空一面を厚い雲が覆っていた日曜日、群馬県東吾妻町の岩櫃山に登ってきました。
平沢登山口駐車場に車を停め歩きます。すぐに尾根通りと沢通りの分岐があり、私は眺めを期待して尾根通りに進みます。
15分ほどの軽い登りで岩櫃城本丸址の広場に出ます。戦国時代の上州は甲斐武田氏、越後上杉氏、小田原北条氏がその支配権を争った地。この岩櫃城でも幾たびか争いが繰り広げられたことでしょう。しかし今日の本丸址はそんな重い歴史を感じさせることもなく、新緑の木々の葉や林間の雑草が静かに風に揺られていました。
尾根通りの登山道は、六合目の「赤岩通り分岐」の先で沢通りと合流し、「天狗の蹴上げ岩」を見上げる薄暗い「櫃の口」から岩の間に分け入っていきます。ハシゴを一段一段登り一本のクサリをたよりに岩にしがみつき、汗をぬぐいながら沢を進んで九合目の岩峰に立つと視界が開けます。
そして目の前に、2本のクサリが掛けられた岩櫃山山頂の岩峰が槍のごとくスッと緑の中に突き立っていました。しばしその姿に圧倒され、「これは無理かもしれない」とまるで心構えのなかった私は立ちすくみました。
「行けるところまで進もう、無理なら戻ろう」
カメラをザックにしまい九合目の岩峰をクサリを伝って鞍部まで下降し、ヤセ尾根を恐々渡って山頂の岩峰に取り付きます。山頂には登山者が一人(後で指導員の方と知ります)、今まさにクサリにしがみついて山頂に達しようとする男性が一人いました。このお二人がいなかったら私は登頂をあきらめていたかもしれません。手助けをしてくれるわけではないのですが、やはり同じ場所に身を置く人がいるだけで心強いものです。
片手でクサリを握りしめ残った手で岩角を探り、靴先で頼りのない岩のくぼみを捉え、三点確保で少しずつ体を押し上げていきます。高度が増すにつれ鼓動が早くなり、腕や普段使わない筋肉が疲労していきます。
山頂に立った時、嬉しさもなく達成感もなく、ただただ無事だったことにホッとしました。
関東百名山 ver.2019 77/100
岩櫃山
2024.05.26
平沢登山口駐車場 → 岩櫃山登山口 →(尾根通り)→ 岩櫃城本丸址 → 天狗岩 → 六合目 赤岩通り分岐 → 九合目 → 岩櫃山(往復)