち砕かれてしまった。」
火が燃え上がり、広がり、あっと言う間に火に包まれ 呑み込まれていった。火を引きずったからだが あるなら、あなたがそうだ。
(火を噴きし 後と 人は知らじな)
この不穏で、禍々しいような「 心のうちで相争う 」、「 無惨な戦い 」って何だろう?
わら小屋の舞台の奥は直ぐ広々とした野原に続いていて、ブルータスが立っている方から 青草の匂いのする風が吹いて来る。