106話 「運命の絆 ウラヌスの遠い日」(粗筋) | 女道S

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人生はセーラームーンと共に。

ああ、ついに伝説の106話を語る日が来るとは。女道、感無量である。


セーラームーンシリーズの中で一番胸を打たれた回はもちろん110話であるが、一番好きな回は106話かもしれない。すれ違う心! 張り巡らされる伏線! 深みのあるエピソード! 濃厚かつ完璧な時間配分! ああ、これぞ名作!


これまではセーラームーンを知らない人は完全に無視して話を進めてきたが、一人でも多くの人にセーラームーンSがいかにすばらしい物語であるかを知ってもらうべく、106話に限ってはあらすじを書いておきたいと思う。


その前に105話までを手短に説明するため、ざっくりとした登場人物と粗筋紹介をしようかと。今回は敬称略で話を進める無礼をお許しいただきたい。


【登場人物紹介】


天王はるか……無限学園高等科1年。自分のことを「僕」と言う。男子の制服を着ており、普段着も男装多し。背は高く、声は低く、美少女と言うより美少年にしか見えない。かわいい女の子を見るとすぐに口説く。日本初ジュニアレーサー。黄色いオープンカーで公道を疾走する。セーラーウラヌスに変身する。海王みちるとは恋人以上の関係(本人談)。

海王みちる……無限学園高等科1年。天王はるかの同級生。秀才で天才バイオリニストで天才画家。優雅で上品。流暢なお嬢様語を話す。中学生の頃から天王はるかをずっと見ていた。セーラーネプチューンに変身する。


エルザ・グレイ……海王みちるの中学時代の友人で陸上選手。見かけは外国人だが話すのは日本語。海王みちるを天王はるかに紹介した人。


内部5戦士……セーラームーン(月野うさぎ)、セーラーマーキュリー、セーラーマーズ、セーラージュピター、セーラービーナスの5人。(水・金・火・木星が内部太陽系惑星のため、内部と呼ばれる。それに対してウラヌスたちは外部)


【前回までの粗筋】

(注:あくまではるかさん、みちるさんにばかり焦点を絞った紹介ですので、ご了承ください)


セーラーウラヌスとセーラーネプチューンは純粋な心(ピュアなハートと読む)に封じられているタリスマンを探している。


世界を終末から救うためには三つのタリスマン=純粋な心の結晶を奪わなければならない。しかしそれは、純粋な心の持ち主の死を意味する。


ウラヌスとネプチューンはそれを自分たちの使命と感じ、全世界を救うために手を汚すことも辞さず、何の罪もない三人の命を自らの手で奪うことを決意する。


ウラヌスとネプチューンの使命と悲壮な決意を知らないセーラームーン率いる内部5戦士は、純粋な心の結晶を奪おうとする二人の冷酷さに反発をあらわにする。みんなで協力すればきっと世界を守る術はあるはずだと声高に叫ぶが、何の対策も講じない内部戦士たちに背を向け、非情の仮面をかぶったウラヌスとネプチューンは使命とお互いだけを信じ、孤独で厳しい道を進む。



……



106話はウラヌスとネプチューン=天王はるかと海王みちるの出逢いからすれ違いを経て、真のパートナーとして歩み始めるまでをたったの一話で描く、日本アニメ史に残る正真正銘の名作である。


また、ここまで真剣に丁寧に同性間の愛情を取り扱ったものは稀有だし、これが土曜7時の子ども番組で放映されていた事実にもまた、我々は感動を禁じえないのである。


それではいよいよ、106話の粗筋に入るとしよう。



【106話 運命の絆 ウラヌスの遠い日】


来春の受験に備えて白樺高校を見学に行ったうさぎたち5人は、有名陸上選手のエルザ・グレイに出会い、楽しく会話する。


そのエルザの純粋な心の結晶を狙って敵が襲い掛かる。うさぎたちは内部5戦士に変身し、エルザを救うために戦うが歯が立たない。敵を追ってきたはるかは木陰でそれを見ていたが助けようとはせず、腕時計型通信機(当時は携帯電話が普及していなかった)でみちるに連絡をする。


