「パラサイト」を楽しむ豆知識2 カブスカウトとモールス符号 | 一松書院のブログ

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 「パラサイト」では、カブスカウトとモールス符号が重要なポイントの一つとして使われている。
 中学生からはスカウトだが、小学生はカブスカウト(컵스카우트:cub scout ちびっこスカウト)。末っ子のダソンは落ち着きがないということで、オンマのヨンギョがカブスカウトに入れた。ヨンギョ自身、その前から「インディアンおたく・・・」だった上、ダソンのスカウトの指導者が「インディアンマニア」。インディアン用品、弓矢とかテントとかかぶり物とかをアメリカのサイトで買い込んでいる。
 日本では、ネイティブ・アメリカンということも多いが、韓国では「아메리카 인디언アメリカインディオン」とか「미국 인디언ミグッ インディオン」が一般的な呼び方。ここでは「인디언インディオン」と言っている。




 ここで、ギウが「カブスカウト精神の元祖はアメリカインディアンなんですよ」と講釈を垂れている。
 ちょっと胡散臭く聞こえるのだが、これは当たっている。
 1910年からアメリカのボーイスカウト連盟の理事長だった博物学者のアーネスト・シートンは、ウッドクラフト・インディアンズという少年団を創設して青少年にアメリカインディアンに倣った野外生活を経験させるキャンプを行なっていた。

 

左側がアーネスト・シートン

 「シンプル」な性格のヨンギョは、カブスカウトとアメリカインディアンのことなど知らなかったにもかかわらず、「まぁ、ケビン先生もカブスカウトだったのね」と感激する。
 「나는 완전 스카우트 체질(僕は完全なスカウト体質)」と答えるギウ。
 ギウは本当にカブスカウトだったことがあるのかもしれない。

 そして、もう一つ重要なこの映画のポイントがモールス信号。韓国語では「모스부호(モス符号)」という。
 もともと電信線の通信はこの「長短の信号」の組み合わせで文字情報を送るものだった。ファックスとかネットによる情報伝達が可能になるまで、ずっとこれが情報伝達の手段だった。
 スカウトで重視されたコミュニケーション手段は、手旗信号とモールス符号。世界中がそうだった。日本でも。



日本のボーイスカウトポケットブック

 ハングルは、母音と子音に分かれていてキーボード入力も早くからできたし、韓国語の「모스부호(モス符号)」は日本語のカナモールス信号よりも文字パターンが少なくてすむ。

 そして、長い間地下室にいたグンセは、モールス符号で階段の照明を点滅させていた。


 グンセが、「リスペクト!!」と叫びながら押していたスイッチの横には、モールス符号の一覧表が貼られている。その古びた一覧表の左上部には、「한국스카우트연명(韓国スカウト連盟)」の文字が入っている。


 つまり、借金取りに追われて地下室に潜んでいたグンセも、スカウト出身だったことを示唆しているのだ。
 さらに、その一覧表では、モールス符号の表記は、「모스モス부호符号」ではなく「모르스モルス부호符号」と表記されている。


 日本語では、Morseは「モールス」と「モース」と2通りある。大森貝塚を発見したのは、エドワード・モース(Edward Morse)なのだが、電信を使った通信手段を考案したのは、サミュエル・フィンリー・モールス(Samuel Finley Morse)と表記される。だから、日本語ではずっと「モールス符号」と呼ばれてきた。


 ハングルでは「모르스モルス부호符号」という表記があったが、これは日本語からの影響であろう。外来語表記法が確立されて以降、「모스モス부호符号」が正しい表記となっている。新聞での使い方を見ると、70年代〜90年代まではむしろ「모르스モルス부호符号」が主流であった。

네이버 뉴스라이브러리より


 この地下室にグンセが貼っていた一覧表では「모르스부호」となっている。
 さらに、グンセのセリフも「아저씨 나이라면 알잖아, 모르스부호!(あんたの歳なら知ってるだろ、モース符号)」.

 ということは、グンセも1970〜80年代にはスカウトだったという設定なのであろうか。
 
 韓国のボーイスカウトは、日本の植民地時代から始まる。解放後、李承晩時代にも引き継がれ、1977年には朴正煕大統領が世界連盟の名誉総裁になり、金鍾泌や崔圭夏なども韓国スカウト連盟の名誉総裁になっている。

右側は金鍾泌キムジョンピル国務総理(1974)大韓ニュース大1005号

 つまり、スカウトはエリートの少年少女組織だった。もちろん、大統領や国務総理に会えるのは一部の選抜された超エリートだけだろうが、そこそこの「良家」の子供でなければスカウトには入れなかった。

 

 2014年のネット相談に、「4年生になった息子がボーイスカウトに入りたがっているが費用はどのくらい?」という質問が出されている。その回答の一つに、「国民学校の頃、スカウトは金持ちの象徴だった」という書き込みがある。


 ダソンがそうであるように、お金持ちの家の子はカブスカウトに入れた。 
 ギウも、グンセも、スカウトだったのかもしれない。となると、彼らにも、そこそこに豊かな暮らしを享受していた時代があったのかもしれない。


 そして、ギテクもまたスカウトだったとも思える。地下室でギウにモールス符号を送っている。


 パラサイトで描かれているのは、今という瞬間の貧富の格差ではなく、韓国現代史の中で動き続けている格差が描かれているのであろう。

 

 


付録

下のサイトに行くと、韓国語(日本語・英語も可)をモールス符号や点字に変換できる。切り替えれば逆の変換もできる。
http://jinh.kr/morse/
モールス符号に変換して何に使えるのか思いつかないのだが、とりあえずご紹介まで。