2023年マイベスト映画10選(25選) | 「道草オンラインマガジンonfield」[別館]

「道草オンラインマガジンonfield」[別館]

個人HP「道草オンラインマガジンonfield」の別館です。独自ドメインの本館は2024年中に閉鎖予定です。良かった映画の感想はFilmarksにまとめています。https://filmarks.com/users/RockingOnfield

2023年は多忙な時期とヒマな時期が斑(まだら)の状態だったので、コンスタントに映画鑑賞できたというよりも、集中的な固め打ちのような状態でありました。それでも劇場での映画鑑賞は合計で106本、その他ネット配信やビデオでの映画鑑賞は6本と、まずまずのペースでした。「オッペンハイマー」公開決定ありがとう、と叫びつつ、今年のセレクトを。例年のようにベスト10+15本です。女性主演の映画が多いですね。そして僕はやっぱりファンタジーが好きなんだなと自覚した年でもありました。

各映画のコメントは、鑑賞後にFilmarksに書き込んだレビューの、ほぼコピペです。

 

●映画10選●

 

1「PERFECT DAYS」

Perfect Days(日本) ヴィム・ヴェンダース監督

公共トイレを丹念に掃除するというルーチンな日々を過ごしつつ、100円の文庫本と名盤のカセットを愛し、ささやかな酒を楽しむ平山(役所広司)。鑑賞直後は、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の一節が不意に浮かぶような、貧しくも清く生きる平山のライフスタイルへの共感に満たされていただけですが、これは「人生の選択」を巡る物語ではないかと、後から気づきました。
後半、運転手付きの高級車で彼の妹が平山を訪ねてきます。おそらく平山は、オーナー社長の長男(跡取り)などの宿命をもって生まれたのではないかと思えます。でもその宿命をきっぱりと捨てて、父親とは真反対の、今の静かな日々を選んだのではないか。そのことに気づいてから、この作品がとても愛おしい作品に思えてきました。

彼が住むうらぶれたアパートの向こうに聳えるスカイツリーは、かつての自分の宿命、あるいは父親を象徴しているのかもしれません。それを眺めつつも、今の生活を愛おしく思いながら自転車を漕ぐ平山の日々は、まさしく「Perfect Days」。自分の人生は自分が選択するということ。そして自分の人生を選択した平山に、仄かな羨望を抱いてやってくる姪っ子。
さらに想像をたくましくすれば、過去を捨てた平山と、過去を悔いる男(三浦友和)との影踏みは、過去という影を弔う者どうしの戯れごとにも思えてきます。
そんなことを考えると、つくづく、隅々までよくできた作品だなあと感心させられます。役所広司も素晴らしいけど、三浦友和もまた素晴らしかったです。

 

2「ベネデッタ

Benedetta(フランス、オランダ) ポール・ヴァーホーヴェン監督

かつて現人神が崩御したときに魂が降りてきた(お告げが与えられた)と言い、新興宗教の教祖になった人が何人かいます。それは一種の神話として確固たるエピソードとなり、たとえ科学的な証明はできなくとも、実際に起きた出来事として語り継がれ、信仰を集めていくー。

主人公のベネデッタもまた、イエス・キリストの妻に認められたと認識し、キリストの声が聞こえる、代弁できる能力を宿していきます。そこには嘘くささ、ペテン師臭さもあるのだけど、説得力もあったりして、その虚実ないまぜの具合がとても絶妙です。圧倒的な存在感を見せるベネデッタ、親から逃れてベネデッタに救われる野趣な娘・バルトロメア、そして神の声が聞こえなかった元・修道院長、修道院長に就いたベネデッタをペテン師と睨む元・院長の娘、などの人間関係もまた味わいどころ。

レズビアンが罪とされていた17世紀、ベネデッタは神の声を代弁して修道女や民衆の支持を得、バルトロメアとの密やかな秘め事も続けていくわけですが、その自由奔放さ、強靱さ、人間としての生々しさが、現代社会に響いてくるポイントかもしれません。正義を振りかざして町に乗り込んで来た教皇大使がもたらしたものは何だったか、このへんは観客の溜飲を下げるエンタメ感として効いています。

