しゃもじい体験  / Guest Writer:もりぞーさん | つながっていこう~オンライン版絵本で支援プロジェクト【公式ブログ】

             

 

ZOOMの画面を覗き込んで、「ふーっ」と息をつく。 画面の中の自分は少し緊張している。自分が読みやすいように画面の外に絵本をセットして姿勢を正す。 

 

「しゃもじいさん。あかね書房、かとうまふみ作」

 

本のタイトルを声に出して、私の5分間の冒険がはじまった。

 

              

 

 「しゃも しゃもしゃもしゃも」 

 

低く、しわがれた声はちょっといじけてチカラがない。 画面の向こうでオンライン食育部部長のゆうゆうがズームアップされた絵本をめくってくれるから安心だ。「食育をテーマにした絵本会をやるから読み手になってね」1週間前に司令が来て慌てて本を購入した。

 

コロナ感染防止の緊急事態宣言が出て、おとなの社会人大学院で学ぶ仲間と全国で絵本の読み聞かせを行っている仲間がコラボすることになった。家で巣篭もりししているお子さんを笑顔にするプロジェクトをはじめたのだ。突然私にも出番が巡ってきて、なんと絵本の読み手になっている。

 

 しゃもじの「しゃもじいさん」 働き者だったしゃもじいさんは、長く働いてきて最近はめっきり仕事がなくなった。(そういえば俺も来年は定年退職だな・・・) 新しい活躍の場を求めてしゃもじいさんは旅に出た。道ゆく先で、ちょっと壊れて使われなくなった皿や椅子、鍋に出逢う。夜の街で出逢った行き場のない道具たちは、みんな下を向いてうつろな目をしている。 揃って活躍の場を探しに行くものの、行けども行けどもどの家ももので溢れていて、新しい居場所はどこにもない。月明かりだけが、道具たちをしずかに照らすだけ。 

 

ZOOMの画面越しに女の人が大きくうなづいて聴いてくれている。最初気難しそうにしていたから気になっていたのだ。背景の本棚には本がいっぱいだ。何をやってる人だろう。視線を横にずらすと子どもたちが「なにがはじまるんだろう」と真剣に目を凝らしている。

 

 しゃもじいさんたちはたどり着いた小さなお寺で、最後の望みをかけてお願いする。 「こんな壊れた汚いモノ、使えんわい・・・」 おしょうさんがぼそっとつぶやいた一言で、道具たちの怒りは爆発する。

 言っちゃいけないことを言っちゃいけないんだよ。普段おとなしい人が切れてしまうのはあるあるなのだ。 

 

私は、机の下からあるものを取り出し、画面に見えないように力を入れて叩いた。

 

 カンカンカンカン、カンカンカンカン★ 

 

     

 

用意していたフライパンをカレースプンで けたたましい音を鳴り響かせ、大きな声でしゃもじいさんたちの怒りを音と言葉で吐き出した。 

 

ZOOM越しの顔が驚きで弾けた。

そして笑い顔。みんな腹を抱えて笑っている。 

 

「ひゃー、たすけてくれ〜」 

怒りで化け物になったしゃもじいさんたちが、おしょうさんを追いかける。

 「待ってください。修理をさせてください」

凛々しい顔の小僧さんが登場して、道具たちは壊れたところをろを直してもらい、働けることに。 めでたしめでたし。 

 

オンライン絵本会は大人も子供も集って作られる安全安心な場である。 安全安心な場に驚きが加わると笑いに変わる。はじめて絵本の読み手になって、演劇部だった小学生の自分に還った。いたずら小僧になった私は、意外な小道具をどう使うか考えるのが楽しかった。

 

 その後、オンライン絵本会のイベントに参加すると、私はZOOM越しに見しらぬ人から笑顔を投げかけられるようになった。それから、満面の笑顔で

「しゃもじい、こんにちは〜」

と声をかけられるのである。 

絵本会から一年経ったいまも、私は「しゃもじい」と呼ばれている。

 

            

 

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           『しゃもじいさん』
           作:かとう まふみ
           あかね書房   2012年