あらすじ
神降市に住んでいる小学生の黒沢芳雄は、同級生たちとともに市内で起きる猫殺しの解決に乗り出す。ある日、芳雄は同級生の鈴木太郎と言葉を交わす。彼は自分が全てを知ることの出来る神だと言い、猫殺しの犯人を芳雄に教えるのだが……。
(byウィキペディア)
いわゆる本格推理小説ではない。
全ての伏線が完璧に回収され、どの部分を切り取っても破綻も矛盾もない、というタイプの小説でもない。
「神様」を信じるか否かで結論の別れる話。
以下ネタばれあり
個人的に最後の文章
「ただひとつだけはっきりしていることがある。それはこれが神様の天誅の結果であり、神様は間違えないということ。
たとえどんなに信じられなくても、そこにはただ真実のみがあるはずだ。」
という文章が叙述トリックの小説の解説シーンのように感じるので、母親が共犯だというのがこの物語の神様(作者)の結末。
…が、内容について少し苦言を。
共犯者を主人公の父親と思わせ実は母親だった、というのがこの物語最大の見せ場だろう。
・「井戸のフタに隠れていた」というトリックをあえて中盤で書くことで、このトリックが真実でないと思わせた
・「エッチ」という単語を使うことで、共犯者が男性と思わせた
等々のミスリードはあるのかもしれないが、母親が共犯者である伏線が弱い。
父親でも母親でも共犯者として成立する以上、それはどんでん返しとは言えない。
最後のどんでん返しというのは、どんでん返しがあった後一部の隙もないから成立するのであって、隙があってしまえばそれはお茶を濁していることにすぎない。
しかしその前に。
共犯者云々ではなく、警察の見立て通り「ただの事故死」であった可能性ももちろんある。
ではなぜ、ミチルが犯人で共犯者は母親であると「ぼく」が信じたのかというと「神様」がそう言っているから。
父親が共犯者であるのか、母親が共犯者であるのか、それともまたただの事故死だったのか。
この問題を解き明かすためには「鈴木が神様であるのか」という問題を解かなければならない。
神様が「ぼく」の前で見せた特殊能力において物語に大きく影響を与えているのは以下2点。
①猫殺しの犯人の名前を言い当てる
②犯人に天誅を下す
①について。
鈴木が言った名前の犯人が後日捕まる(P240)ことから考え、このことについては真実を言い当てている。
鈴木が神様でない場合、どうやって犯人の名前を知り得たかは不明だが、
猫を殺している姿を見かけ後をつける。表札や近所の情報からその人物の名前を入手する。
…といったことがあったと考える方が、小学校4年生の「僕は神様だ」という言葉を真に受けるよりも論理的な気がする。
②について
鈴木へ「英樹を殺した犯人に対して天誅を下す」というお願いをしたところミチルが死に、「共犯者へ天誅を下す」というお願いをしたところ母親が炎に包まれた(生死不明)。
うーん…
犯人に天誅が下った、といえばそれまでだが事故である可能性も否定できない。
そもそも、「英樹は殺された」ということも鈴木が言っているだけであり、英樹が事故死であるなら天誅など起こりえるはずもない。
その他の鈴木の予言に関しては
・小学校の先生通しの不倫を知っている→真偽不明
・「ぼく」の死亡時期の予測・出生の秘密を知っている→真偽不明
・ラビレンジャーの今後の展開を細かく把握している→真偽不明
ラビレンジャーの今後の展開を言う鈴木→今後分かるから…と言う「ぼく」→「どうかな?」と言う鈴木→「どういうこと?」と言うぼく→「再来週には分かる」と言う鈴木
…ということがあった再来週、ラビレンジャーの2人が轢逃げをしたことにより今後の展開が予測できなくなったことを考えると、これは予言だったと捉える事が出来るかもしれない。
しかし、穿った捉え方をすると、
鈴木は再来週転校することが決まっており、それまでひ弱そうな「ぼく」をからかうことを決めた。猫殺しの犯人の名前が分かったから、探偵ごっこをやっているという「ぼく」にその名前を教えて神様だと信じ込ませよう…と思っていたとも考えられる。
そうすれば最後の「サヨナラ。いままで楽しかった。きみと出逢えてよかったよ。」という発言も鈴木のことを神様だと信じている「ぼく」に対する感謝と皮肉に受け取ることも出来る。
殺人も殺人現場もその動機も、全ては鈴木がそうだと語っているにすぎない。
いくらエッチなことをしている現場を見られたとしても、小学校4年生の女の子が目撃者を殺そうと襲いかかるとは思い辛い。
また、ミチルが犯人にならば、英樹を殺害後、現場を見に行こうと言う「ぼく」に協力せず止めようとするはず。
鈴木が神様だ、ということよりも、猫殺しの犯人の名前を知った鈴木が「ぼく」に神様ゲームを仕掛け、いくつかの偶然(ミチルの事故死等)に助けられながらも成功した
と捉える方が論理的な気がする。
何にせよ、結末を読者に委ねるあたり、好みの推理小説ではない。
が、面白い小説だった。
読んでよかった度 :☆☆☆
もう一回読みたい度:☆☆
挿絵が怖い度:☆☆☆☆☆