聖なる部分と性なる部分、清濁併せ呑んだ痛快エンタメ作。キリスト教に詳しくないと楽しめない小難しい作品かも、と思っていたけど杞憂でした。

 

3エンパイア・オブ・ライト

Empire of Light(英国、米国) サム・メンデス監督

予告編を見た限りではテーマがよく分かりませんでしたが、意外なドラマ展開に唸りました。サッチャー政権下の1981年という時代、人種差別、性差と父権、ハラスメント、心の病とケア。複数のテーマを扱いながらも、光の帝国たる映画と映画館が全てを包容してしまう秀作。

複雑な心の揺れを見事に演じきったオリヴィア・コールマンの演技が絶品でした。映画(館)好きは是非観るべき作品です。映像も美しかったですね。そして数々の挿入歌もさることながら、オリジナルスコアの音楽(Nine Inch Nailsのトレント・レズナー)も良かった。イギリスの南東部、海辺にある映画館を、一度訪ねたくなりました。各種「映画ベスト」の類では全く登場しませんね(苦笑)。


4「TAR/ター

TÁR(米国) トッド・フィールド監督

ズバリ、ケイト・ブランシェットをひたすら楽しむ作品でした。とくにアコーディオンを弾きながら歌うシーンなんて最高だった。オーケストラの迫力、チェロの音色も素晴らしかったですね。

あちこち意味が解せないシーンがあって、とくにラストシーンは「これ何ですか?」のハテナ状態で終了。エンドクレジットで登場する、某撮影ユニット名にも「これ何ですか?」のハテナマークが…。ゲームをやらないので全く気づきませんでしたが、帰宅してからハッとしました。そうか、権力をモンスターに喩えたということか(そして客席で睨むように座っていた面々はモンスター・ハンターのキャラクターたちなんだろう)。

冒頭から少々専門的で小難しい台詞の応酬があって、ちょっとしんどいなあ、とも思っていたのですが、あれは主人公の知性の高さ、地位の高さ、鼻持ちならない感じ、権力者としての佇まいを印象づける意味合いだったのかな。終わってみればいろいろ納得する部分もあって、帰宅して謎解きするまでが鑑賞タイムだと感じました。

 

5「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」

She Said(米国) マリア・シュラーダー監督

Metooというハッシュタグワードの軽やかさの背景にあった、あまりにも深い暗闇。二人の女性記者をヒーローに仕立てあげることに終始するのではなく、勇気を振り絞って証言をした人々、二人をサポートし続けた新聞社スタッフ(編集長、デスク、法務担当、広報担当といったところか)、陰で支える家族にも焦点を当てているところが良かったと思います。それにしても、巨大な権力はここまで人を狂わせ、屈強に根を張った隠蔽システムを構築してしまうのかと唖然としました。

アメリカ社会は辛うじて民主主義が保たれていると見るべきか。健全と不健全が両立した社会と見るべきか。たぶん、その両方なのかもしれません。

PS)後付けですが、ジャニーズの問題が出てきたときに、たびたびこの映画の記憶が再生されましたね。

 

6「ゴジラ-1.0」

Godzilla Minus One(日本) 山崎貴監督

「死ぬな、生きろ。」シンプルなメッセージが心を衝く、素晴らしい作品でした。監督の過去作から「どうせ、戦後復興の日本万歳」の映画だろうなと消極的でしたが、良い意味で想定外でした。戦後間もない日本を取り巻く状況をうまく落とし込んだ脚本もよくできており、あちこちに現代社会に通じる辛口な言葉も散りばめられていて、意表をつかれました。当時考え得るであろうアナログなゴジラ撃退方法も現実味があって、ニヤリニヤリの連続、思わずのめり込みました。

ゴジラ映画にはこういうのを求めていたんだよ、ということを改めて感じさせてもらいました。ほんの一部、残念なところはありましたが、満点に近いです。各国でヒットするのではないでしょうか。次回作は「ゴジラ+1.0」かな?