「こちらはるか。S地区の白樺高校。襲われているのは、エルザ・グレイだ」


みちるはほんのちょっとの間を置いて「そう」と答える。通信機を閉じたはるかは「すまない」とつぶやき目を伏せる。


エルザは中学生のはるかにみちるを紹介した人であった。以下、回想。



***



セーラーウラヌスとして覚醒する前、中学生のはるかは、たびたび破滅の幻影(荒廃した世界の終末の映像)を見ていた。その幻影にはいつもセーラー戦士姿の美少女が現れる。


「沈黙が迫ってくる。早くメシアを探さなきゃ。それができるのは、わたしとあなた」


彼女は祈るように指を組み、闇に飲み込まれそうなはるかに呼びかける。



短距離走のスタートの直前にもはるかはその幻影を見るが、面倒くさそうな顔で走り軽々と優勝する。


競技終了後、隣のコースを走っていたエルザははるかに歩み寄り「あなたに紹介したい子がいる」とみちるを呼ぶ。その姿にはるかは目を見開く。


「海王みちるよ。すっごい秀才でしかも天才画家って言われているの。あなたに興味があるんだって」


との紹介に照れるでもなく、澄ました表情ではるかに歩み寄るみちる。


「あなた汗一つかいていないのね。かなり力を抑えているんじゃなくって?」


はるかは気分を害したのか、馬鹿にしたような半笑いで言う。


「どう言うこと?」


みちるは幾分目を細めて言った。


「風の騒ぐ声が、聞こえるんじゃなくって?」


はるかは再び目を見開き、みちるは瞳を潤ませてはるかを見つめる。夢に出てくる戦士がみちるであること、みちるもはるかが戦士だと知っていることを確信するが、いまだ宿命を受け入れられずにいたはるかはみちるから目をそらす。


「変な奴。で、僕に何の用があるって?」


はるかはスポーツバッグを担ぎみちるに背を向ける。


「絵のモデルになって下さらない?」


そっけない態度にもめげずに明るい声と笑顔で依頼するみちる。


「パース、そういうの好きじゃないんだ」


はるかは背を向けたまま言って歩き出す。優雅な笑みを浮かべていたみちるが辛そうにうつむいたのを、はるかは知らない。



バイオリンの音色が流れる船上パーティー。白いクロスがかかったテーブルにひじを突いて、タキシード姿のはるかはつまらなそうな顔で座っていた。ステージ上でバイオリンをひいているのは白いドレス姿の海王みちる。隣のテーブルの男女がみちるのことを人嫌いだと噂をする。はるかは顔をしかめ会場を出てゆく。その様子を演奏しながらも辛そうに横目で見つめるみちる。


階段を降りるはるかは、壁にかけてある大きな油絵に目を奪われる。それは建物の数倍にも及ぶ大津波と荒廃した街、はるかが幻影として見る世界の終末そのままだった。


「お気に召したかしら? 今夜はようこそおいでくださいました。天才レーサー天王はるかさん」


白いドレスのまま踊り場で横座りをするみちるは、悠然と笑みを浮かべ、階段の途中に立つはるかを見上げた。


「ずいぶん詳しく僕のことを知ってるんだな。これ、君が書いたの?」


はるかはみちるに目を向けずに言う。みちるもはるかの問いに答えずに楽しげに話し始める。


「あなたって有名よね、私の学校にもあなたのフリークがたくさんいるわ。その子、女の子のくせに、あなたの車で海岸をドライブしてみたいんですって……」


はるかは絵を見上げたまま言う。


「ふ、世界の終末か。虫一匹殺せないようなお嬢さんが、良くこんな恐ろしい空想画を描けるもんだ」


「空想じゃないわ」


みちるは語気を強めた。


「わたしには、それがはっきり見えるの、あなたと同じように」


みちるは立ち上がりはるかを見つめる。


「ばからしい」


はるかは顔を背けた。みちるはうつむく。


「僕は日本初ジュニアレーサーの天王はるかさ。前世の記憶も世界の終末も、僕には関係がない。誰かがやらなければならないなら、君がやればいいさ。僕のこと勝手に調べるのはやめてもらいたいな!」


あまりにも冷たいはるかの言動に、みちるは組んでいた手を握り締めた。


「勝手なこと、言わないで」


みちるは振り絞るように言う。


「わたしだってごめんだわ。わたしにだってバイオリニストになるって夢があるの。世界を破滅から救うなんてばかばかしいこと、やってられないわ!」


優雅な仮面を脱ぎ捨て、鋭い目つきでにらみ返す別人のようなみちるに、はるかは驚きの表情を浮かべる。



晴れた日のサーキット。レーシングスーツ姿のはるかは、うめき声を耳にしガレージに入った。そこでは制服姿の少年が苦しげにしゃがみこみ、助けを求めていた。


はるかは慌てて駆け寄るが、少年の背中は急にふくらみ、見る間にたくさんの牙を持つ巨大な怪物に変化した。はるかは後ずさり、近くにあったバールを手に殴りつけようとしたが、先ほどの少年の面影がちらついて躊躇する。その隙に怪物に突撃され、壁に叩きつけられる。


怪物は鋭い牙をむき出し、床に座りこんだはるかに襲い掛かる。その瞬間、怪物とはるかの間に光が発生し、光の中から変身ロッド(セーラー戦士が変身に用いるスティック)が生成される。茫然としながらもそれに手を伸ばすはるか。


