「絵本の旅-グリム、世界の昔話、ゆかりの作家と神戸の出版文化」 | つながっていこう~オンライン版絵本で支援プロジェクト【公式ブログ】

こんにちは。
今月の「絵本めぐり旅」は京都のくぼちゃんが担当します。

今回は、神戸市立小磯記念美術館で開催中の「絵本の旅-グリム、世界の昔話、ゆかりの作家と神戸の出版文化」(主催:神戸新聞社など)を訪れました。この展覧会は9月23日まで開催されています。

 

 

 

神戸の出版社であるBL出版(神戸市兵庫区)8月に創立50周年を迎えました。同社はこれまでに1500点を超える絵本を刊行しており、その節目を記念して、これまで刊行してきた絵本の原画を特別展示しています。展覧会では、兵庫にゆかりのある絵本作家33名の原画や資料、計220点が展示されています。テーマごとに5章に分けられた展示は見応えがあり、どの原画も細部にまで目を凝らして見たくなるほど繊細なものばかりでした。

その中から特に印象に残った原画の絵本をご紹介します。

 

第1章 珠玉の絵本原画

~能、バーナデット・ワッツ、ガブリエル・バンサンの世界~

 

『くまのアーネストおじさん まいごになった セレスティーヌ』

作・絵: ガブリエル・バンサン 訳: もり ひさし
BL出版 1985年

アーネストが名画に夢中になっている間に、セレスティーヌが迷子になってしまいます。しぐさや表情に温かみがあって、アーネストとセレスティーヌの関係性がすごく伝わってきます。水彩とインクで描かれ、世界の名画が登場します。

 

 

『アンジュール ある犬の物語』
作: ガブリエル・バンサン
BL出版 1986年

犬が走っている車から投げ捨てられ、必死に車を追いかけるも、次第に遠ざかっていきます。文字はなく、鉛筆だけで描かれた絵から、孤独な犬の心理状態がよく表現されています。この作品は、絵本の原点として高く評価され、小学校の教科書にも紹介されています。バンサンは、美術学校で絵画を学び、長期にわたりデッサンに専念しました。ビアトリクス・ポターの影響を受けているそうです。

 

第2章 自分の力を信じる

~今も昔も、世界の子どもたち~

 

『コーベッコー』
作: スズキ コージ
BL出版 2017年

神戸在住のスズキコージさんからのコメントがありました。「コーベッコーと朝日を浴びながら歌う風見鶏が、神戸の街が喜びの解放区になりますようにと願っている絵本です」とのことです。神戸にゆかりのあるものが登場し、とてもエネルギッシュで情熱的な絵でした。

 

第3章 あたまはたらかせて

~いきもの、お仕事いろいろ~

 

『アリのメアリ』
作: いわた まいこ
BL出版
 2022年

アリのメアリがうっかり居眠りをして姉さん達とはぐれてしまい、さまざまな生き物達に尋ねながら再び会うまでの冒険が描かれています。どのページも淡い色調で繊細な切り絵で表現されています。生き物達の輪郭を浮かびあがらせ、昆虫の手足や花びらの一枚一枚にまで動きが感じられ、いわたまいこワールドに引き込まれました。

 

第4章 自分の居場所、異形の力

 

『ミリーのすてきなぼうし』

作:きたむら さとし

BL出版 2009年

ミリーが帽子屋さんで素敵な帽子を見つけますが、お金を持っていないため購入できません。帽子屋さんが持ってきてくれたのは、想像のぼうしでした。それぞれの帽子が魅力的な世界を持っていることが伝えられています。国語の教科書に掲載されています。きたむらさんはコメントで、「”想像力”や”空想力”がとても大事だと思っています。絵本は、そうした力が自由に活躍できる不思議な場所です。」と書かれていました。

 

 

ひとつぶのえんどうまめ
作・絵: こうみょう なおみ
BL出版 1998年

えんどう豆がさやからはじけ、一粒の豆が転がりながら旅をする物語です。作者のこうみょうなおみさんは、幼いころから絵を描くことが大好きで、高校時代の絵本の授業をきっかけに絵本作家を志しました。目の病気を患っている矢先、1995年の阪神・淡路大震災の混乱の中で失明しました。けれど、あきらめずに絵の勉強を続けました。このバリアフリー絵本は、作者自身の体験を通じて、多くの子ども達や視覚に障害のある人々に絵の楽しさを伝えようと制作されました。絵本では、針金で形をとった原画の創意を生かし、特殊インクを使用して絵の輪郭が浮かび上がるようになっています。

 

第5章 わたしたちの大切な暮らし

 

『やくそくするね。』
作: 杉本 深由起 絵: 永田 萠
BL出版 2002年 

ノリコは小学2年生。5年生のケンイチは阪神淡路大震災当日の1月17日、愛犬チロとともに新聞配達に出かけた際、崩れた瓦礫の下敷きになって亡くなります。その年のルミナリエで、ノリコはある決意をします。

この絵本は神戸にとって大切な作品です。優しいタッチでありながら、迫り来る炎や瓦礫に埋もれた街がリアルに描かれています。まだ人々の心や街に震災の傷跡が残るころに描かれました。永田萌さんは、復興の象徴であるルミナリエの光の粒一つ一つに、カラーインクで祈るような想いで色を入れられたそうです。

 

細やかな描写と深いテーマを通して、絵と言葉が織りなす豊かな世界の魅力を感じました。絵本というメディアの奥深さとその可能性を再認識できる展覧会でした。
 

「絵本の旅」の後、小磯良平の芸術に触れる

 

3つ目の展示室では、小磯良平の作品が展示されています。美術館の中庭には、40年間使っていたアトリエが、当時のまま移築・復元されています。平日の午後2時からは、アトリエの解説も行われます。床には絵の具が散らばり、洗われていないパレットには絵の具が山のように盛られていて、小磯良平がそこにいるかのような雰囲気です。彼はコーヒーが好きで、使っていたコーヒーミルもそのまま置かれており、マネを好んで先人たちの絵をアトリエの壁に貼っていた様子も再現されています。まるで小磯良平が今もそこにいて、絵を描いているかのような空気感が感じられました。