PS)上記は鑑賞直後にFilmarksに書いたレビューのコピペですが、全米では予想以上にヒットしているよう。

 

7「アウシュヴィッツの生還者」

The Survivor(カナダ、ハンガリー、米国) バリー・レヴィンソン監督

ドイツ兵たちを楽しませる余興として行われたユダヤ人捕虜たちのボクシング、そこで勝ち続けた結果、命を長らえた男の物語。

という前知識だけで観に行きましたが、幾重もの過酷さが描かれていて、想像を絶する物語でした。映画そのものはモノクロとカラーを使い分けたり、最低限の説明台詞で補われていて、とても分かりやすかった。そして、サバイバルを果たした男に、戦後、幸せが訪れる…。

このあたりでエンディングなのかと思いきや、そこから一回りも二回りも秘められた話が出てきて、自然と熱いものが頬を伝わります。

ユダヤ人の根絶を目論んだヒトラー政権の過酷さは様々な視点で幾度も映画化されていますが、そのなかでも上出来の作品と感じました。

 

8「パリタクシー」

Une belle course/Driving Madeleine(フランス) クリスチャン・カリオン監督

うだつの上がらない中年タクシー運転手が、高齢の婦人を乗せ、彼女から聞く人生語りがキッカケになって、自らの生き方を見つめ直していく映画。

…という想像だけはしていました。凡庸なほのぼの映画だろうからと先延ばしにしていたのですが、本当に観て良かった。想像は当たっていたといえば当たっていたのですが、想像の遙か斜め上を行く物語の展開に、終始引き寄せられ、どんどん楽しくなっていき、そして最後には…。

最後のオチも想像はついてしまうし、できすぎたファンタジー映画という印象もありましたが、思いがけずたっぷりと涙を振り絞られたので高い得点にしておきます。ダイナ・ワシントン、エタ・ジェイムスの曲も印象的でしたね。

 

9「ジョン・ウィック:コンセクエンス」

John Wick: Chapter 4(米国) チャド・スタエルスキ監督

一級のアクションエンタメ作品に唸りました。ここまで凄いとは驚いたし、満足度が100%です。ひと晩たっても余韻が抜けません。

もともとは応援しているミュージシャン、Rina Sawayamaの映画デビューを祝福するつもりで観に行っただけですが、シリーズを重ねていた作品ならではのレベルの高さに納得です。

大阪を舞台にしたアクションシーンだけでも見応えがありましたが、まあやっぱりフランスですね。なかでも凱旋門の周囲で繰り広げられたカーアクション込みの展開には目が釘付けに。その上に決闘場に辿り着くまでの寺院の階段、そして決闘のシーン。ああ面白かった。その一言に尽きます。

 

10「私がやりました」

Mon crime/The Crime Is Mine/My Crime(フランス) フランソワ・オゾン監督

テンポの良い会話劇。芸達者な役者さんたちが脇を固めていて、終始ニヤニヤが止まりませんでした。犯罪を犯して「可哀想な女性たち」という世間の同情を惹くことで成り上がっていく、言い方を変えれば同情を買うことでしか成り上がっていけなかったという風にも受け取れ、当時の女性が置かれていた立場が説教臭くなく伝わってきて、風刺の効いたシャレオツなコメディと感じました。

ともかく台詞の応酬(脚本)が面白い。そして、最後に全てをさらっていくイザベル・ユペール。芸の幅が実に幅広い! いやあ痛快でした。

 

●その他お薦めしたい映画15本●

 

11「すべてうまくいきますように」

Tout s'est bien passé/Everything Went Fine(フランス、ベルギー) フランソワ・オゾン監督

尊厳死がもちろん主題ではあったでしょうが、それにも増して、半世紀を経てきた家族の歴史が絶妙なバランスで描かれている点が秀逸だと思いました。父と母の関係、父と母親方の家族との関係、父と長女、父と次女、長女と次女、それぞれ異なる色彩や濃淡をもった関係性が見えてくる。一筋縄ではいかず、互いへの確執や愛憎をも抱え込んでしまった家族の物語、そんな家族の肖像を描くこと。そこにこそ、もう一つの主題があったのではないかと思えてきます。

それはさておき、昨年にスイスで尊厳死を選んだ巨匠・ゴダールの話題が頭をよぎりますね。本人の意思を尊重する、と言葉で言うのは簡単ですが、そこには残された家族の苦しみや慟哭がつきまとってしまう。このことを改めて教えられた作品でもありました。

ちなみに、鑑賞する人の年齢によって感じ方はいろいろでしょう。もっと若い頃なら長女の立場に強い思い入れを持ったでしょうが、今回は父親本人の目線で鑑賞しました。同様の選択ができるものならしたいと思います。それを手伝ってくれる娘はいませんが。。