「だめよ!」


鋭い声に我に返ったはるかは手を引っ込め、ロッドは光を失い床に落ちてガレージの隅にまで転がった。はるかと怪物は声の方向を振り返る。そこには制服姿のみちるがいた。


「それを手にしちゃだめ。一度手にしたら、もう二度と、普通の生活に、戻れない」


苦しげに言うと自らのロッドを取り出し掲げるみちる。みちるは光に包まれ、はるかの幻影に出てきた戦士・セーラーネプチューンに変身した。


ネプチューンは向かってきた怪物を殴りつけ、巨大な怪物は粘液を流しながら壁に激突する。澄ました顔で体勢を立て直し、怪物を見下ろすネプチューン。


「だめだ、こいつはさっきまで人間だったんだぞ」


はるかは棚の下敷きになった怪物の前に駆け寄る。


「君は平気なのか? 人殺しなんだぞ!」


「沈黙が迫っている。こうしなければ更に多くの犠牲者が出るわ」


「だから手段を選ばないと言うのか?」


「そうよ、わたしは手段を選ばないの」


「君はそれでも……」


その時、怪物が起き上がり、背後からはるかに襲いかかった。ネプチューンははるかに飛びついてかばい、怪物の牙に背中と左腕がざっくり裂かれるが、力を振り絞って必殺技・ディープサブマージを怪物に放つ。怪物は少年に戻り、ネプチューンはその場に崩れ落ちる。


ネプチューンが目を覚ますと、床に膝をついたはるかに抱きかかえられていた。


「怪物は?」


うつろな目で尋ねるネプチューン。


「元の人間に戻ったよ。大丈夫だ」


穏やかな声で答えるはるか。


「殺していたかもしれない。ううん、次はきっと殺すわ。平気なわけじゃないの。でもわたしは、戦士だから。これを選んじゃったから」


「だったらどうして僕をかばったりするんだよ。手を怪我したらバイオリニストになれないじゃないか」


ネプチューンの負傷した左腕をそっとつかむはるか。


「わたしは、あなたがもう一人の戦士だから、あなたの事を調べたんじゃないわ。あなたがその人だとわかるずっと前からよ。あなたが初めてレースに出た時も、わたし近くで見ていた。一度でいいからあなたの車で海辺を走ってみたかったな」


突然の告白に表情を変えるはるか。ネプチューンははるかを見つめて続ける。


「あなたは誰にも甘えない人、そしていつも自分の気持ちに素直な人」


「僕は素直なんかじゃない、逃げてばかりだ」


「わたしはあなたのことをあなたよりよく知っているの。だって、ずっと見てたんだもの。あなたにだけはわたしと同じ道を歩んで欲しくないの。でもあなたが、その人だとわかった時、あたしうれしかったな」


ネプチューンは幸せそうな笑みを浮かべるが、傷が痛み出したのか苦しげに顔をゆがめ、目に涙をためた。


「ごめんね。こんなこと話すつもりなかったのに。ごめんね」


ネプチューンを抱きかかえたまま、引き締まった表情でガレージの隅にあるロッドを振り返るはるか。



***



場面戻って、白樺高校。


「お仕事のようね」


木陰からエルザたちを見つめるはるかの背後から涼やかに言うみちる。


「ああ、行くよ、みちる」


ロッドを握る手に力を込めるはるか。


「よくってよ、はるか」


同じくロッドを掲げるみちる。二人はウラヌスとネプチューンに変身し、見事な連携で敵を倒す。


結局、エルザの純粋な心の結晶はタリスマンじゃなかったことがわかり、エルザが意識を取り戻したのを見届けて二人は背を向け去ってゆく。


夕暮れに染まる海辺を黄色いオープンカーでドライブするはるかとみちる。はるかは心の中で呟く。


〔そして僕は、この道を選んだ。いや、自分がセーラー戦士であるという単なる事実を認めただけだ。そう、僕は世界を救うメシアを探さなきゃならない。立ち止まる事は許されない戦いの日々、だけど〕


みちるの横顔を見ながらはるかは独りごとのように言う。


「君に会えてよかった」


その言葉は潮風にあおられ、みちるは髪をかき上げて聞き返す。


「このままずっと二人で走ろう。今夜は帰さないぜ」


「まぁ」


空と海の境目もわからないほどの夕日の中、二人は笑い合う。



【以上、粗筋終了】



ああ、楽しかった…… セーラームーンを知らない人のために粗筋をと思ったけど、結局自分のためだったよ。台詞を一つ一つ書き起こしているうちに、ますます106話が好きになった。


しかし途中10年もブランクがあったのに、大体の台詞と映像を脳内再生できた事に自分で驚く。もちろん細かい台詞なんかは、後でDVDを見て確認したけど。


いろいろ語ろうと思っていたのに、粗筋だけでおなかいっぱいになった。とりあえず今日はこのくらいにしておこう。感想などはまた後日に。