誰かと語り合いたくなる、とても丁寧な作品でした。

 

12「怪物」

Monster(日本) 是枝裕和監督

坂元裕二さんの脚本は『花束みたいな恋をした』でもそうだったけど、とてもテレビドラマ的なムフフな台詞が多く、『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫』では、いかにも「良い台詞でしょ」と言わんばかりのドヤ顔台詞が多くて、面白いけど映画的にはどうかな、と思っていました。でも『怪物』では構成の見事さや、各シーンでの的確な台詞が際立っていて、画の作り方が巧い是枝監督との相性が、意外なほどに合っていたので驚きました。

現代的かつ普遍的なテーマがいくつも散りばめられており、事実上の主役である子役2人が抜群に巧い。そのほかの役者さんもいかんなく個性を発揮していて完成度が高かったと思います。

国民全員から集中砲火を浴びせるような「怪物」を作らせない社会…。坂元さんと是枝さんならではの、優れた着眼だと思いました。

 

13「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」

Simone, le voyage du siècle/Simone Veil, a Woman of the Century(フランス) オリヴィエ・ダアン監督

ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)のフランス版かな、くらいの軽い気持ちで鑑賞しましたが、その壮絶すぎる生涯に絶句。そして今では当たり前とも思える、女性や虐げられてきた人びとの人権や生存権、そして尊厳を守るための勇敢な行動の数々に魅せられました。当初は家庭にとどまることを主張していた夫も彼女に理解を示していく、その変化も嬉しく思いました。

中絶禁止を撤回させた部分は映画「あのこと」ともリンクしますね。それにしても、いい歳をして世界史を知らなさすぎる自分に呆れたということも添えておきます。

 

14「エゴイスト」

(日本) 松永大司監督

LGBTQを否定するつもりは全くないし、同性婚も認められて然るべきと考える立場ですが、男性同士の性愛シーンとなると、正直言ってあまり見たくないという心境がありました。いわゆるBLものの映画やドラマも苦手。件の首相秘書官と同類に見られたくはないけど、僕にも深層心理の部分で共通する根っ子はあるのかもしれません。

以上は前書きですが、それにしても「エゴイスト」で描かれた男性同士の恋愛は、互いのアイコンタクトや細やかな所作も含めてとても自然で素敵に思え、恋愛関係にある2人の幸福感で満たされた感じがします。それは鈴木亮平さん、宮沢氷魚さんの演技力、そして監督さんの演出、LGBTQインティマシー・コーディネーターやインティマシー・コレオグラファーの皆さんの努力の賜でもあるのでしょう。その点にまずは最大級の賛辞を贈りたいです。

ゲイライターのサムソン髙橋さんが「女子SPA!」の映画評で「日本のゲイ映画としてはひとつの到達点、あるいはスタート地点になるのは間違いないだろう。」と書いてらっしゃったけど、これについても激しく同意します。

愛は身勝手。それは永遠の真理かもしれない。阿川佐和子さんの自然体の演技にも感服。これは助演女優賞レベルでしょう。

 

15「福田村事件」

(日本) 森達也監督

役者さんたちの熱量にただならぬものを感じた作品でした。森達也監督がこの企画を通したいと粘り強く取り組んだこと、そして今の時代と社会を覆っている空気が近しい100年前の出来事を、いま発掘して映画化することの意義深さ、それについては全くもって敬意しかありません。点数は以上によるものです。

ただ劇映画が初めてということもあるのか、あちこちで凡庸な台詞とか絵面を感じたのも確かです。

役者さんでは東出昌大さん、田中麗奈さん、コムアイさん、井浦新さん、永山瑛太さんのお芝居がとても印象的でした。皆さん、この企画に賛同され、ぜひ出演したいと願った方ばかりだと思います。それは画面から強く感じられました。

こういう過去の汚点を炙り出す映画作品、もっともっと日本で作られるべきですね。

 

16「花腐し」

(日本) 荒井晴彦監督

原作のエッセンスを受け継ぎながらも、自身に引き寄せた荒井晴彦ワールド全開の本作。ロマンポルノやピンク映画への愛憎。シナリオを書くということ。映画を作るということ。往時の時代と共にあった山崎ハコ、山口百恵。……全てが懐かしくて、愛おしくて、切なくて、気づいたら泣いてました。
個人的なカラオケの定番「さよならの向う側」を久しぶりに歌いたくなりました。

 

17「ティル」

Till(米国) シノニエ・チュクウ監督

試写会にて拝見。恥ずかしながら「エメット・ティル事件」は映画のチラシで初めて知りました。詳細はWikiで知ることもできますが、些細な出来事から南部で黒人少年がなぶり殺しに遭った事件です。息子の死をムダにはすまいという母メイミーの逞しい行動が、やがて公民権運動のとっかかりにもなっていくという、歴史的な転機ともなった出来事。凄惨な映像は控えめに抑えて、メイミーの表情から全てを想像させるところが凄まじく、それに応えたメイミー役、ダニエル・デッドワイラー迫真の演技に魅せられます。

キング牧師やマルコムXを描いた映画、ワシントン大行進を描いた映画、ビリー・ホリデー関連映画、そしてブラック・ライヴズ・マター関連の映画など、いくつもの点と点が結ばれ、黒人差別の問題、黒人だけに限らないヘイトクライムの問題に、確かな視点をもたらしてくれます。歴史から現代の社会課題を学び取るにも格好の作品だと思います。ただ、正直に言えば、もう少しメイミーの奮闘ぶりを見たかった、という印象も。そこだけが心残りです。

些末なことながら、メイミーの出で立ちがともかく格好良い。ラストの眼鏡フレームも含め。

 

18「CLOSE/クロース」

Close(ベルギー、オランダ、フランス) ルーカス・ドン監督

親子、兄弟姉妹といった定義しやすい人間関係の枠から飛び出し、家族の外にさまざまな濃淡の人間関係が次々と生まれていく13歳。カテゴライズしにくい関係を、他人は分かりやすく定義・整理しようとします。その他愛もない問いかけが、時には刃物にもなる。

レオにとっては、ただの親密な友人だったように思えます。レミは、それ以上の恋愛感情を抱いていたのかもしれません。本人たちにも巧く説明はできないでしょうし、思春期特有の微熱のなかで、時間を経て微妙に変化するのかもしれません。ただ、レミのお母さんは全てを察したのでしょう。その上でレオを抱きしめたのでしょう。そう思いたいです。

ルーカス・ドン監督は「Girl/ガール」同様、主人公の表情をアップで執拗に追いかけます。表情のなかに潜む感情の渦巻きを映し出すために。

ふと、新婚の親友宅に遊びに行った際、奥様から「あなたたちは、おホモだちなの?」と問いかけられて激怒した日を思い出しました。

 

19「バービー」

Barbie(米国) グレタ・ガーウィグ監督

「バービー」が映画化されると知り、ピンク一色の予告編を見た時点では「絶対に観ないだろうな」と思っていましたが、その後の噂を聞くにつれ、「絶対に観たい映画」になりました。

まずは冒頭のシーンで、胸ぐらを鷲づかみにされますね。「ただのキュートで可愛いお人形のお話ではないよ、覚悟はいい?」と宣戦布告されたような気分で、期待が高まります。

絵に描いたようなバービーランドと現実社会を行き来するなかで、主人公の目線を通じて、人間という実にややこしい、一筋縄ではいかない存在が対比的に描かれます。そして、バービーランドでは各界の第一線で女性が活躍しているのに、現実社会では全くその逆。このあたりは笑いも交えたピリ辛の風刺が効いていますが、とくに、「女性はかくあるべし」という目に見えない圧力に抑圧されてきた鬱憤を長い台詞に詰め込んだ、あのシーン、そして生みの親との会話がとても印象的でした。

 

20「茶飲友達」

(日本) 外山文治監督

「高齢者の性」というタブーに挑む、という側面は確かにありますが、繋がりやすく離れやすい疑似家族と、離れたくても叶わない家族、その対比が巧妙な意欲作と感じました。

「自分の孤独を他人の孤独で埋め合わせてるだけだろ」。最後の方に出てくる台詞は全くその通り。でもだからこそ、疑似家族に救われる人がいる。主演の岡本玲さんが出色でした。

 

21「ちひろさん」

(日本) 今泉力哉監督

Netflixで鑑賞。全てを包み込む母性のような映画ですね。不登校学生にとってのフリースクールのような映画、実家から逃げ出して田舎のお爺ちゃん・お婆ちゃん家に遊びに行くような映画という印象も。

「今以上に素敵な人にはならない」「もがくと沈む。ジタバタしないでいると浮き上がる」など、素敵な台詞も随所に。

 

22「To Leslie トゥ・レスリー」

To Leslie(米国) マイケル・モリス監督

アルコール依存症の女性をリアルに演じた、アンドレア・ライズボローのお芝居にともかく感嘆。これだけでも観る価値がありますが、当事者を抱え、機能不全に陥った家族には直視できない作品かも。

アルコール依存症の妻を救うために教会に行かせ、果ては牧師に寝取られてしまった男の登場はファンタジーですが、これで救われます。

 

23「ジェーンとシャルロット」

Jane par Charlotte/Jane by Charlotte(フランス) シャルロット・ゲンズブール監督

カメラという道具を使うことで母ジェーン・バーキンと向き合い、対話を深めることを試みた、娘シャルロット・ゲンズブールの初監督作品。

一見、撮りためていたホームビデオ、二人の日常会話を編集しただけの作品かと思いきや、終盤に向けて母の生涯や人生観、過去の苦しみが明かされていき、対話の深まりから様々な思いが喚起されていく構成は見事で、16mmフィルムの映像も効いています。そして、老いた母親の皺やシミを執拗に写し取る娘から、母の生き様を残しておきたいという強い執念を感じ取りました。

たぶん若い頃にこの映画を観ていたら、「凡庸で退屈」と寝ていたでしょうが、前期高齢者の僕にとっては、感じ取る部分が多い作品でした。

 

24「ほかげ」

(日本) 塚本晋也監督

舞台挨拶付きで鑑賞。小さな予算規模の映画ながら、終戦直後の生々しさが、そこに生きながらえた人びとを通して描かれています。空から焼夷爆弾が雨のように降り注ぐ戦中、そして戦場で飢えに苦しみながら命を落としていった戦中も悲惨ですが、焼け跡に残された人びとの営みもまた、戦争の傷跡の深さを感じさせます。そして、作中に登場する生きながらえた人びとは、名も無き人ゆえに、普遍性も感じさせます。子役の塚尾桜雅クンの眼差しがいい。趣里さんの挨拶が少し関西なまりだったのは撮影真っ只中の「ブギウギ」のせいでしょう。

 

25「マルセル 靴をはいた小さな貝」

Marcel the Shell with Shoes On(米国) ディーン・フライシャー・キャンプ監督

小さな貝・マルセルが、離ればなれになっていた家族との再会を夢見て大冒険に出る。そのストーリーや感涙ポイントもさることながら、制作者の視点や描き方が素晴らしく、そちらに感動を覚えました。

ハチミツでネバネバになった足を利用して縦移動するシーン、テントウ虫のような羽根虫が近づいてくるのを牽制しつつ葉っぱの下でぎこちなく雨宿りを受け入れるシーンなど、制作者たちが日頃から昆虫や動物たちの営み、そのディテールを細かく観察し、愛おしく眺めていたことが窺えて、そこにキュンとしました。

 

●その他●

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」、「ぼくたちの哲学教室」、「ほつれる」、「市子」、「はこぶね」、「星くずの片隅で」も好感をもった作品です。またコンサート映像が大半を占めるという理由からランキング対象から外した「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」、「リバイバル69 ~伝説のロックフェス~」も大いに楽しませてもらいました。

 

●優秀主演俳優賞 オリヴィア・コールマン(「エンパイア・オブ・ライト」)、ケイト・ブランシェット(「TAR/ター」、「バーナデット ママは行方不明」)、ダニエル・デッドワイラー(「ティル」)、アンドレア・ライズボロー(「To Leslie トゥ・レスリー」)、鈴木亮平(「エゴイスト」)

●優秀助演俳優賞 三浦友和(「PERFECT DAYS」)、永山瑛太(「怪物」、「福田村事件」)、佐々木蔵之介(「ゴジラ-1.0」)

●最優秀サウンドトラック 「バービー」